かそう

『森鴎外主宰にて仮装招宴を催す。各々仮装の上 参加されたし』
マフィア全体にそんな御触れが回った。各幹部は必ず参加との由。
「卯羅も行こうよ」
「此れ終わったら行くから」
「何の仮装するの?」
「決めてない」
参加する予定は無かったからなあ、と卯羅は笑う。太宰は狼の耳を付け、手には狼の手を模した手袋。
「狼男にね、咬まれたら、その人も狼男に成るんだって」
笑いながら部下に近付く。卯羅は思わず席を立ち、寝椅子に逃げる。
「変なこと考えているでしょ」
「んふふ、卯羅も狼男?狼女?──どっちでもいいや──になあれ!」
寝椅子に押し倒し、馬乗りになる。
「太宰、準備できたか?」
執務室の扉の向こうから、織田が呼ぶ。一緒に行こうと誘っていたのだ。
「入るかなぁ、駄ぁ目……ほら、力抜いて……ん、善い子……えへへ、可愛い」
「待って、やっ……太宰さんっ!」
卯羅の抵抗と、織田が扉を開けたのがほぼ同時だった。
「織田作さん、今は止した方が……」
「ん?やあ!織田作!ちょっと待ってね、此の可愛い雌狼を仕上げるから!」
太宰の腋から生える女の脚を、記憶から消すことに織田と坂口は専念した。「俺たちは何も見てないから、続けてくれ」
「うん?もう終わるよ」
眼下には、狼の耳、狼の尾、偽毛皮の首巻そして耳と揃いの色襯衣。羞じらいながら耳を弄る恋人へ、満足そうに微笑む。
「二人ともどうしたのだい?遠慮は要らないよ、入り給えよ」
「いや、コトの邪魔はと思ってな」
「織田作さん?!」
「ふふふ、やだなあ織田作!確かにこの狼ちゃんとヤらない選択肢は無いけれど、流石に君たちを呼んでいるのにそんな事はしないよ」
お嫁に行けない、一生の恥、と着ていた長外套を被りながら卯羅は嘆いた。
「却説、招宴に繰り出そうじゃあないか!ほら卯羅、出ておいで」
長外套から少しだけ顔を覗かせる。その様子に太宰はにやついた。
「なあに?本当に襲って欲しいの?」
「違う!違います!」
お披露目だ!とばかりに長外套を剥がす。差当り、番の雌。
「どう?可愛いでしょ!ほら卯羅鳴いてみて!」
「太宰くんお止めなさい、泣きますよ彼女」
幹部の無茶振りに坂口は頭痛を覚えた。本当に公私問わず自由だ。
「急がなくては、我々が最後に成ってしまいますよ」
「それは困るなあ、美味しい酒を取られてしまう」
四人、廊下を歩く。普段は幹部以上のみが使用する食堂が会場に成っていた。
「そういえば、ハロウィンのなんかあったよね、遊戯」
「『お菓子か悪戯か』だったか?俺もさっき子供たちにせがまれてきた」
「それだ、それ。善いよね、悪戯が許されるって」
「別に許されてはいませんよ。太宰くんが考えるような、物騒な産物は、今日だとしても論外ですよ」
坂口の正論に、ちぇっ詰まらない、と口を尖らせる。
「あ、そうだ。仕上げしないと」
少し顎を上げるように、卯羅に指示する。
「飼い主登録しておかないと、しょっぴかれるんでしょ?」
首元に揺れるのは首飾り、ではなく、首輪。服飾の専門家でさえ「此れは首輪です」と太鼓判を押す代物だった。
「嗚呼、似合うね。とても似合う」
「流石に此れは待って?」
「私はね、心を痛めているのだよ・・・・・・君が構成員から好色の視線を浴びせられていることに・・・・・・」
「一番その視線を浴びせているのは貴方でしょう」
「母親が幹部、上司が首領の右腕、横取りには危険が大きすぎるだろ」
「こんなの無くても離れないのに・・・・・・」
本当に小声で呟いた。狼男は聞き逃さなかった。無論、周りにいた吸血鬼と神父も然り。
「一寸、織田作たち、先に行っていて」
「・・・・・・おう」
二人の背中を見送ってから、雄と雌、顔を見合わせる。真ん中だと邪魔だね、と笑いながら、壁を味方にし、追い詰める。
「卯羅?」
「なあに?」
「狼ってね、一夫一妻制なんだって」
「はい」
「ツレが死んでも新しい番には成らないんだって」
「一途だね」
「私の云いたいこと、解るだろ?」
答えを確認しながら、太宰は額、瞼、鼻、頬と口付けていく。
「大丈夫、ずっと太宰さんの傍に居るよ」
「傍じゃ嫌だなあ、私のじゃないと」
そして狼らしく、相手の口許を舐める。
「狼って、愛情深いのよ?」
「けれど外敵には容赦無いのだろう?」

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