04 : 不安と安らぎの間で







「んで、腹黒陰険鬼畜根暗親父とは一体どういう関係なワケ?」


ああカミサマ、あたしはこんな子に育てた覚えはありませんっ!
助けてジーザス!







「どういうって・・・多分導師とその身柄を保護する関係だと思うんですがシンクさん。
 っていうかせめてジェイドって呼びなさい。長すぎる。」


あたしはタルタロスの客室で必死になって仮面を外したシンクから逃げています。
ていうかたかだか数日ダアト教会から抜け出したくらいでこんなに怒らなくても!
確かに黙ってお忍び旅行は不味かったかな・・・とも思わなくもないけれど。


「アンタがいない間どれくらいボクが我慢したと思ってるのさ?」


いや、何を我慢したんだ何を。
とは思っても敢えて口には出さない。口に出したら何をされるか・・・。

って部下に怯えてどうするあたし。


「でもシンクはこうしてちゃんと迎えにきてくれただろ?
 まだ少し時期がはやいんだけど・・・。」

「それはッ・・・!
 もう、かなりムカついた。」


そういってシンクはあたしの肩を壁に押し付ける。ガン、と金属と骨がぶつかって相当痛い。
文句のひとつも言ってやろうと顔を上げたその刹那、シンクの顔があって目を瞑る。
頭突きでもされると思った。だけど痛みはまったく別のところにきた。

噛み付かれたかのような、荒々しいキス。

ドン、とシンクの胸を叩いても無駄だった。
シンクの舌があたしの中を荒らしていく。力が、抜けるようであたしは泣きそうになった。


「ヒスイ、いい加減わかってよ・・・。」


とすん、と座り込んだあたしに目線を合わせてシンクが言った。
途端あたしの顔は活火山くらいの温度になった(ような気がした)。


「し、シンク!こういうことをあたしにしちゃダメって言ったでしょ!?
 ちゃんと好きな人としなさいって-------

「ボクはヒスイが好きなんだよッ!!!」


ガン、とシンクがあたしの後ろの壁を殴った。
泣きそうなシンクの顔を直視できなくてあたしは目を伏せた。

初めてあたしにシンクがキスしたとき、そして、そのときに言った言葉。
何も変わってなんかいなかった。


「逃げてるのは、アンタでしょ・・・?」

「シン・・・」

「ボクはずっと誰よりもヒスイが好きだし、愛してる。なのにヒスイはボクの気持ちを無視してる!
 やっと憶えた、やっと理解したこの感情をアンタは認めてくんないワケ!?」


ああ、そうなのか。あたしはずっとシンクを無視していたのか。
一時の気の迷いかもしれないし、あたしより親しい女というのがいないせいかもしれない。
そうやってあたしはシンクから逃げてたの・・・か。

やっと我に返ったあたしはシンクの髪をそっと撫でた。
わかってる、今のあたしは彼に応えることはできない。やらなくちゃいけないことがある。


「シンク、ごめん。確かにあたしはシンクから逃げてたかもしれない。
 だけど逃げずに答えるなら、あたしはシンクの傍にはずっといられないんだ。やらなくちゃ、いけないことがある。」

「・・・わかってる。だけど、今だけ、少しだけでいいから」


ぎゅっ・・・とシンクはあたしの肩を抱いた。
ずっと息子同然に育ててたハズなのに、いつの間にかこんなに男になってしまっていて。
ああ、あたしもバカだなぁなんてぼんやりと考えた。

今はシンクの匂いに包まれていたい。こんなに幸せなこと、これからはなくなるかもしれない。


「シンク、これからシンクはアリエッタたちと一緒にコーラル城に行くと思う。
 そのときにもう一度会おう、逃げないからさ。」

「・・・うん。アンタがヴァンの計画潰そうとしてること、ちゃんとわかってる。
 だけどいつかはボクと一緒にいてくれるんでしょ?」

「当たり前だろ!バカだなシンクはー。あたしは誰よりもシンクが好きなんだからっ!」


わしわしとシンクの髪を撫でれば、嫌そうな顔をして仮面をつけた。
ばん、と大きな音をたてて扉が開いた。


「ヒスイ様!よく、よく生きてましたッ・・・!」

「ラクト!?」

「チッ、余計なヤツがきた・・・。」


ラクトというのはシンクの後任導師守護役。
とは言ってもシンクが導師守護役を降りたワケじゃない(と本人は言い張ってる)ので、シンクのいない間あたしの世話をしてくれている。
ちょっと(いやかなり)過保護なお兄さんだ。

すらりと高い身長、片メガネの彼ラクトはシンクのいわば部下。
(といってもシンクは参謀長官だし第五師団長でもあるワケだから大体の人間が部下なんだけど)

ただ彼はあまりにいい人すぎるので、シンクもたじたじらしい。
普通にいい人!神父さんって感じだ。


「シンクも此処にいたんですか。シンクがいれば安心ですね」

「当たり前じゃん、そんなこと・・・っていうか何しにきたのさ?」

「大詠師モース様からの命で、脱走した導師ヒスイの保護に。」


かなり素敵な笑顔で脱走とか言わないでくださいラクトさん!
確かに今の教団の最高権力者はモースだけどさ、そんな命令ださなくたって・・・。
監視の目が届かないあたしを探るのは大変なんだろうけど。


「シンクも、ラクトも聞いて?あたしはダアトには暫く戻らない。
 やることがあるから明日にはこのタルタロスを出る。シンクは落ち合う場所は言ったよね?
 ラクトはついてきて。」

「ちょっと・・・なんでラクトなのさ!?」

「ラクトは六神将じゃないから。ただの騎士団に所属している兵だぞ?」


ワガママ言わないの、とシンクの頭を撫でると、彼はラクトを睨んだ。
相変わらずラクトはへらへらと笑っていたが。(緊張感がないのも彼の長所であり短所だ)


「大丈夫だよ、シンク。ラクトにも仕事を与えるからさ。」

「ボクよりヒスイと一緒にいたら殺すよ!」

「・・・考慮はするから。」

「シンクってばヤキモチ妬きさんだなぁ」


へらへらと笑うラクトに拳を作ってぷるぷると怒りに震えているシンク。
ある意味ラクトは最強だなぁ。


「あ、そういうと思って旅券ヒスイ様の分も持ってきておきました。
 シンクの分はなくても平気かなって思って持ってこなかったんだけど・・・。」

「あ、良かった。気が利く!カイツールで孤独死するところだったよー。」

「そのときはボクが迎えにいくから絶対死なないし。っていうか余計なことしてくれたねラクト・・・。」


これでも導師守護役ですから!と笑顔で答えるラクト。ラクト、多分シンクはホメてない。

そんなこんなでラクトから旅券を受け取り彼は自分の部屋に戻っていった。
シンクはどうもラクトを敵視しているみたいだけど、ラクトがそれをわかっていないからなぁ。
どちらかというとしっかりしたイオンなイメージがラクトにはある。

ラクトが綺麗に閉めた扉から再びシンクに視線を戻す。
シンクはまだ扉の方を見ながら口を開いた。


「さっき、ボクの気持ちに応えられないって言ってたけどさ。
 でもボクを嫌いなワケじゃなくて、他に好きなヤツがいるワケでもないんだよね?」

「うん、そうだな。」

「じゃあいいよ、元々ヒスイはボクのものだしね。」


ちゅ、と可愛いリップ音がした。
またもやあたしはシンクにキスをされたようで、もう自分の隙の多さに呆れて言葉も出ない。

だけど多分、あたしはそうされるのが嫌じゃないんだろうなぁ。
一応弁解するとシンクはあたしの部下であり、あたしのものだとは思うけど、あたしはシンクのものじゃないはずだ!






トントン、とノックの音が聞こえた。
数日寝ずにあたしのことを探し回っていたようで、すっかりシンクは熟睡している。
扉を開けて見ると、ディストが立っていた。


「まったく貴方は導師でありながら教会を抜け出すとはどういうッ・・・!」

「しー。シンク寝てるから。」


あたしはディストの口を手で塞いで外へと追い出して自分も出た。
ディストとあたしは結構仲がよく、よく色々なものを作ってもらっている。


「貴方、抜け出すときに相当焦っていましたね?これを。」


そういって手渡されたぬいぐるみ・・・(某有名RPGのキャラクター)モーグリを手渡される。


「あ、クポ。ディストありがとう!」

「ついでに少し改造しておきました。音素を縮小してぬいぐるみ内に保存することも可能です。
 あと、これを。」


そういって渡されたのはもうひとつ、クポの人形。ただかなり小さく、キーホルダーのようなものだ。
なにこれ?とディストに尋ねると、「通信機です。」と短く答えた。


「その大きなぬいぐるみと、通信できるのがこの小さなぬいぐるみです。まだ試作段階ですけどね。
 私もひとつ持っていますが・・・これはシンクにあげてください。私が直接あげると捨てられますから。
 貴方がいないと、彼・・・物凄い機嫌が悪いのでね。」

「ごめん、心配と迷惑かけちゃって。」

「いえ。べ、別にどうでもいいんですけれどあの陰険メガネと貴方が一緒にいるのが気に入らないだけですからっ!」


・・・ジェイドとあたしが一緒がいや?
ああ、そういえばディストってジェイド大好きっ子だっけ。


「じゃあたまにジェイドに通信変わってもらう?」

「結構です!!というか、そういう意味じゃありませんよっ!!」


そうなの?と聞けばちょっとスネたような怒ったような顔をしてディストが部屋に戻っていった。
もう随分遅い時間なんだろう。
部屋に戻ってシンクの手にチビクポを握らせて、そのまま彼の眠るベッドに横になった。
彼の体温がベッドにも伝わっていて、それが心地よくてあたしはそのまま眠りについた。











08.07.13 04 -- ただ貴方を護りたかった。






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