操作

「能力名『道化の華』」
花が掌に咲く。一輪だけ。形もぼやけている。辛うじて、花だ、ということが解るだけ。直ぐに弾けるように散った。
「もう一度」
広津さんが息を付く間も無く指示する。それに従って、もう一度。
結果は同じだった。
「なんで咲かないの……」
咲かない。広津さんが異能で私の身体を吹き飛ばす。地下牢の柱に背中を強打する。
「現場ではこうして講釈を垂れる時間も無いぞ」
「解ってる、解ってるよ!」
何度呼び掛けても異能は反応しない。それどころか嗤うように、少し咲いては散っていく。
「広津や」
広津さんを呼ぶ声に反応して、階段の方に視線を移す。
「母様!」
母様の姿を見た途端、涙が止まらなかった。立ち上がって駆け寄ろうとした。母様なら助けてくれる。
それよりも先に仕込刀の鋒が喉に向けられる。ヒッと息を飲む暇もない。
このままだと、死ぬ。
突然、私が座り込む地面を中心にして、花が咲き乱れる。蔦が母様の刀に絡む。
「出来るではないか」
今までの表情とは裏腹に、優和な表情。差し出された手を取って立ち上がる。
「何も恐怖を抑え込む必要はない。それを忘れればいずれ慢心に繋がる」
励め、と頭を撫でてくれた。それから広津さんに、任せたと云って、仕事に戻った。
「広津さん、もう一回!」
何度だってやってやる。
「顔付きが変わったな」
私は夜叉に華を添えるんだ。
森先生は異能力を、生きるための力、と教えてくれた。だったら私はこの力を受け入れよう。
母様はこの花を咲かせる私を引き取って、認めてくれたのだから。

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