今年の体育祭は、百メートル走に出て終わり。後は救護テントに居たり、応援したり。クラスの子が「チアやって!」って誘ってくれたけど、治くんが不機嫌そうに笑顔だったから、お断りした。治くんの応援は沢山したいから、ポンポンは作ったの。
治くんは渋々ながら綱引きに出る。確かに疲れないからね。芥川君おだてて、その後ろで適当にやるんだろうなあ。
「うーん国木田先生には追いかけられるし何だかなあ」
「大人しくお座りしててよ」
「放送の仕事もなあ……国木田先生が叫べば解決だろうに」
「国木田先生きっと喉つぶしちゃう」
もへ〜、と変な伸びをしながら、席を発ってどちらへ。お話に夢中で気付かなかったけど、綱引きの招集が掛ったみたい。
「仕方ないなあ……あの縄、首に巻いたらすごく楽しそう。私、引くよりも真ん中で絡まってたい」
……今、だよね?
「治くん!」
「なあに?」
「治くん頑張れー!フレーっフレー!」
ポンポン持ってちょっと跳んだりしてみた。案外、恥ずかしい。治くんはキョトンとしてるし。「もう一回やってくれるだろう?」
「え?」携帯を私に向けてニコニコしてる。善いもん。やるもん。だって治くんの応援団長さんだもん。二回目はもっと高く跳ねてみた。チアリーダーは元気で笑顔じゃないとだもん。
「卯羅が応援してくれたんだもの、私なりに頑張ろうかな」
じゃあね、と手を振って行っちゃった。怠そうな背中が可愛い。
芥川君を善いように煽って、こき使ってる。開始して少しは真面目風に引っ張ってたけど、
急にこっちを向いて手を振り始めた。
「どうも〜心中してくれる美女募集中で〜す。興味があるお嬢さんはいるかな〜?」
気付いたら近くを歩いてた坂口さんから、玉入れの玉を引っ手繰って、治くん目掛けて投げてた。
「卯羅さん……」
「手が滑っちゃった」
紅組が勝ったから善いけども。
そろそろ私の順番だ、行かなきゃ。走れるかなぁ、走れるよね。今日は確り固定してくれるブラにしたから大丈夫なはず!最近は階段降りる時もたゆたゆするから、お乳の下に手をウサギさんみたいにして、抑えちゃうの。
「さあ大注目の百メートル走!第三レースの尾崎卯羅選手!」
最悪すぎるアナウンスは誰の所為かと思うけど、一人しか居りませんね。真面目にお仕事するのかと思ったら酷いなあ。
「可愛いウサギさんの走り様をご覧あれ!」
一位を取れと?他のレーンを見たら、皆文化部っぽい顔してる。
「尾崎、ゴールに太宰が居ると思え。それも軟派してる太宰だ」
「織田作先生、私放送席に突っ込みそう」
そうか、事も無げに返事をしていきなりピストルで合図。
慌てて走り出す。
放送席の前を通った時、治くんが投げチュしてくれた……何の余裕なの⁈
何とか一位を取って、席へ戻る。あれ?ポンポン何処やったんだろう。あ、救護テント行かなきゃ。お当番お当番。
玉入れを救護席から見守ってたら、坂口さんが出てた。治くんは外から応援してた。私のポンポン持って。茶化してるんだろうけど、私には可愛く見えて仕方ない。
僅差で負けちゃったけど、最後のリレーで頑張ってもらおう。あれ、治くん何処行くのかな。リレー、見ないのかな。敦君出るのに。
「治くん」何時もとは違う木陰で休んでた。「お疲れ様」
「百メートル走では善いものが見れたよ」
「やめて!」
隣に座ったら、ごろんと膝枕。疲れちゃったよね。沢山動いたもん。
「涼しいなあ」
珍しく汗をかいてる治くん。それを拭ってあげながら、頭を撫でる。
「もうすぐ終わっちゃうね」
「そうだねえ」
「ちょっと、寂しいね」
「そうかなあ。来年もまたあるさ」
そう云って、おやすみ。
風に乗って聞こえてくる会場の声。その歓声に、治くんの口角が少し上がった。
「本当は楽しんでる癖に」
天邪鬼さんなんだから。素直に真ん中で楽しめば善いのに、何故か外側で楽しもうとする。自分の楽しいことぐらい、主役になれば善いのに。
来年は勝って、おめでとうってしたいね。