出逢い
「その剣はまさか──」
『ええ!? 嘘!? シズク!? 何でここに…ってギャァァァァ!坊ちゃんごめんなさぁぁい!!』
急にリオンとは違う若い男の声がしたと思ったら、リオンが眉間に皺を寄せて自身の剣のレンズっぽい所に爪を立てている。
あれがリオンのソーディアン、シャルティエか。リオンの言葉に被さるようにまくし立てた為に、コアクリスタルを引っかかれていた。
はっきり言って、煩い。驚いたシャルティエの声よりその後の悲鳴が。耳が痛い。
『その声はシャルティエ? 久しぶりですね』
「この煩い声は知り合いか。姿が見えないってことは雫と同じソーディアンか」
すっとぼけて雫に聞く。ああ、聞こえない兵士達が今は少しうらやましい。
「お前、ソーディアンのことを知っているのか」
耳で聞いている訳ではないだろうに不思議と痛む耳に顔をしかめていると、リオンが念を押すように聞いてきた。
「言葉を話す剣だろう? 声は聞こえる人と聞こえない人がいる。雫から教えてもらったよ」
「シズク?」
「俺のソーディアン。リオンの剣からも声が聞こえてきたってことは、それもソーディアンか?」
「……どういうことだ」
『えっと、シズクについては色々とありまして……僕もまさかこんなところで会えるとは』
リオンと出会う前に雫に会えたのは運が良かった。千年前やソーディアンについては雫から聞いたと通すことにしよう。
「お前、名は?」
少し考える素振りを見せた後、リオンが尋ねてきた。二人称が貴様からお前になっているが失礼な物言いと上から目線に変わりはない。
「人に名前を尋ねる時は自分から言うもんだと思うけど?」
本当は知ってるけど。でも俺、マナーには結構厳しいよ。
「……リオン=マグナスだ」
何だよ、その間は。
「リオンね。俺は天宮空。あ、いや、こっち風にいうとソラ=アマミヤか。ソラがファーストネームね。で、妹の」
「マイです。よろしくね」
そう言って舞が手を差し出す。
「ソーディアンマスターの素質があるのなら陛下に報告する必要がある。ついて来い」
武器である雫を俺から没収して歩き出すリオン。手をプラプラさせた舞と顔を見合わせ、苦笑する。連行された盗賊達のように縄は打たれなかったが、完全にシロにも見られていない。出会ってみたいとは思ったが、まだまだ前途多難のようだ。
「ああ、舞」
一つ言っておかねば。小声で舞に囁いた。
「何?」
「俺今からバレない限り男って事にするから、俺の事はおねぇじゃなくソラって呼んでな」
「え、何で?」
「それは──」
「おい! 早くしろ!」
リオンに怒鳴られた。後で教えてねとマイが言い、二人して小走りでリオンの後を追う。
「そうだ、リオンのソーディアンは何て呼べばいいんだ?」
歩きながらリオンの剣を指差す。ポウっとコアクリスタルに明かりが灯った。
『初めまして、ピエール=ド=シャルティエといいます。シズクとは久しぶり、ですね』
「よろしく」
「よろしくー」
マイもソーディアンの声が聞こえることを言い、お互いの自己紹介を済ませる。うん。シャルティエは良い関係が築けそうだ。ただ……
「煩いぞ、黙って歩けないのか」
リオンと仲良くなれるのか果てしなく不安。シャルティエと話そうとすると必然的にリオンの近くに立つことになり、声の聞こえるリオンは煩わしそうにしている。
「そう睨むなよ。眉間に皺寄せてると跡が残って将来大変だぜ? それにシャルティエだって雫と喋りたいだろうしさ。久しぶりなんだろ?」
『まあ千年振りですしね。シズクはずっとソラと?』
『いいえ。ソラとは少し前に出会ったの。で、一緒にいる間に私やあの時代の事を教えたりしてたのよ』
ナイスだ雫。俺が思っていたように、喋りすぎても雫が教えてくれたと誤魔化せる。
「……勝手にしろ」
話が弾み出すとリオンも口が出せなくなり、小さくそう呟いてからは何も言わなくなった。
そこからの道のりは、千年前の話やシャルティエによるリオン自慢(本題に入る前に当人によって止められたが)などで盛り上がった。
雫がハロルド=ベルセリオスの話を出した時にシャルティエが引きつった声を出して場を煩くし、怒られていたのはまた別の話。