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「サンタさんつかまえる!」
「は?」
探偵社の降誕祭宴中に唐突に云い始めた。去年は鏡花ちゃんが捕まえようとしてたと聞いた。
「捕まえてどうするんだい?」
「んーとねー……いっしょにクッキーと!あったかいにゅーにゅーのむ!」
普段きちんと云える牛乳を、きちんと発音しない辺り、無下にしたら泣かれるやつだろう。
「サンタクロースの姿を見たことあるのかい?」
「まっかのおようふくきて、まっしろなおひげ!」
絵本で見た姿を忠実に述べる。鏡花ちゃんも隣で西洋菓子を頬張りながら、眼を輝かせる。
「鏡花ちゃんもそのめげない心は素晴らしいと思う。だがね、世の中には捕まえて佳いものと悪いものがある」
「佳いものと悪いもの」
修治は「だっこー」と母親に似た眼で甘えてくる。それに応えながら、二人に話を続ける。
「サンタクロースは、世界中の子供たちに贈呈品を配らなきゃならない。そうだろう?」
「うん!みんなにプレゼントくばるの!でもトナカイさんのソリ、はやいからへいきだよ?」
「それが平気じゃあ無いのだよ。馴鹿だってお休みしなくては疲れて飛べなくなってしまう」
「じゃあ、しゅーじのおうちでやすむの!」
時々思うが、子供というのは、純粋すぎて騙くらかす事が難しい。
「そしたら捕まえるのではなくて、一緒にお話しするぐらいが丁度善いだろうに」
「そーする!あのね、クッキーはね、きょかねぇねと作ったの」
「卯羅も手伝ってくれた」
基治を抱いて、与謝野女医、ナオミちゃんと話す姿を眺める。昔は森さんが扮装して配ってたっけ。卯羅とその姉は本気で信じていた。
「サンタクロースも二人の気持ちを汲んでくれ──」
「あ!サンタさん!!」
私の首を引っ掴み、思いっきり身を乗り出して、社長室の方を指差す。鏡花ちゃんも修治に釣られて、その方を見た。そして短刀を構えた。
「鏡花ちゃん、仕舞おうね」
妹分に声を掛けながら、私の隣に立つ妻。基治は初めて見る人物に少し怯え、けれど眼を離せないようで、卯羅にしがみ付きながら、凝視していた。
修治が指す人物はどうみても社長。立派な髭と赤い帽子の間から見える眼光は鋭い。
「パパ!サンタさんきたよ!」
「サンタ、というか……うん、そうだね、サンタクロースが来たね」
下ろしてやると、直ぐに駆け寄る。
「サンタさん!サンタさん!あのね、クッキーつくったの!」「馴鹿が飛ぶというのは本当?」「にゅーにゅーもあるよ!あったかいの!」「何故世界中の子供が欲しいものを知っているの?」「サンタさんだっこ!」
ここぞとばかりに寄って集って。サンタは困惑することもなく、悠然と普段は乱歩さんの席である、社を見渡せる席に座った。
「国木田くん?」
サンタの御付きよろしく立つ国木田くんが一番緊張していた。そんな彼を見て一つ名案が浮かんだが、察した卯羅に視線で釘を刺された。
「修治、鏡花、サンタは忙しい。手短にな」
手作り菓子の袋と、温牛乳の陶器杯を盆に載せて、二人が進み出る。
「二人で作った。食べてほしい」
「にゅーにゅーもあるよ!おそとさむいから!」
「心して頂こう」
食する姿を満面の笑みで眺める。すると修治が口を開いた。
「サンタさん、あのね、ママがいってたの。クリスマスは、みんなですごすんだよーって。しゅーじね、みんなといっしょなのだいすきだから、クリスマスだいすき!」
「皆に感謝をする心を忘れるな、出会いと云うものは一期一会、またと無い巡り合わせだ」
「いちご?」
首を傾げる息子の隣に屈んで、目線を合わせる。それから手を取り、私が昔に捨てた言葉の意味を教える。
「一期一会、この瞬間が奇跡だと、魔法だと云うことだよ」
「まほうなの?」
「そう、魔法だ。降誕祭の魔法、サンタクロースの魔法だよ」
魔法という言葉にはしゃぐ長男。鏡花ちゃんも目を輝かせ、ふわりと笑った。
「どうしたの基治、お外見るの?」
次男が卯羅の腕の中から、窓を指差す。
「綺麗だね、ピカピカしてるよ」
電飾が闇を照らす街。それを見ながら、指差しながら、基治は「何かあるぞ」というような声をあげる。それに気付いた卯羅が笑う。
「雪だよ、基治。これが雪」
「ゆき!しゅーじもみる!」
皆で建築物の玄関に出る。
「パーパ!ゆき!ゆきふってる!」
「本当だねえ。白の降誕祭だ。卯羅、私の外套を羽織ると善い」
「ありがとう。基治見えるかな?キラキラしてるね」
「鏡花ちゃん、寒くない?」
「平気」
「素敵な降誕祭ですわ!」
「ヨコハマで雪なんて珍しいですね」
「雪見酒とするかねえ」
「与謝野先生、そろそろ控えては……」
「積もったら雪だるまを作ろうじゃないか!」
「乱歩さん、僕も手伝いますよ!」
面々が思い思いに感想を述べる。
「パパ!ママ!」
私と卯羅の脚に抱き付く修治。こんなに力強かったっけなあ、大きくなったのだね、と心の内で思う。
「ずっと、ずーっといっしょだよ!もとくんも、みんな、いっしょだよ!」
「嗚呼、一緒だ。ずっと傍に居てやろう」
昔、同じ様な事を私に云った女の子が居た。私が居なくなる事を恐れ、泣いた子が。
その女の子を半分受け継いだ息子を抱き上げる。脇の下に手を入れ、そのまま空へ掲げる。「たかいたかーい!」と無邪気に笑う姿が愛しかった。もう一つの小さな手が私の頬を押す。
「基治もして欲しいかい?」
君たちの望みなら何でも叶えてやろう。
鈴の音が響く。二人の息子を抱えて歩く。隣にはいつもと同じ女性。招宴の帰り道。
「基治も楽しそうだったから、善かった」
「社長に後で御礼云わないと。あの国木田くんの顔は傑作だった」
腕の中からは可愛い寝息。きっと素敵な贈呈品が待っている。
「本当に運命って解らないものね。社長の云う通り、あの瞬間があったから、今も私は貴方の隣に居る」
「あの日、君が私に猫みたいだと、云って膝枕をしなかったら、今は無いね」
昔を笑いながら、未来を抱く。

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