暗号

「卯羅の異能力に法則を見付けたよ」
「ほーそく?」
執務室の床に座って、森先生からの宿題を別けていたら、太宰くんがニコニコと分厚い辞書を片手に、私の隣に座った。
「君が異能を使うと、花が咲くだろう?」
「うん。なんか咲く」
決して意図している訳じゃない。まだ巧く使えないから、そんな事を気にしている場合でもないし。
「毎回違う種類が咲くから、何かしら法則があるのか、それとも単純に確率なのか。気になって調べた。その結果が、この辞典というわけ」
辞典の表紙には『花言葉』と金で箔押しされていた。
「それぞれの花には隠れた意味が有るそうだ」
「『魚釣り』みたいな?」
「うん、まあそうだね。近しいと思う。そこで、君が今までに咲かせてきた花を調べたら、君の心理状況と合致する可能性が出た」
この時のは、と凡て解説をしてくれる。無意識だったけれど、云われてみればそうかもしれない。
「だからね、それで一つ遊びを考えた」
「遊び」
「暗号だよ。もしも君が自由に花を咲かせられたら、の話だけれど。花に込められた意味を辿ればいい」
「じゃあ……能力名『道化の華』」少し考えてから、花を咲かせてみた。小ぶりな百合が咲いた。
「これは百合、ええっと、形は車百合か。花弁が反っているからね。花言葉は『多才』?」
「だってそうでしょう?」
そうじゃなきゃ、こんな事思い付かないもの。それに言葉の感じが太宰に似てる。
「ふふっ卯羅、君は本当に素直だね」
「どうしたの?」
太宰くんの笑顔を久しぶりに見た。私は反対にきょとんとしてる。
「多才と太宰を掛けたのだろう?そうだ、私たちにしか解らない意味を与えて、完全な暗号にしよう」
「例えば?」
「今の多才と太宰に似た形が佳い。あと、暗号だから、誰にでも解るようにしたら意味がない」
「全部覚えるってこと?」
頷いた。当たり前だろと云いたそうに。
「出来るさ。森さんの所で一からその知識を学んだのだろう?それに比べたら簡単だよ」
それから暫く、二人で辞書を覗き込み、私は異能を使って、二人だけの暗号を作る。
「君の異能、薄紅だよね」
「うん。母様の夜叉よりも桜色に近い気がする」
「君みたいな子が、そんな色で花を咲かせていたら、誰もマフィアの構成員だとは思わないよ」
「そうかな」
「うん。思わない」
計三時間以上も没頭していた気がする。
「できたー……」
「これだけあれば十分だろう。次の仕事の時、使ってみるかい?君は私に異能で伝言すれば佳い」
「太宰くんは会話の端々に此れを組み込む」
「そう」
正確に拾わなくてはならない。その圧はあった。それ以上に、私達だけの秘密が出来て楽しかった。初めての二人だけ。

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