◎-2 : 突然の
それはよく晴れた、冬の星座が輝く夜のことでした。
「…に、しても、いくらなんでも5周はやりすぎなんじゃないか?」
「そうかな…話が難しいから、このぐらいしないとわかんないんだよね。」
へらへらと笑って流す。
あたし、ヒスイはどうも人付き合いが苦手である。
とはいえ付き合わなきゃいけない相手が大勢いるもんだから、このへらへらとした性格が定着したみたいで。
因みに彼…冬樹は親友。男だけど。
彼も同様に人付き合いが苦手なタイプなので、実際のところあたしといるとお互い気を使わなくて楽ということで行動を共にしている。
先程の話はあたしの今現在ハマっているゲーム、テイルズオブジアビスの話だ。
ゲームクリア後から2周目、と数えていくのだから、現在はゲームクリアを4回したことになる。
話の内容は大方理解できたのだけれど、正直フォミクリーとかレプリカとかは実感がわかない。
ただなんとなくわかることは、それが理不尽な話だということ。
冬の風があたしたちの横を通り過ぎると、忘れかけていた悪魔があたしの中で疼いた。
「ゲホッ…ゴホッ…。」
「大丈夫か?ここ最近、かなりひどいな。」
冬樹は心配してあたしの顔を覗き込むために腰をかなり折り曲げた。
身長が低いため些か背の高い冬樹には腰に悪い動作だ。
あたしは喘息もちだった。
しかも、小児喘息ではなく、成長期の喘息。
それがあたしを身体に巣食い始めたのはかれこれ何年前だろうか。
中学3年の頃だ、今までできたことが"できなくなった"忘れもしないあの日。
初めは少しだけだった。ただ咳がほんの少し強いくらいで。
でも18になった今、咳は常に出ているし、薬がなければこの身体は今頃動いていないかもしれない。
他人はよく「喘息ごときで」という目であたしを見てきた。
それにも随分慣れたとはいえ、心地の良いものではない。
喘息だった人間が煙草を吸えるような世の中で、あたしの苦しみがわかる人間なんて同類ぐらいじゃないだろうか。
煙草を咥えながら「自分も喘息だったから気持ちがわかるよ」なんて同情はいい加減聞き飽きたところだ。
…とまあこのようにあたしの性格はかなり度を過ぎて捻くれている。
そしてそれを強制する気も、最早皆無に等しいわけで。
鞄から大量の薬の中、目的のものを口にあてるとなるべく思い切り吸った。
手軽な吸入器で、手軽といえども強い薬だ。
ほどなくして咳が収まると冬樹に笑いかけた。
「ありがと、もう大丈夫。」
「無理すんなよ…?送っていこうか?」
この横断歩道を渡れば冬樹とは別方向になる。
青になったのを確認すると大丈夫、とだけ言うために口を開いた。
が、冬樹を見るためにあげた視線の先には、眩しい光。
鈍い音、違和感、赤く染まった雪。
あたしたちが轢かれたと認識できるまで、そう時間はかからなかった。
07.12.22 プロローグ -- どうか助けて、この人だけは。
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