七夕

生徒会で、七夕の御飾りを作って、昇降口に飾った。其々の学年で、書きたい人たちが、短冊を書くの。
「卯羅何してるの?」
「てるてる坊主作ったの」
生徒会室の窓辺に、てるてる坊主を二つ。
「此方、治くん」
「じゃあ此方は卯羅?」
頬を赤く丸を描く治くん。そんなにほっぺ赤いかな、私。
明日は放課後に七夕祭り。織田作の伝で、ヨーヨー屋さんとか、一寸した屋台も出る。希望の人には、茶道部と華道部の人が、着付けもしてくれる。
全部乱歩さんが「楽しいことしないと詰まんない!」と御機嫌を損ねたからなんだけど。でもたまにはそういうのも善いよね。学校の中でだから、ママたちも心配しないし。
「私ね、ママに浴衣の着付け、教わったの」
「それまた何故?」
「治くんの着せたいから!だから、明日持ってきて?」
「解った。素敵に着付けてくれそうだね」
「頑張る!」
翌日。五限目が終わって、急いで生徒会室へ。浴衣を風呂敷に包んで歩く治くんが、とても素敵だけど、見惚れてる場合じゃない。
「お待たせしました!」
「卯羅ちゃんも、太宰も、遅い!」
乱歩さんが駄菓子の空き袋の山を前にしながら怒る。
担当を確認して、さあお着替え。私は与謝野さんと救護係。お仕事が無いのが一番ね。
「治くん」
「嗚呼、お願いするよ」
制服から浴衣へ。沢山練習したもん。
背中、大きいなぁ……腰、この辺だよね。脚長い。腰紐と帯を回す時に、ぎゅっと密着して、少し離れ難くて。帯は貝ノ口に結んで完成。
「格好好い……」
「自分で着るよりも男前が上がった気がするよ」
見せたく無いなぁ。このまま生徒会室に残っちゃ駄目かしら。
自分の着替えもして、国木田先生から注意事項を再確認され、各持ち場に。
「また後でね」
「他の女の子に着いて行かないでね!」
「行かない行かない」
バイバイ、と降った手を掴まれ、ぐっと引かれる。草履の足元でバランスを崩して、そのまますっぽり、腕の中。
「軟派されないおまじない」
「太宰!!」国木田先生、まだ居るのに……

谷崎くんの焼きそば美味しそうだなぁ。ヨーヨーも釣りたいし。
「とんだ織姫と彦星の誕生だねェ」
与謝野さんが愉しそうに笑う。
「治くんの方が心配なのに」
「ありゃ、おまじないってのは口実だろ?浴衣の卯羅が可愛くて仕方ない様に見えたけどね」
「あんなのされたら、離れたく無くなっちゃうもん」
「ま、国木田先生の功名だね」
「不本意ながら」
救護テントから眺める空は、紺と橙の境目が曖昧で、星がキラキラ、輝き始めていた。
「天の川、見れますかね」
「このまま晴れてりゃ、見れるんじゃないかねェ」
『あと三十分で閉会のお時間です』賢治くんの軽やかな声が、時刻を告げる。
「卯羅、行ってきな」
「え、何処に?」
「天の川が出るんだろ?」
与謝野さんはニヤッと笑って、背中を押してくれた。
「どうせ、誰も来やしないよ」さァ、行った行った。
治くん、何処行ったんだろう。敦くんと見回りだって云ってたけど。あと三十分で終わるのに、まだ人は多い。治くんは背が高いから、すぐ見付かると思ったのに。
「治くん……」
幼稚園の時にもあったなぁ。遠足の動物園で、はぐれちゃって。兎さんずっと見てたら、はぐれちゃったの。先生じゃなくて、治くんを探してたの、今考えても変だよね。
「あ、居ましたよ!太宰さん、此方です!」
「漸く見付けたよ。与謝野さんがもう行ったとか云うのだもの」
後ろから抱き締められて、彼に埋まりそうなほど、ぎゅっと。
「じゃあ、敦くん、後は頼んだよ」
「太宰さんも卯羅さんも、楽しんでくださいね!」
改めて二人きりになると、どうしよう。
焼きそば……
頭を過ったけど、今は、そんな……
「卯羅は短冊、何か書いたの?」
「書いてない」
一番近くの笹へ。沢山の短冊と飾りで、重そうにしなってる。
『成績が上がります様に』『志望校合格!』『彼氏ができますよーに』『バストアップ!!』『やせたい』『赤点取りませんように』
皆、思い思い。
「まあ、願いなんて、最終的には、自分で叶えるしか無いのだけどね」
「そういう事、云わないの」
袖を少し捲し上げて、筆ペンを取る。一つしか思い付かない。願い事が似合わない貴方とずっと居たい。
「上の方、届くかい?」
「届かない〜掛けて〜」
見ないようにしてくれてるけど、一寸見えちゃったみたい。ふんわり笑って、それから、自分にしか見えない位置に掛けてくれた。
「卯羅のお願いは、いつも愛らしいね」
「だって、それ以外は叶ってるんだもの」
卒業しても、ずっと。人生で最初で最期のお相手が治くんだったら、とても素敵。贅沢かな。お願いだもの、贅沢でも善いよね。
「これは夜空に煌めく恋人達にしか、叶えられないかな」
「誰が橋渡しをしてくれるの?」
「今日の遣いは敦くんだったねぇ」
離れていても、きっと巡り会える。
「治くんは何時だって探し出してくれるもんね」
「卯羅は何時でも探し回っているから」
額を合わせて、二人が繋がるような感覚。もしかしたら、他の何処か、遠い処でも出会ってて、絶対に切れることの無い赤い糸。
「織姫様は、焼きそばを御所望だったと思ったけど」
「今それ云う?」
お腹空いたんだよね、と笑う。
救護テントに戻ると、谷崎くんが皆の焼きそばを、準備していた。
「美味しそう!」思わず手を叩いて喜んじゃった。それが余程面白かったのか、治くんがお腹を抱えて笑う。
「食べてから片付けにしましょうか」
「賢治は食べ過ぎるンじゃないよ」
「はーい!程々にします」
本番が楽しいと、片付けがより寂しい。テントを畳み、鉄板を洗って、桶の水を抜いて。そこまでやったら、織田作と国木田先生が、後は善いからと、下校するように指示した。
「紅葉さん、遅くなりました」治くんが、いつもと同じように、送ってくれた。
「夕飯でも食べて行くかえ?これから作るのは億劫であろう?」
「いいえ、明日も学校はありますし、失礼しますよ」
「治くん、一緒に、駄目?」
「卯羅、明日また、学校で」
嫌だなあ。今日だからかな。何時もよりも、バイバイが辛い。明日、本当に会えるかな。治くんが、今日が幸せで、それで、もし、思い立っちゃったら……
「どうしたんだい急に。泣く程に別れ難い?」
「明日、会えるよね?」
「会えるさ。絶対に」
「寝る前に、電話しても、善い?」
「朝も電話をおくれ。一番に君の声が聞きたい」
「約束して?」
「勿論」
指切りげんまん。
「獅子唐と茄子を炊いただけじゃが、持って行け」
ママがタッパーに、煮浸しを入れて持ってきた。
「済みません、気を遣っていただいて」
「容器は明日、娘に渡せば善い。のう、卯羅」
「うん!」
明日、会うための口実。にっこり笑って、また明日。御休みなさい。
織姫と彦星は、もう、さようならをしてしまったかしら。また会えるのは来年の今日。それまでに好きを沢山募らせているのね。二人の想いが溢れ出たのが、天の川かな。
明日も大好きな彼と過ごせます様に。
一番輝く、二つの星に願いをかけて。

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