03 : 久しぶりの君の匂い







血が、飛び散った。








目の前には赤く染まった地面と、倒れたティア。
あたしはわかっていたのに助けることをしなかった。

ルークを庇って倒れたティアの傷を治すために、あたしは近づいた。


「ヒールウィンド」


キラキラと光って傷が消えるが、ティアが目を覚ますのにはまだ時間がかかりそうだった。
ルークがそっと近づいてくる。


「ティア・・・」

「大丈夫、大丈夫だから」


わしわしと赤い髪を撫でると、少し拗ねたような・・・だけど何も言わずにティアを見る彼。
心配だろうな、自分を庇って傷ついたんだし。
なぁ、そうルークに話しかけられてあたしは彼の頭の上にあった手をひっこめた。


「お前は、人を殺すの・・・怖くないのか?」


どくん、あたしの心臓が大きく揺れた気がした。
さっきの"肉塊"が頭の中でフラッシュバックする。真っ赤で、苦痛に叫ぶ声。
人を殺すことは・・・あたしにとって、


「怖いですよ。それでいて、したくないこと。」

「お前そういえば、攻撃しなかったもんな。イオンみたいに倒れないのに」


そう、攻撃するつもりがなかった。ずるいけどあたしは人は殺せない。
その人の未来を奪うことなんかできない。
あたしと一緒に死んだ冬樹を少し思い出して、苦笑した。
人を生き返らせるためにここにいることを知ったら、この人たちはあたしを軽蔑するだろうか。
世界も大事だけれど、冬樹を見捨てることなんてできない。

あたしは殺しにここにいるわけじゃない。救いにここにいるんだ。
犠牲がなければ勝ち取れない平和なら、よろこんであたしが犠牲になる。だから・・・。


「人を助けるためにあたしがいると思う。イオンと同じだ。
 でもあたしはできるかぎり犠牲を減らしたい。」


あたしはきっと、これからも人を殺さないで生きるだろう。
それはあたしのワガママだ。
あのヴァンでさえもあたしは殺したいとは思わない。そうすることがすべてじゃないから。
きっとできるはず。


「ヒスイ、ちょっといいか?」

「あ、ガイさん。どうしたんですか?」


あたしはガイのところに走った。
足が短いのにも大分慣れたけれど・・・。たまにつまづくから気をつけて走る。


「ちょっと失礼。」


そういってガイはあたしの頭を撫で始める。
やっぱりだ、とガイはあたしを見た。


「何故かヒスイだけは平気だ。」

「それってあたしが女っぽくないってことか・・・!?」

「い、いや!そんなことないぞ!!」


なんでだろう・・・トリップが関係あるのかもしれないなぁ。

ぼーっとそんなことを考えていると、ふわりとあたしの身体が浮いた。
ぽん、と宙に浮いたままのあたしは犯人を見る。


「いやー、妬けますねぇ、ガイ〜?」

「だ、旦那!」

「ちょっとジェイドっ!ガイさんいぢめちゃダメだ!」


ぷにーっとジェイドの頬をつねるとへらへらとバカ大佐は笑った。
ん?とガイはあたしを見た。


「そういえばなんで旦那だけ呼び捨てなんだ?」

「愛ですよvv」

「いえ、ジェイドには敬称をつけなくていいと言われたので。」


一応導師の立場もありますから、とあたしはジェイドを軽く無視してガイに答えた。
まぁ心の中では全員呼び捨ててるけどね!


「じゃぁ俺も敬語もさんを付けるのもやめてくれ。その・・・慣れてなくてな」

「わかった、ガイ。」


そういったあたしの頬は少し緩んでたに違いない。
何故かガイは眉と眉の間に指をあてて何かを考えるように立ち去った。

残されたあたしはジェイドの膝の上で少し考え込む。


「ねぇジェイド。」

「どうしましたか?ヒスイ。」


ふわり、といい匂いがするのはきっとジェイドの香水だろうなぁ・・・とぼーっと考えて顔を上げた。
やはり座高には自信はあるけれど、やはり彼の顔はあたしの頭上にあった。
(自信なんてないほうがいいに決まってるんだけどね)(だって座高高いもん仕方ない)

暫く考えて、意を決してあたしはジェイドに聞いた。


「あのさ・・・その、スキンシップって父性本能?
 ジェイドも結構歳だしね・・・。」

「ヒスイ、おしおきが必要のようですね?(笑顔)」

「スイマセンデシタッッ」


あたしは土下座をする勢いで頭を下げて逃げた。

ティアがルークと話をし、ルークが戻ってくるのを見てティアのところに逃げた。
流石にけが人の前ではジェイドは大人しいはず・・・。
という自信はあんまりない。

だけどジェイドはこっちに視線をおくっただけで、あたしのところにはこなかった。
なんだろう・・・でもまぁ、興味が薄れたようでなによりだ。









セントビナーは平和なものだった。
神託の盾騎士団が入り口で待ち伏せていたのは勿論原作どおりで、エンゲーブの馬車に乗せてもらった。
入り口さえクリアすればセントビナーはエンゲーブ同様にのどかなものだった。


「おじさん、死霊使いって軍人知ってるか?」


不意に、少年にジェイドは声をかけられた。
ああ、死霊使いの噂・・・の少年か。

あたしは傍観に徹するつもりで近くの大きく平たい石に腰掛けた。
ジェイドが知っていると言うと少年はあたしには目もくれずに尚も続けた。


「オレのひい爺ちゃんが言ってた。
 死霊使いは死んだ人を生き返らせる実験をしてるって。」

「え・・・・・・?」


ルークが、少し目を大きくした。
きっとラルゴの言ったことをおぼえているんだろうな。

少年はちらり、とあたしを見てから視線を戻してジェイドを見上げる。
一瞬目が合ったのが、すごく気になった。・・・なんだろう?


「今度死霊使いに会ったら頼んどいてよ。
 キムラスカの奴らに殺されたオレの父ちゃんを生き返らせてくれって!」


約束だぞ、と言って少年はあたしに近寄るとそっと耳打ちした。
『黒い髪と黒い目の女の子がきたら伝えろって言われてたんだ。ソイルの木までこいってさ』
少年はこっそりそれだけ言うと走って何処かに去ってしまった。
サブイベント?でもサブイベントはマクガヴァン元帥に会った後のはず・・・。
それにあたしだけ、って?


「何をしているのですか?」

「あ、ジェイド。ごめん、少しこの町を見たいんだけどいいかな?」

「えぇ、よろしいですよ。ただし迷子にならないでくださいね。」

「わかってる!」


この旅の真意をあたしは知らないフリをしている、説明されてないし。
だからここでアニスの手紙や話を聞く必要がない、と判断したんだろうな、ジェイドは。
どんな内容か知ってるから別に聞く必要はないんだろうけど・・・。

ソイルの木はこの町より遥かに大きいのですぐにわかった。
よじよじ、と木にのぼってあたりを見回した。
と同時に声がした。懐かしい、あの声。


「逃げないできてくれたんだ、ヒスイ。」

「久しぶりだね、シンク。」


ざ、と音がして背後に気配を感じた。
どうやら頭上の枝にいたようだ。(折れたらこわいなぁ・・・)

仮面を外してシンクはあたしを抱き寄せる。
久しぶりの彼の匂いは、やっぱりイオンとは違うもので・・・途端涙腺が緩みそうになる。
こんなに弱くなかったんだけどなぁ・・・。


「ヒスイ、ボクアンタがいないと厭なんだけど。」

「そんなこと言ったって・・・あたしにはやることがあるんだけど・・・」

「いいよ、どうせアイツらとこれから関わるんだ。アンタは攫ってくよ。」


そう言ってシンクはあたしを横抱きにしてふわり、と飛んだ。なんてことを!
落ちていくいやな気分にぎゅっと目を瞑ると、シンクが少し笑った気がした。
いつの間にか仮面つけてるしね。


「アンタから、アンタ以外の匂いがする。男?」

「あたし以外?ルークさんかガイかジェイドかティアさんかイオン・・・だね。
 一番可能性として高いのはジェイド。あのバカ大佐すぐくっついてくるし。」


こっちの人のスキンシップって激しいよね、欧米か!って言ってみたけど、勿論シンクにネタが通じるわけもなく。
ただシンクは「あの死霊使いめ・・・殺してやる」と囁かれたのをあたしは風の音で聞かずに済んだ。

タルタロスは再び戻ってきたあたしを、拒むことなく迎えてくれた。






08.07.01 -- 儚く夕焼け色に君は微笑んだ。





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