「卯羅ちゃん、何持ってきたんだい?」
「あのね、包帯巻く練習するの」
犬のぬいぐるみを連れて、森先生のお部屋に。私がお世話する太宰くんは、包帯をぐるぐる巻きにしてるし、昨日腕を折ってきた。頭にもちょっと怪我したし。だからたまに私が包帯の巻き直しをしてあげないと、皮膚障害起こしちゃうって森先生に教わった。母様も仕事に出ちゃったし、姉さんも射撃の訓練で居ない。独りだと心細いから、森先生の処でやろうと思った。
先生の邪魔をしないように、少し離れた処に座る。必要なのは添え木と石膏帯、だけど石膏帯はぬいぐるみの腕には痛そう。添え木だけして普通の包帯を巻く。
何度巻いても、何度巻いても。添え木はずれるし、腕はぎゅっと締まっちゃう。
「先生!巻けない!」
私はその場に大の字で寝転んだ。
「貸してごらん」
森先生が私の顔を覗き込む。起き上がって、包帯と添え木を渡す。
「先ずは、包帯の巻き方から。卯羅ちゃんの腕貸してごらん。包帯の持ち方はこうだよ。巻きを上にして、始めの処を斜めに。まず一周。すると此処が少し出るから折り返す。その上に二周目」
先生は綺麗にくるくると包帯を巻いていく。私の腕はあっという間に太宰くんとお揃いになった。
「これは基礎中の基礎。添え木はそれからだね。巻く時の力の加減に注意すると善いよ」
「解った」
わんちゃんの手に、先生がやったように巻いていく。少しずつ、綺麗に巻けていく。
「もしもし──嗚呼、太宰くんか」
太宰くんからのお電話。思わず反応して先生の方を眺める。
「うん。うん?そうか、解ったよ」
短い会話を終えて、先生は首領の仕事に戻る。
「ねえ、先生」
「なんだい?」
「太宰くんって私と同い年?」
「そうだよ。君は早生れだからね、少し年下だけれど」
「なんか、太宰くんって大人っぽいよね」
頭が善くて、言葉遣いも動作も落ち着いてる。
巻き終わった包帯の先を蝶々結びにしてみた。
「太宰くんもまだ子供だよ。君と同じ、十五歳だ」
「本当に?十五歳何周目とかじゃなくて?」
本当だよ、と森先生は笑った。
「今回の事件が解決して、太宰くんが正式にマフィアへ加入したら、二人でお出掛けしてくると善いよ」
「なんで?」
「此れから何年、もしかしたら数十年、共にいるかもしれないのだからね」
「まるで私と太宰くんが夫婦になるみたい」
「解らないよ?有るかもしれない」
「その時は、沢山お祝いしてくれる?」
「勿論だよ。マフィアの総力を挙げて祝福をしよう」
解りもしない未来のお話し。それに乗っかってくれる先生は優しい。
「でもね、それは無いと思うの」
「何故かな?」
「太宰くんは、彼は私を欲しがらないよ」
森先生は、首領は、何かを確信した様に、ふっと短く笑う。
「却説、実技の次は座学だよ。昨日の続きからしようか」
「はーい」
分厚い参考書が目の前に置かれる。もっと異能力を使えるようになるための勉強。もっと太宰くんのお世話を出来るように。
『私の異能力が、誰かの支えに成れば嬉しいなって』
その夢を現実にする為に。