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毎日電車に揺られて会社へ行く。
寝不足だ。

土日だってハゲ課長のせいで休日出勤なんてほぼ毎週のようにある。
俺が仕事できないせいで色々言われるんだ。
同僚の女性社員にも
「観音坂さんのクマやばいよね〜」
なんて俺のいないところで言われてたし。
中年の俺には仕事をこなすしかもう出来ることはない。
その仕事すら俺はできないんだ。
俺は使えない。俺は、俺は、俺は、


『次は、シンジュク〜、シンジュク。お出口は右側です』


やっと着いた。
着いたところで山のような仕事が待ってるだけなんだが。
一二三の飯がなければ俺はきっともう息絶えてる。
俺は何のために生きてるんだ。



昨日も終電ギリギリに帰れた。
終電で帰る毎日。
朝も毎回同じ時間。

今日は席が空いていたので、座らせてもらう。
こんな中年なんて立ってても座ってても周りに迷惑を掛けるんだ。
だったら今日くらい座らせてもらおう。結局迷惑をかけてることに違いはないんだから。

座ってると眠くなる。ゆらゆら揺られて眠い。
きっともうすぐシンジュクだ。
起きてないといけないのに、眠すぎる。




ぽんぽん



誰かが俺の肩を叩いてる。

「ん」

もう少し寝かせてくれ。眠いんだ。


「えと、もうシンジュク着きますよ」

顔を上げて目を開ける。
女の子だ。
今なんて言われたんだ。

シンジュク、着きますよ

「っ、ぇ。あ、ありがとうございます…」

起こしてくれたのか!
降りないと!てかお礼言ってない…!
あの子はもう居ない。
そりゃそうだ。こんなおっさんと会話したくなんかないよな。


でも、何で俺がシンジュクで降りること知ってたんだ?

とりあえず、会社に行こう。
俺には終わらない仕事が待ってるんだ。



次の日、あの女の子が居ないか探してみた。
いつも通り人が多くて、あんまり周りを見ると嫌な顔をされるから見つけられなかった。
まぁ、同じ電車に乗ってるかどうかも分からないのに探してもな。
仮に見つけたとして、どうしようもないんだけど。

寝ぼけてたけど、可愛い子だったと思う。
せめてお礼だけでも言えたらな。


次の日の電車でもあの子が居ないか探してみた。
見つけられない。


あの子もシンジュクで降りていた気がするから、降りる時に周りを見てみよう。


『次は、シンジュク〜、シンジュク。お出口は右側です』


もう着くな。

あ!居た!


ただ距離が遠くて話しかけられなかった。


目が合った気がする。
いやいや、そんなわけない。
自意識過剰にも程がある。