雨だ。
今朝は天気予報を見る暇がなかった(寝坊した)から、私は傘を持っていない。
みんな折り畳み傘とか持ってるんだろうなぁ。
私もいつもは持ってる。
2日前に使って干したままなだけ。


とかなんとか言って雨が弱まるのを待つことにしよう。
今は「バケツをひっくり返したような雨」が降ってる。
待ってたら霧吹きくらいの雨にならないかなぁ。


「名字?」

「ん?あぁ、山田くん」

「家帰んねぇの?
 あ、もしかして傘忘れたとか?ダッセェ!」


なんだダッセェって。
煽り散らかしてくるなら、乗ってやろうじゃないか。


「はっ、その通りですけど何か?」

「まじかよ、今日は夕方からぜってぇ降るって天気予報やってただろ」


ありえねぇって顔で見ないでくれ。
こちとら寝坊したんだ。


「山田くんはもちろん傘持ってるんだよね?」

「たりめぇだろ」


腕組んで鼻をふんって威張ってる。


「それは、よぉござんした」

「・・・・」


外を見る。
なかなか雨弱くならないなぁ。
近くのコンビニまで走って傘買いに行くべきか。


あ、山田くんに傘借りてコンビニに傘買いに行くのがベストか。
でも山田くんももう帰るだろうし困るか。
うーん。

提案だけしてみよう


「ねえ」「なぁ」

「ん?被ったね、山田くんからどうぞ」

「い、いや。お前から言えよ」

「いいの?あのさ、近くのコンビニまで傘買いに行こうと思うんだけど、ちょっとだけ山田くんの傘貸してくれない?」


すぐ帰ってくるから!と念をおす。


「っまぁ、別にいーけどさ。また帰ってくんのダルくね?」


それはそうだ。
傘借りて傘買って学校帰って山田くんに傘返して買った傘で家に帰る。
手間掛かりすぎワロタ。

家まで歩いて帰ると20分。
走って帰れば15分もかからないか。


「確かにそうだよね。やっぱやめとく」

「そうかよ、ならさ」


しょうがない、こうなったら


「走って帰ることにする」

「はぁ?!」


またありえねぇって顔された。
これが最善の策だろう。
なんだ、他にいい案でもあるのか。


「コンビニまで走るなら、もういっそのこと家まで走った方がいいかなって思ったんだよね」


そうでしょ?って山田くんを見つめる。


「お、おれと一緒に帰ればいいだろ」

「え?」


おれと一緒に帰ればいいだろ?
山田くんと?


「俺の傘わりとデケェし、二人でも濡れねぇよ」

「あー、それはありがたい。でも、いいの?」


山田くんはとてもおモテになられる。
なんてったって、お昼にいろんな女の子からお弁当をもらってるんだ。
私にも分けて欲しいくらい。


「俺がいいって言ってんだからいいんだよ」

「山田くんの彼女に誤解されない?申し訳ないよ」


あのお弁当作ってくれる中にきっと彼女が


「おれに彼女はいねぇ!!」


びっくりした


「そ、そうなんだ。意外!
 急に叫ぶからびっくりした〜」

「・・・で、どうすんだよ」


せっかく山田くんが提案してくれたんだし、お言葉に甘えよう。


「よろしくお願いします」

「おう」


すっごい笑顔だ。
山田くんはいい人なんだなと改めて思う。


「よし、帰んぞ」

「よろしくお願いします、アニキ!」

「ふっ、なんだよそれ」


お前のアニキじゃねえーよ!
と笑いながら立ち上がる山田くん。


「お世話になるんで、敬意を込めて?」

「お前へんなやつ!」

「レディに向かって変な奴とはなんだ」


わざと芝居がかったセリフで返す私も笑ってしまう。




昇降口で上履きのスリッパからローファーに履き替える。


「よし、行くか」

「うん、お願いしまーっす」


ワンタッチ式の傘を山田くんがバサっと開く。
確かに大きい傘だ。
小学生だったら3人くらい入れそう。


「・・・濡れてねぇか?」

「全然大丈夫!ほんとありがとね」

「別に」

「入れてもらうからには私が傘を持つべきなんだろうけど、」

「そんな気にすんな、てかお前に持たせるとかねぇから」

「だよね、身長的に無理そう」


山田くん身長何センチ?って聞くと


「180」


って返ってきた。


「え、まじ?」

「まじ」

「身長高いとは思ってたけど、そんなに高かったんだ。いいなぁ」

「女はそんなに高くなくてもいいだろ」

「えー?背が高い方がスタイル良く見えるじゃん」


私の身長は平均くらい。
身長にコンプレックスがあるわけじゃないけど、もう少し高かったらなぁと思うこともたまにある。


「[#da=1#]はそのままで十分だろ」

「なに?そのままのスタイルで充分綺麗だろって?何それ照れるんですけど〜」


きっと山田くん的には身長そのくらいでいいんじゃね?って言ってるんだろうけど、過度に褒められたことにしてみた。
ノリって大事だよね。

さて、山田くんの返しは、ん?
なんか固まってる。
ちゃんと歩いてはいるけど、なんか固い。


「どうしたの?」

「・・・なんでもねぇ」

「そう?」


なんでもなくはない顔をしてるように見えるけど。
会話途切れちゃったなぁ。別の会話、別の会話、


「山田くんはさ、どんな子がタイプなの?」


盛り上がる話題といえば恋バナだろう。


「はぁ!急に何だよ!」

「山田くんめっちゃモテるじゃん、でも彼女いないんでしょ?
 だから、どんな子だったら付き合いたいのかなと思って」


すごいびっくりしてたなぁ。
男子同士で恋バナとかしないのかな?


「[#da=1#]」

「なに?」

「[#da=1#]とだったら付き合いたい」

「へ」

なんだなんだ
え?

「俺、[#da=1#]のこと好きだから」

「な、ななな、え?」

ちょっと頭の処理が追いついてない。
なんだ、急に!
私のことが好きだって?
誰が?
山田くんが?

「好きなやつ以外と、相合傘なんてするかよ」

「なんて破壊力」

「は」


言葉に出してしまった!
なんて返事をしたらいいんだろう。
そんな、山田くんに好かれてるなんて思ってもみなかった。


「あ、あの山田くん」

「なに」

「と、友達からでもいいですか?」

「はぁ?!」


めっちゃ怒られた!
どうしよう


「えっ、だ、だめ?」

「今までダチじゃなかったのかよ」

「確かに。今まで友達だったじゃん」

「だよな、焦った」


すごい薄情なやつだと思われるところだった。
じゃあ、


「お付き合いを前提とした、友達でどうでしょうか?」

「それって今となにか違うわけ?」


そ、そうだなぁ


「山田くんのこともっと知ってからのほうがいいかなって」

「付き合ってからでもよくね?」


え?ま、まぁそうか。そうなのか?


「てか、俺のことどう思ってんのか知りたい」

「山田くんのこと?1番仲良しな男の子かな?」

「好きか嫌いかは?」

「その二択極端すぎるって」

「どっち」

「そりゃあ、まあ好きか嫌いかだと好きだけど」

「じゃあいいじゃん」


何がいいじゃんなんだ。
付き合う?山田くんと?


「私、山田くんにお弁当渡したことないのにいいの?」


彼女になるにはまずお弁当からなんじゃ?


「そんな条件ねぇし、何、俺と付き合うのいや?」


なんか山田くんがどんどんしょぼしょぼしていく。
視線は上からなのに、子犬にうるうる見上げられてる感じ。



可愛いが過ぎる•••!


「嫌じゃない!全然!」

「じゃあ」

「ぜひ!お付き合いして下さい!」


負けた。
ネットか何かで見たけど、可愛いって思ってしまったらもうダメらしい。


「お、おう。よろしくな。」

よろしくな。ニコッ じゃないよ!可愛いかよ!

「よ、よろしくね!」


何だかんだと話しつつ私の家まで着いた。
あれ、そういえば山田くんの家って反対方面だったような。

「うちここなんだ。送ってくれてありがとね」

「気にすんな。お、おれの彼女なんだし、送るのは当たり前だろ」

なにこのアオハル展開。

「山田くんがモテる理由が分かった気がする」

「はぁ?なんだよそれ」


呆れたように笑う顔も可愛い。
私も山田くんのこと

「好きだなぁ」

「へっ?」







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二郎の一人称が平仮名だったり漢字だったりするのは仕様です。
焦ったりすると平仮名で、通常時は漢字。
一人称以外でもわざと漢字変換してないセリフもあります。
平仮名混じりの会話って学生感出せるのでは?と思った次第です。

ほんとは、この2人の展開を続けようと思ったんですが、だらだら長くなるのでここで一旦終了といたします。