出勤して先ずは医務室の準備をする。不足品を補充し、寝台の敷き布を新しくする。
「先生おはようございます」
助手、というわけではないが、もう一人の医務室住人が到着した。
太宰卯羅。経歴一切不明の、太宰治の妻。異能力の特性もあってか、医療には少しばかり通じている。
「治さんセット補充させてくださいな」
「おう、佳いよ。あんたも難儀なのに付き合わされてるね」
「昔からですから、慣れました」
包帯を大事そうに撫でて云う姿は、心底惚れていると、其のまま示していた。
「あれでいて、可愛い人なんですよ?」
「あれが可愛いねえ」
敦が社員に加わった夜。非番で叩き起こされた事を思い出した。
「災害指定猛獣よりも厄介じゃないのかい?あれ」
「他の女性とか、軍警の方からしたら、そうかもしれないですね」
其れを旦那にしたんだから、卯羅も相当物好きだ。
「で、アンタはどうなんだい?」
「私です?」
個人的に興味があるのは、お前の方だ。
「妙に此方の分野に詳しいだろ?そういう習いでもあったのかい?」
以前、知り合いの医者がある女の子を引き取ったと聞いた。詳しくは聞かなかったが、医者としては興味深い異能力だと、専ら噂だった。
「個人的に訊かせてくれ。卯羅は何処で其の知識を得た?」
「小さい時にずっと入院してて、其れで」
「随分、物騒な品揃えの医院じゃないかい?」
「確かにそうかもですね。結構重症な人ばかりでした」
その子が触れた学友はいきなり骨が砕けたという。怪力の異能か、とも思うが、其だけでは判断付かない。
「でも、其処の先生が一番慌てていたのは、1回だけですね」
彼女の目の色が遠くを見、ほの暗く陰った。太宰もだが、時たま、過去へ押されるような眼をする。
「とはいえ、其処の先生には感謝しているんです」
「あんたも太宰も、一切昔話をしないからねぇ。どうだい、此処だけの話、どんなヤンチャをしてたんだい?」
「慎ましく暮らしていましたよ。私らなりに慎ましく」
各所でツケを作っている駄目亭主。其れを支える妻。文学に出てくる夫婦みたいだ。
「あんた達みたいな夫婦を、何処かで見たよ」
仕事だ、と亭主の声がする。其れに応えて嫁は駆けていく。嬉しそうに主人の腕に抱きつき、笑う。
「妾も仕事に懸かるかねぇ・・・・・・」