07 : 恋し焦がれて







よくよく考えるとあのトサカはきっと彼なのかもしれない。





「チキンもエビもないだと!?屑が!!」


食堂にバスケットを返しに行くと、まぁ彼がいたわけです。
ひとりでバスケットを返せないだろうからとついてきてくれた(前回シンクにフルボッコにされた)
兵のひとりが少し青い顔をしていた。


「あ、アッシュさまです・・・六神将で特務師団長、通称"鮮血のアッシュ"」

「ありがとう、予想はしていたけれど。」


空のバスケットを返したいだけなのに彼の十八番(?)である「屑が!」を何度も叫び散らして
食堂のおばちゃんは多大な迷惑を被っている。
さてさて一体如何したものか。

とりあえず怯えてる兵士さんに「もう迷わないだろうから帰っていいですよ」と言ってトサカの隣に立った。


「おばさん、サンドイッチご馳走様でした。おいしかったです!
 あ、あとこのうるさいの連れて帰りますね」

「導師様ご本人からそんな言葉をもらえるたぁアタシも幸せモンだねぇ!
 またおいで、たくさんサービスしてあげるよ!」


どん、とふくよかな胸を叩いてにっこり笑うおばさんにもう一度礼を言ってからアッシュの手首を掴んでずるずると引きずる。
アッシュは空腹なのかぎゃーぎゃーと叫びだした。


「おい導師!一体何のつもりだ!」

「アッシュさん、導師命令です。あたしのためにここにクッキーをだしてください」

「は?」


何を言ってるんだ、ある訳がないだろうが。
そう言って眉間に皺を寄せ怪訝な顔をする鮮血の燃えカスにふう、とため息をついた。


「出せるわけないですよね。今アナタがしていたことはこれと同じことです。
 無いものは無い。叫んだところで出てこない。」


あたしはまた彼をひっぱって歩き出す。
向かうのはダアトの街だ。


「おい導師、何処に連れて行く気だ!」

「何処って、街ですよ。シンクともラクトともデートしたことなかったんですけどねー。」


まぁ初めてがアッシュでもいいか。
のほほんとそんなことを考えていると、アッシュが少し頬を赤く染めた。

お肉屋さんに入って美味しそうなチキンを焼いてもらうと、お金を払ってアッシュに持たせる。


「なっ・・・」

「ここのチキンの焼き方と味付けがあたしの好みなんですよ。ナマでも売ってもらえますけどね」


たまに仕事が終わるとこっそり抜け出すんです。
そうあたしが言えば少しだけチキンを見て、口に含んだ。
ひとくち、またひとくちと食べてそれはすぐになくなった。


「・・・ご馳走様」


それはお肉屋さんに言ったのか、あたしに言ったのか。
わからなかったけれどどうやら気に入ってくれたようだ。

流石にエビが美味しいところはわからないけれど、散策(という名の逃走)も大切だなぁ。
また戻ろうとあたしが歩き出すと、隣に彼が並んだ。


「俺は・・・アッシュだ。」

「うん、知ってる。」

「だろうな。」


・・・会話が、もたない。
あのシンクですらよく話してくれる(よくよく考えたらそれもすごいことだ)のに、彼といるとネタが尽きる。
そういえばシンクは同年代の友達がいなかったなぁ。
ラクトはどちらかというとお兄さんだし。


「あのさ、アッシュさん」

「アッシュでいい」


ほんの少し、彼が笑ってそう言うから、あたしも「アッシュ」と呼びなおす。
シンクとアッシュは何処か似通ったところがあって、やっぱり眉間に皺を寄せるだけのトサカじゃないんだなぁと思った。


「シンクとさ、仲良くしてあげてほしいんだ。
 あの子あんなだから、中々友達とかできないだろうし。ほら、恋バナとかしなきゃいけないお年頃だし!」

「恋バナって・・・これは仕事なんだが」

「まぁまぁそのへんはあたしの権力と美貌でなんとかするし多分変態ヴァンも許可してくれるよ」


一応あれでも詠師ならびに首席総長だぞ!?とアッシュが眼を開いたが、確かに合ってると思ったのか妙に遠い眼をした。
ああ、一応彼にとっても師匠なんだっけ。変態だけど。


「わかった、チキンの礼だ・・・それくらいは引き受けてやる。」

「ありがとう、アッシュ。」


レプリカとか、オリジナルとか。そういうのがなくなればいいのに。
教会についてアッシュと別れ、あたしは自室へと戻った。





ソファに座ったラクトは予想外にもまだ引きずっているのか、頭をだらんとだらしなく垂らしていた。


「ラクト?」

「あ、おかえりなさい、ヒスイ様」


ベッド借りました、シンクが今寝ていますよ。という彼の顔色はさほどよくない。
体調が悪いのかな?譜眼のせいとか?

そっと隣に座って背の高いラクトの頭を撫でた。


「!」

「あ、ごめん、嫌だった?」


吃驚したように身体を一瞬強張らせたラクトを見て、あたしはぱっと手を離した。
その手をラクトに掴まれて、引き寄せられる。
ぎゅ・・・と痛いくらいラクトがあたしの身体を包んだ。


「ラクト・・・!?」

「もう少しだけ、このままで・・・」


私の罪が、貴方といると薄れていくから。
それだけあたしの耳元で囁くと、尚も腕に力を込めた。

痛いけど、苦しいけど。
ラクトが落ち着くくらいまでは、あたしも痛いのくらいは我慢してあげよう。




彼が本調子に戻って部屋に戻ると、あたしはシンクの様子を見に行った。
しっかりと寝ているようで、そのあどけない寝顔がものすごく可愛かった。

親バカかなぁ、と思ってシンクの手を握ると、ごつとしたものが指に触れた。
これは・・・


「ペンだこ?」


なんでこんなものが・・・と思ってからシンクの仕事を思い出した。
そうか、最近こなかったのは慣れない仕事をしていたからか・・・。
よく考えれば生まれて間もない子にペンを持たせて字を書かせる。それを一日中すれば流石のシンクもこうなるだろう。
弱音も吐かずきっとつらい思いをしてきたんだろうな、と思ってシンクの仮面をそっと外そうと手をかけた。

がし、と手首を痛いくらい掴まれる。


「だ、れ・・・」

「ごめんねシンク、起こした?」

「ヒスイ・・・?ううん、だいじょ・・・ぶ・・・」


うとうとして眼を擦りながらあたしに抱きつくシンク。この上なく可愛くてわしわしと頭を撫でた。
むぅ、と少し唸ってシンクはあたしをベッドの中に引っ張り込んだ。


「し、シンク?」

「うん、大丈夫じゃない、起こした責任とってよね」


しっかりと覚醒したシンクはあたしを抱き枕にして再び眠るらしい。
暫く拘束されていたあたしはシンクの眉間に皺が寄っているのを見て何事かと尋ねた。


「アンタから・・・オキラクトの匂いがする・・・」

「ああ、さっき抱きつかれたからかなぁ」


なんか様子が変だったよ、と言ってももう心此処に在らずなシンクはラクトより力を込めてあたしを抱きしめる。
いたいいたい骨がなんかミシミシって!ミシミシって悪い音してるし!

わたわたと暴れるあたしにシンクは悲しそうな、つらそうな瞳を向ける。
え、あたしなんかしたっけ?


「ねぇヒスイ、恋って何?」

「へ!?」


いきなり聞かれ困るあたし。
そんな切なそうな顔をして・・・まさかシンク恋した?
でも今日シンクと一緒にいたのって・・・まさかラクト!?
だめだシンク、はやまるな!

といおうと思ったけれどあまりにシンクの真剣な瞳に流石にギャグに持っていくことは出来ず。
恋について考えてみた。
思えばあたしも恋愛経験は豊富ではない。
冬樹が常に隣にいたけれどあれはあくまで戦友であり悪友であり腐れ縁というやつだ。


「昔、本を書いてた人が言うには"恋愛はただ性欲の詩的表現をうけたものである"らしい。
 でも、辞書的な意味では"性的に特定の他人とのつながりを求める状態・情動"だってなんかに書いてた」

「性欲とか、性的とかがわかんない。」


そうですよねわかんないですよね。

恋愛っていうのは感覚だと思う。あたしはその感覚に乏しいからなんとも言えないけれど。


「つまり、多分だけど自分のものにしたいって独占欲とか、そういう感情が働いた先に行き着くところ。
 それが性欲なんじゃないかなぁ・・・?」


実際に何をするかはあたしの口から教えることじゃ(きっと)ないから、図書館で調べなさい。と言っておいた。
けれど烈風のシンクが恋愛について図書館で調べていたらそれはそれでおかしな光景だ。


「他の人に、触れさせたくない」


シンクはぽつり、とこぼしたが、何事も無かったかのように眠ってしまった。
きっとものすごく疲れていたんだな。打開策を少し考えておかないと。
3つも仕事を受け持っているんだから疲れるのは当たり前だし。

・・・せめて執務くらいはできる補佐官がいればいいんだけど。

それくらいの権限はあたしにあるかな?とりあえず明日あたりにでも神託の盾にいって探してみよう。
でもシンクの補佐をしたがる人なんか中々いないだろうなぁ。

眠る姿と起きている姿は全然違うのに。
あたしはクスリと笑ってあたしよりも大きい彼の身体に包まれて一眠りすることにした。






08.07.23 Old Story 07 -- 嫉妬、この感情はまだ知らない。






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