悪戯

今日は何をしよう。そうだ。花火を仕入れた。あの子に仕掛けてやろう。

太宰くんが見当たらない。お休みの日だから、何処かに出掛けたのかな。彼の執務机を片しておこう。何でもかんでも積み上げる。書類は内容毎、筆記具は一ヶ所に。走り書きも散乱する。その中に、今日の日付、時間、場所が記されたものがあった。何故か呼ばれてる気がする。わざとらしい置き方。ただの興味本位で、その場所に向かった。
記載された場所は、港だった。よく仕事で使う場所。
「太宰くん、居るの?」
倉庫の間を覗きながら声を掛ける。ただ、反響するだけ。もう少し海側かな。海と陸の境を歩く。このままお昼寝しちゃいたい。
「やあ卯羅」
岸壁に腰を掛けていると、後ろから声を掛けられた。
「太宰くん居た」
「いいもの見せてあげる」
「何?」
此れ、と輪っかに成った紐を見せてきた。
「これね、花火なのだよ。火を着けると──」
頭の隅で「危ない」と唐突に察知する。岸壁から立ち上がり、逃げられる用意をしておく。着火した途端、それを投げた。足元でのたうつ。私の爪先目掛けて駆けてくる。それも一つじゃなくて二つ。流石に怖くて距離を取る。降ろした場所に支えは無かった。
「まっ」
伸ばした手が太宰くんの黒外套を捕らえた。
「えっ」
そのまま二人で海に投げ出された。
沸き立つ飛沫。一瞬で凡ての音が消える。私の後に少し遅れて無音の世界に来た太宰くん。無意識に彼へ腕を伸ばした。このまま二人で死んじゃうのかしら。光が遠くなる。腕を力強く引かれ、頭を抱えられ、抱き締められた。黒外套がまとわり付く。身体がふわっと。
「っ……はあっ」
こんにちは酸素。
「此方の方からか?!」
銃声がしたと集まる男の声。覗こうとしたら、頭を抑えられた。さようなら酸素。また水の中で二人。
「待っていて」と目だけで告げられる。少し頭を出して陸を確認する。男達は去ったのか、そのまま浮き上がっていく。それに付いていく。先に陸へ上がった太宰くんが手を差し出してくれた。
「嗚呼、吃驚した。君を脅かそうと思ったのに」
「十二分吃驚したから!」
「却説、人魚姫ごっこは終わりにして、戻ろうか」
本当に自分本位。たまにこの先巧くやっていけるか心配になる。海風が吹くと、身体が震える。流石に寒い。もう秋も中盤。一度震えると、止まらない。
拠点に付くと、母様が毛布を黒服のお兄ちゃんに持たせ、立っていた。
「何をしておったのだ?」
全くお前らは、と云いながら毛布でくるんでくれる。暖かい。
「首領がお呼びじゃ。少しは灸を据えてもらわんとのう」
最上階に行くと、首領が神妙な面持ちで待っていた。絶対怒られる。太宰くんの後ろに少しだけ、隠れた。
「毛布はそのままで善いよ。先ずは、暖炉で暖まり給え」
素直に暖炉の前に座する。
「温加加阿でも飲んで。寒くはないかい?」
付いてきた母様が、陶器杯を渡してくれた。じんわり、温度が手に伝わる。
「随分手厚いね、森さん」
「当たり前だろう!何れだけ心配したと思っているんだい、波に浚われたりしたら、どうするつもりだったのかな?」
「私はそれでも善いけど」
「太宰くんはね!いや、太宰くんも駄目だよ!」
温かい加加阿、柔らかいブランケット、暖炉の弾ける音、帰ってこれた安心感。だんだんと首領の声が奥の方に聞こえてくる。

「何で海になんか入ったの!」
「何で、というか事故だよ事故」
「襲撃?!それとも奇襲?!」
首領に質問攻めにされる。何時もの冷静さは何処へ行ったんだか。突然肩に重みを感じる。隣を見れば、世話人がうつらうつらしている。
「森さん、少し静かにして」
「太宰くんまだ聴取は終わってないよ」
「卯羅が寝そう」
水の中は体力を使う。それに寒さが追い討ち。そのまま、肩に寄り掛からせる。
「わかった、静かにするよ。じゃなくて、一応、怒られてること解ってる?」
私は人差し指で静に、と合図した。彼女の寝息が聞こえる。
「どうやら、卯羅の勝ちのようじゃの。首領」
「そうだねえ。ん?勝ち……?まあ、そういうことにしておこう」
どうやって彼女を持ち帰ろう。起こすと多分姐さん怒るし。いや、持ち帰るという言葉は誤解を招く。取り敢えず、と抱き抱えた。女の子ってこの抱き方に憧れるって云うよね。
「これって始末書?」
「いや、要らないよ。遊びに始末書だなんて実に無意義だ」
軽く会釈して執務室に戻る。後ろから姐さんが着いてきた。
「取って食ったりしないよ」
「だが、お前では風呂にも入れぬだろ」
腕からひょいと取られる。
「こんなに濡れて……芯まで冷える前に暖めてやろうのう。小僧」
自分の執務室へ入ろうとしたら、姐さんが声を掛けてきた。
「なあに?」
「後で茶でも淹れてやろ。卯羅に巻き込まれたのであろう?」
「まあね、半分そう」
「よう護ってくれたのう。礼を云うぞ」
曖昧に微笑んで、執務室に入った。

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