染色

 まだ別に付き合ってもいなかった。唯の上司と部下。そう、その筈。けれど、いつの頃か、私は上司を意識し始めた。
「何で私が居るのに他の人の所へ行くの?」
太宰さんの物に成りたくて。一日だけでも善い。彼の女に成りたかった。
 馴れないけれど「治」と呼ぶと、頬を撫でられる。頬を擦り寄せる。手が暖かい。愛しくて、愛しくて。
 貴方は他の女にもそういう顔するの?
 寝台に優しく寝かせられる。
「今ならまだ引き返せるよ」
「引き返せないって云ったのはどちら様?」
優しく口付けられる。其れすら初めて。初めて触れる上司の唇。
「本当に善いの?」
「らしくない」
 何度も確認してくる。余りにも不器用で、彼が何故、女遊びに興じるのか、解らなかった。
「何で泣きそうな顔しているの?」
太宰さんの頬を撫でる。今度は彼が頬擦りした。
「何をされるか解っているの?」
「解っている」
そう、解っているの。解って誘っているの。貴方に愛でて欲しい。一瞬で善いから、愛でて欲しいの。
 舌が首を這い、優しく吸い付かれる。襯衣を脱がされていく。傷だらけの肌がさらけ出される。初めて見せたかもしれない。
「恥ずかしい、から……」
本当に恥ずかしかった。下着を脱がされ、本当に一糸纏わぬ姿と化した。太宰さんの喉が、鳴った。
「できるだけ優しくするから」
優しくなんてしないで欲しい。嫌いに成れる位、手荒に、手酷くして欲しい。忘れたいと、思うくらいに。
 優しく頭が包まれ、彼の顔が近付く。距離が素敵で、抱き締めた。鼻と鼻が触れ合う。顔中にキスされる。本当に、優しい。そのキスは次第に下へと降りていく。恥ずかしい部分を順にじっくりと眺められ、思わず拒絶の言葉が出る。
「どうした?」
「何でもないの、違うの」
「違う?」
「大丈夫、大丈夫……」
ただ、綺麗な貴方の前で此の醜い身体を晒したくない。今更だけれど、傷だらけの身体が恥ずかしい。きっと、いえ、絶対、彼が抱いてる女性は綺麗な肌なの。
「気にしないで、善いから……」
少し困った顔をして、手を繋いでくれた。そのまま、左手と顔が、秘部へと下った。反射的に脚を閉じてしまう。けれど、押さえられ、冷たい何かが入ってくる。身体の芯から、何かが込み上げてくる。初めての感覚に、身を捩った。
「声、出して善いんだよ。私しか聞いていないから」
「で、もっ……何か、変になりそ……」
何かが垂れている。其れを、果汁でも啜るかの様に吸い上げられる。やり場のない感情。逃すために、握った手に爪を立ててしまった。吸われ、舐められるうちに、息が詰まってきた。無意識に腰が跳ね、下半身に力が入る。鼓膜まで、脈打つ音が聞こえる。
「気持ち善かった?」
思わず泣いてしまった。嬉しさと、背徳感が混在する。
 母様、ごめんなさい。私は、貴女の言い付けを破ります。
 何かを諦めたように、太宰さんが身を引く。行っては駄目。まだ、まだ私、何も達していないの。
「最後まで、して?」
「無理はしないで善いのだよ?私でなんか──」
どうせ、他の人にしてもらえ。大事に取っておけ、とでも言うんでしょう?
「太宰くんのに、まだ成ってない」
私は、太宰治に此の身を捧げたい。他には誰も要らない。背を向ける彼に抱きついた。今を逃したら、もう二度と会えないかもしれない。
「太宰くんの物にして?」
「意味を解っているのかい?」
「今日だけで善いの。今日だけ、今だけ、幼馴染でも、部下でもない、唯の女としてみて?」
女に成るなら、最初は貴方が善い。幼い頃から、貴方の隣に居たから。出来ることなら、最期まで共に居たい。今日だけで善いの。女として、尾崎卯羅を認識して。
「本当に先へ進んで善いんだね?」
「太宰くんなら」
「本当に解っている?」
悔しくて、一歩を躊躇されるのが悔しい。どうしても涙が溢れ、言葉にならない。呆れたように抱き締められた。
「無理をするなと云ったろ?こんなことね、しなくても善いことなのだよ」
「そうじゃ、なくて!違うの……違うよ……無理してないの、太宰くんで満たして欲しいの……。私にも善く解らない、けれど、けれど、太宰くんが欲しいの」
好き、大好き、愛してる。言えたらどんなに楽か。けれど、相手は上司。将来を約束された人。幹部になる日も近いだろう。
 意を決したように、太宰さんは着ていたものを全て脱ぎ捨てた。初めて見る、男性の其れに、身体が強張った。怒張、その言葉が正しかった。
「少し、馴らすね」
頭を撫でられ、指が、秘部へ侵入する。馴れない快楽に抗う。隣に居る彼の、首にしがみつき、名前を呼び、涙を流す。
「我慢しないで?身を任せてしまえば善い」
「でもっ、こ、れぇ……っなんか、だめ、に、なっ……ぁんっ」
「そう、そのまま……私の指に集中して」
蜜は、量を増し、溢れる。あと少しで、大きな波が来そう。其れを感じたのか、太宰さんは指を引き抜いた。
「挿入るよ」
「って……触りたい……」
ほんの興味で、逸物を触った。其れだけで反応し、脈打つ。脚を拡げられ、先端が、入り口に触れる。
「嗚呼そうだ」
何か思い出したように取り出した。避妊具。そんなもの、必要ない。私は、要らないの。
「はずして?」
「卯羅、外したらどうなるか解る?」
「赤ちゃんが出来る」
あわよくば、欲しいと思った。父親が誰かなんて、私だけが知っていれば善いの。私が愛した最初で最後の人。
「最初で、最後だもん」
「責任は取らないからね」
「知ってる」
 望みは叶えられた。何も纏わない、雄が押し入る。裂ける感覚がした。生暖かいものが伝っている。ゆっくりと最深部まで、満たされる。本当に、太宰治に処女を捧げた。
「痛くない?」
「嬉しい……太宰くんが、貰ってくれた……」
素直に喜んだ。一つ夢が叶ったの。少しずつ、腰が打ち付けられる。キスをされる。短く、何度も、何度も。欲しくて堪らなくて、締め付けちゃう。初めてなのに、こんなに淫ら。でも、許して。貴方が大好きなの。
「だざい、く……ぅんっ…ぁっ、なんか、きそ……お、なかぁっ、きゅってしてるっ!」
「イきそう?じゃあ……っ」
ある一点を攻められ、お腹が、子宮が切なくなる。悶えるには強すぎる快楽。彼の背中に爪を立てた。太宰さんが、私の中に居る。思えば思うほど、与えられる悦に溺れる。
「だめ!そ、こぉっ!ぁぁぁっ…はぁぁっくぅ……んっあんっ…あっ…ダメ…んんっ!!っ…んっ……!!」
「ぁっ……ぅら、ばか……っ!」
腰を引き抜こうとする上司を、脚で封じた。一番欲しいものを頂戴。頭が蕩けそう。放たれる液の伝う感覚が、癖になりそう。
「だざいくん……」
「疲れたろ……結局、無理させてしまったね」
「……すき」
「ゆっくりお休み」
聞こえてないだろうと、呟く。何時もとは逆。胸に抱き寄せられ、撫でてくれる。
「太宰さん、私──」
ぎゅっと、抱き締められた。嗚呼、勘づいてしまったのだろうか。
 秘かに愛する彼の匂いに包まれ、眠りに落ちた。

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