出逢い
舞の言葉に俺も視線を向ける。
近づくにつれ、まず目に付いたのは薄桃色のマントと青い上着。白いズボンから見えるのは上着と同色の青いブーツ。肩にかかるかどうかくらいの黒髪は風に吹かれて揺れている。一見女子と見間違えるような整った顔立ちは、今は不機嫌そうにしかめられ紫水晶の瞳が俺達を睨みつけている。見たことのありすぎる顔。
間違いない、リオン=マグナスだ。その後ろには兵士と思われる揃いの服の人達。
どうしようか考える間もなく、本当に会えたよ。
「貴様ら、そこで何をしている」
リオンと思われる少年は俺たちから数メートル距離を保って立ち止まった。疑う眼差しに俺は素早く舞と目配せをする。舞は小さく頷き、この場を俺に任せてくれた。
「えーっと、休憩、かな? 妹と向こうの小屋で休んでいたら盗賊の縄張りだったようで、襲われかけた」
その言葉に兵士達がざわめく。紫水晶は変わらない。
「その盗賊は」
「返り討ちにしたからそこで伸びてるよ」
俺がそう言うと兵士達のさらに驚いた顔が見えた。お互いに顔を見合わせてリオンと思しき少年──推測面倒だな。もうリオンでいいだろ──の方を見た。そしてリオンが頷くのを見て盗賊達の方へ走っていった。すぐに一人が駆け戻ってくる。
そういえばここで休んでいたけど、もし盗賊たちが目覚めたらまた追われていたかもしれない。留まっていたのは間違いだったかな。いや、こうしてリオンに会うことができたのだから結果オーライ。良かったことにしよう。
「賊は全員、気を失っています!」
「叩き起こして城へ連れて行け。……貴様も連行する。おとなしくしろ」
前言撤回。え、そうなっちゃうの。城で被害届の提出を……なんて雰囲気じゃないよなぁ。連行って言ったし。これってもしかしなくても、
「疑われてる? 返り討ちにしたって言ったじゃん」
「貴様のような子どもが盗賊を壊滅させただと? 信じられるか」
兵士に指示を出す君だって十分子どもの姿だけど。という言葉は唾とともに飲み込んだ。まずい。何を言っても逆効果。火に油な気がする。
「貴様が盗賊達の仲間でないという証拠は」
あー、仲間割れを起こしたとか、油断させる作戦とか、そういう感じ? 不本意だなぁ。
「証拠ねぇ。襲ってきた当人達に聞いてもらえるのが手っ取り早いかと」
「真偽は城で分かることだ。逆らおうなど考えないことだな」
「はいはい。ちなみに妹は手を出してないからな。疑うなら俺だけにしてくれよ」
事実なのだが、立ち回りが二人から俺一人に減って疑いの目が一層強くなった気がした。やれやれと肩をすくめる。海外のホームドラマのようなリアクションを取ることになるなんて。
「盗賊達の仲間でないと言う割には荷物が無いな。どういうことだ」
まぁ、俺も舞も身一つだし、持ち物と言えばソーディアンの雫だし。盗賊に取られたことにしよう。うん。都合の悪いところは全部盗賊のせい。
「小屋で休んでて襲われたって言ったろ? 持ち物全部後生大事に抱えて逃げるかよ。身を守る刀と妹の手を離さないようにするので精一杯だったさ」
「子ども二人だけか。親はどうした」
リオンの口から親という言葉が出るなんて。というか子ども子どもって。俺、リオンと同じくらいの年齢のはずだけどなあ。
「俺と妹の二人だけだよ」
どうしたという質問には答えず、事実のみを言う。二人だけなのは本当だ。
「迷子というより孤児、でしょうか?」
リオンの側に立っていた兵士が言った。
孤児ねぇ。保護者がいないって事だよな。舞と二人暮らしだし、間違っては無いよな。よし、そういう事にしとこう。
「二人でダリルシェイドに向かっていたところさ。あの街なら働き口があるかなと思って」
「その剣はお前の物か。随分と古そうだが」
家族構成についてはそれ以上触れられず、俺達にとって都合よく解釈してくれたようだ。次は雫について聞かれる。
「柄と鞘は古く見えるが切れ味は悪くないぞ? 切れ味良すぎて正気を失うくらいに」
『笑えないわよ』
「笑ってくれよ」
呆れたように雫が言った。俺としては笑い飛ばしてほしいんだよ。
雫が一言呟いた声を聞いて、それまで不機嫌面だったリオンの表情に変化が。信じられない物を見たかのような目をした。
「まさか、いや、そんな馬鹿な」