きみをしりたい(シルバー)





この色とりどりの小物の並ぶ商品棚の前で、俺は小一時間立っていた。
問題は山積みなんだが、一番の問題は俺がアイツの好きなものを知らないってことだった。
そもそも、出会ったら(主に俺が一方的に)勝負をしかけて(しかもまだ勝った試しがない)勝敗が決まればさっさと別れる仲だ。

否、実際には少し違う。
正直言うとアイツの行動は結構知っているほうだ。…ストーカーじゃない!アイツが俺の行く先々にいるだけだ!
たまたまアイツ…ヒスイがカフェで紅茶を飲みながらメガニウムに菓子を与えてるときに呟いた一言を、そう、たまたま、聞いてしまっただけだ。


「なんていうか、私明日誕生日なんだよね…またひとつ、老けるんだよ…」


げっそりとしたアイツの顔を見ながら木陰で俺は固まってしまった。
誕生日、アイツが、生まれた日。
ドキドキと心臓が鳴ればアイツのポケギアが鳴った。


「あ、はい、え、マツバさん!?は、はい元気です。
 えっ!なんで誕生日知ってるんですか?いやいやそんな悪いです!いや、あっ!もうマツバさん!」


一方的に切られたらしいポケギアをじっと見つめて、少しため息をつく。
なんなんだマツバ、アイツ、ヒスイの番号知ってるのかよ。
俺なんて何度聞こうと思って聞けず終いだったと思っているんだ。

ため息を吐きながら再度自分の目の前にあるケーキを突付き始めるヒスイを見ていると、またアイツのポケギアが鳴った。
どれだけのヤツに番号教えてるんだ、というか、軽すぎるだろ!何故俺には教えないんだ。


「は、ハヤトさん!えっ!?いやいやもうホントに…マツバさんですね!もう、あの人余計なことー…
 そんなの悪いですからお気持ちだけで…って、あっ!もう!」


また切られたのかポケギアを乱暴に鞄にかけるとケーキを口に含む。
美味しかったのか、キリキリとした雰囲気をすぐに溶かしたように笑顔になった。
少しフォークでそれをとってメガニウムに「あーんしてっ」と突き出している。

…羨ましい。

結局ヒスイがカフェを立ち去るまで木の陰から見ていたワケだけれど、今の時間だけで恐らくマツバとハヤトもプレゼントを用意するんだろう。
かといってやつらはジムリーダーだし、時間がかかるはずだ。

そう思って俺はコガネ百貨店に直行した。そして、冒頭に戻るわけだが。


「…バクフーン、お前は、どう思う?」

『…?』

「アイツの事を知っているつもりだった。俺は。でも、好きなもの一つ知らない」


ピッピの形をしたぬいぐるみを手に取る。こんなの、旅の邪魔になるだけだ。
棚に戻してまた考える。
ふと、背後からの視線を感じて振り向けばおずおずと女店員が話しかけてきた。
…面倒だな。


「あの、何かお探し…でしょうか…?」


目線を合わせず(というよりは怯えた様子で)やっと開いた口は落ち着きなく動いてる。
さっさとここを離れようかとも思ったが、行き詰ってるのも確かで。
「聞きたいことがある」と言えば、やっと女店員が少しだけ視線を上げた。

すすめられた物からひとつ、とってレジに持っていけば綺麗にラッピングされる。
自分に不似合いなピンクの箱を隠すようにポケットに半分入れて逃げるように百貨店を後にした。

くそ、ここに3時間も突っ立ってたとは思わなかった。

夜中、クロバットを出して空を飛ぶ。長くは飛べないが、この程度の高さなら問題なく飛べる。
ベランダに侵入して窓を叩けば、薄暗い部屋のカーテンが揺れた。
数日前からコイツがここに泊まっていることは知っていた、昼間に見たあのカフェのケーキを食べるのにコガネに6泊はしてたはずだ。

…断じて、ストーカーではない。

目をこすって、キャミソールと短パンで出てくるヒスイにどきり、とした。


「あれ、シルバー…?こんなとこで、何してるの?」


ていうか、今、何時?とキョロキョロ周りを見回すがポケギアも掛け時計も生憎闇の中だ。
部屋に上がりこんでソファの背もたれにかけてあったパーカーを投げつければ、「へぶっ」と顔でそれを受け止める。


「そんな恰好でウロつくなよ」

「だ、だってあたし寝てたもん…ていうかシルバー、なんで夜中に窓から…」

「…悪いかよ」

「(悪いでしょ…)」


じっとりと睡眠妨害をされたヒスイが睨んでくるが、気にせずソファに座った。
ぼす、と音がして、少し凹む。

なんていえばいいんだろうか、そもそも、コイツ、いくつになったのかも知らない。
これだけ長い間関わっているというのにも関わらず俺は本当に何も知らなかったんだな。

…まぁ、いいさ。


「…祝いに来た」

「祝い…?」

「誕生日、」


言葉が思っている以上に続かない。いつだって心の中で話せるようにあらゆる答えを準備しているのに、いつの間にか飛び出すのは「弱いヤツ」と罵る言葉。
それでもいつだってコイツは微笑んでくれる。

無情にも、それが俺だけにというワケではないのだ。
明日になればマツバやハヤトがコイツの笑顔を見るのだろう。それは、最悪だ。


「ま、マツバさんから聞いたの?」

「…違う。受け取れ」


ポケットから少しくたびれた箱を出して投げる。今度は顔で受け止めることなく、ヒスイの手の中に納まった。
何か言いたげにしていたけれど、黙って綺麗に細い指で包み紙を剥がしていく。

手にした箱を恐る恐る開ければ、高音が流れ出す。
ゆっくり流れるメロディーと、箱の中でキラキラと光るスイクンを見てから、俺に視線を向ける。

スイクンにかけられたネックレスをとって、手の平で少し転がして笑った。


「シルバーって、結構メルヘンな趣味なんだね」

「ち、ちがっ…!」

「冗談。でも、ありがとう」


目を細めて、笑うヒスイに、抑えられなくなりそうで立ち上がってベランダに逃げ出した。
バタバタと忙しなくクロバットが飛んでいる。
後ろから、俺の腕を掴んで「もう行くの?」と小首をかしげる。

ああ、頼むから、そんな仕草をするな。
否、俺にはいいが他のやつにはしないでくれ。


「長居は、しない」


唇を、曝け出された額に落としてから俺はベランダの柵に足をかけた。
面白いくらいに赤くなり始めたヒスイに、ふ、と鼻で笑う。

この程度で赤くなるなんてまだまだ子供だな。


「次は俺が勝つからな、必ず」


勝ったら、今度は唇にしよう。それまで特訓を続けるだけだ。
クロバットに捕まれば、青白い月が輝いていた。





* * *

2009/10/31



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