お誕生日と

今年のお誕生日は、少し特別。特別にするの。
毎年、この日は二人でお出掛けしてるけど、今年はお家で過ごすの。一緒にケーキ作るんだもん。
「善いよ。卯羅のお願いなら」
「あのね、カップケーキ作るの。沢山食べれるし、簡単でしょ?」
「本当に簡単なの?」
レシピを覗き込んで、顎に手をやり、考え込む治くん。逃げられないように、後ろからエプロン掛けちゃうもん。大人しく腕を通してくれたから腰できゅっと結ぶ。
「バターをクリーム状?固形を半固形にするの?」
「常温で置いておけば楽だよ」
バターを最初に計量して、他の材料を揃える間に、柔らかくしておく。お砂糖と一緒に練るだけなのに、凄く美味しそう。
「治くんは、クリームチーズでデコレーション用のクリーム作って」
「クリームチーズクリーム?」
「云いたいことは解る」
本当に合ってるのかよく解らなくなる名前だよね。クリームチーズをゴムベラで伸ばして、バターと粉砂糖を入れて、よく混ぜる。
「じゃあ始めましょう!」
「おー」
作業中って何で無言になっちゃうんだろう。お話ししながらの方が絶対に楽しいのに。でも集中してる治くんって素敵ね。真剣にクリームと向き合う姿。あ、味見した。美味しかったらしい、口角が上がる。
私も生地を作らなきゃ。バターを練って、お砂糖と混ぜて、卵、牛乳、小麦粉とベーキングパウダーを振るって。力仕事だよね、お料理って。時々腕を休めながら混ぜ合わせる。
「クリーム、冷蔵庫に入れておくよ」
「ありがと」
こんな感じで善いかな。混ざったよね。混ぜすぎても駄目だし。
紙カップも可愛いの。パステルな赤、青、緑、ピンク、黄色。各二個入り。お花畑みたい。生地をカップの半分より少し少な目に入れて、高めの位置から落として空気を抜く。
「私もやりたい!」
「じゃあ此方半分ね」
ポスンポスン。楽しそうにやるなあ。可愛い。温めたオーブンに、感覚を空けて並べる。温度とタイマーを設定して、焼き上がれば終わり。
飾り付けは、クリームと、アラザンと……あ、チョコペン買ったんだ。チョコペンで飾りを作ろう。クッキングシートに、ハート、星、お花、ウサギ。
「卯羅楽しそうだね」
「楽しいよ?治くんとできるんだもの」
「卯羅が楽しいと、私も楽しい」
チョコは冷蔵庫で冷やしておく。焼き上がるまで、まだ時間が有る。洗い物をして、一休み。
「卯羅、一寸だけ、真面目な話をしても?」
「善いよ」
彼の言葉に、クッションに寄りかかって、溶けているような姿勢を直した。
「結婚してくれ」
「はい?」
今?ねえ、今?あまりにも唐突なタイミングで、素っ頓狂なお返事。「矢張り、卯羅の笑顔が一番だなって。そんな事は、昔から解っていたけど、この一週間で改めて思ったんだ」
「ということは、今回のこれ、知って……た?」
「夜中にリビングで寝落ちてる君を見て、何もないとは思わないだろう?」
恥ずかしい。凄く恥ずかしい。治くんが寝たであろう時を見計らって、ベッドを抜けて、カップケーキの作り方を調べたり、飾り付けを調べてた。気付いたら、肩にブランケットが掛けられてたり、ベッドに戻ってたりしてた。
「一生懸命してくれるのが嬉しくてね。気付いていた事を云わなかったのは謝るよ」
「私、治くんのお嫁さんに、成って善いの?」
「私は卯羅以外を娶るつもりは無いよ。だってこれ、卯羅の指に、とても綺麗に映えるように、作ってもらったから」
ベルベット調の小箱を差し出され、銀色の指輪。それを摘み上げ、私の左の指に───
「あ、ケーキ焼けた!」
オーブンが焼けたよ、とアラーム。恥ずかしさと、嬉しさと、ドキドキして、キッチンへ駆けて行く。
「美味しそう」火傷をしないように、ミトンをして取り出す。クリームを乗せるのは冷ましてから。早く冷めないかな。
「卯羅」
後ろから抱きしめられる。手が絡んだと思ったら、指に少し冷たい感触。
「共に歩んでくれ」
「私が、サプライズされて……治くんの、誕生日、なのに……」
「君の返答が私への最高のプレゼントだ」
狡い。そんなの。とっくに答えは、いいえ、ずっと前から、答えは一つしか無いけれど。
「お受けします。貴方の名字を、私にください」
熱いのはカップケーキ?それとも私?
クリームを乗せて、上にアラザンを振りかける。作ったハートも飾って。可愛いケーキが出来た。紅茶を淹れて、可愛く盛って。
「治くん、お誕生日おめでとう!」
「君がこの日を祝ってくれる歳月が続くのだね」
「ずっとずっとお祝いするの」
次は彼氏の誕生日じゃなくて、旦那さんのお誕生日。突然で驚いたけど、嬉しいの。結婚式もこの日にしようかしら。だって六月の花嫁さんは幸せに成れるから。
いいえ、治くんとだったら、何月でも幸せ。だったら、幸せの掛け算を。世界で一番幸せなお嫁さんに。

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