◎四月馬鹿の報復(紅霞)
「
なァヒスイ、今日って何日だ?」
「いきなりどうしたの紅霞。今日から四月だよ…」
はぁ、とため息を吐きながらヒスイが答えた。
ここ最近は鬼のような忙しさに追われてようやく一息ついたところだった。
借りてる部屋でごろごろと惰眠を貪っていた俺は帰ってきたヒスイとふたりっきり。
翠霞のやつ悔しがるだろうなァと思えば口元がついつい上がってしまうというもの。
あいつ、本屋に真紅と行ってたんだっけか?忘れちまったけど。
「
四月か…早いモンだな」
「今年始まってからまだ数週間しか過ごしてない気分。忙しいってイイコトだと思ってたけど、これじゃ身が持たないっていうか…」
「
お疲れさん。ちょっと待っとけよ」
転がっていたソファを譲って席を立つと倒れるようにクッションの山に沈んだ小さいカラダ。
相当、参ってるらしい。あっちこっち手足を伸ばしたり引っ掛けたり白波がいれば卒倒モンのだらしなさだ。
遠慮の無いその様が他のどいつよりも優位な立場にいるという何よりの証拠だって思ってる。
ンなこと言うと翠霞がうるせェから口にはしねーけども。
モーモーミルクを冷蔵庫から取り出して、顔を出してきた橙華を冷蔵庫に押し戻す。
それを鍋にかけて砂糖を多めに、心ばかりのコーヒーを混ぜ込む。
紅茶なんて淹れられるようなタイプじゃないし白波もいない。そんなときはこうして甘めのカフェオレを作ってやることが多い。
白波はおっさんとどこ行ったんだっけか…。
モーモーミルクが良い塩梅にあたたまったのを確認して砂糖を溶かす。俺にはあまり考えられないが、ヒスイは大の甘党で気がつけば白波の用意した菓子をつまんでる。
そういえば朝にラングドシャを作っていくから食わせろって言ってた、ハズ。
綺麗にラッピングされたそれを確認して、自分のコーヒーも淹れる。
頭に皿を乗っけて(こう見えてバランスはいいからな)両手にマグを持って戻ればひどく慌てて頭のラングドシャの皿をとられる。
「わ、ご、ごめんね紅霞!」
「
別にかまわねェよ。冷めないうちにホラ、」
ぐ、とマグを押し付けて自分のコーヒーに口をつける。苦味が口いっぱいに広がって、定期的にこの黒い液体を堪能しないとダメになったあたり、随分人間くせェポケモンになったな、と自嘲する。
だが成り下がったとは思わなかった。この姿で居られることに幸せすら感じるようになった。
隔たりが無くなった、そんな気がしていた。
ヒスイにとっちゃあ元々隔たりなんてなかったんだろう。元の姿でも、家族として対等であってくれる。
でもそれじゃあ物足りねェんだよなぁ…。
隣でオレに口付けるヒスイのマグを奪い取ってテーブルに置いた。
そのまま、覆い被さって唇を重ねる。驚いて眼も閉じないその様子がなんだかイライラしてきて、俺を嗜めるために薄く開いたそこから舌を捩じ込む。
ヒスイを捉えれば甘ったるい味が広がってつい顔を離せば、眉間に皺を寄せて、黒の瞳が睨みを利かせていた。
「紅霞、すんごい苦いんだけど」
「
そりゃブラックだしな、お前は甘すぎ」
「紅霞が作ってくれたんじゃんか…っていうかどいて!」
あ、おいしいよ、と慌てて付け足すヒスイはどこかズレている。ハナから退くつもりなんざサラサラなく、今頃高く高く昇りきっただろう太陽を窓から差し込む光で察する。
「
なんつーか、」ぼんやりと、ヒスイの頬を指で弄りながらぼんやりと口にした。
「
結婚、するか。今すぐ。」
「…?紅霞、エイプリルフールのネタ、思いつかなかったの?」
「
時計見てみろよ」
ヒスイの視線がそのままゆっくりと時計に移る。とっくに正午も過ぎており、太陽は燦々と降り注いでいるわけで…。
俺の言葉の意味がわからないのか「お昼過ぎだけど、」と怪訝な顔をする。
「
エイプリルフールの嘘っつーのは午前中に吐くもんだろ。」
「はっ!?じゃ、じゃあ……!!」
「
大したことじゃねェよ、ちょっくらさ」
式挙げて、幸せになって、俺だけのモンになるってだけだから。
甘い咥内にまた入り込めば瞳を閉じられる。
あー、ソレ、返事って解釈するからな。させるつもりはないけど後悔、すんなよ?
ずっしりとさっきよりもクッションが沈むのを感じて、充足感にそのまま酔いしれる。
四月馬鹿の報復
(
甘いのも悪くねェな、なんてガラでもないが)
四月馬鹿企画で2時間程で書きました、紅霞夢です。
手持ちで申し訳ない…このコーヒーのくだりは単に夢主に「紅霞苦い」と言わせたかっただけです。はい。
四月馬鹿ネタであってそうでないんですけどまぁいいよね。
2012.04.01 Algorithm.107(Lego House) Culm
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