騎士のようなアナタに捧ぐ物語 - episode1 10

街中に響いているアナウンスによると、半神は混沌の角塔ビル(ケイオスホーンタワー)に登り周囲を睥睨しているようだ。

ゲートの出現を待っているのだろう。
次の解放でゲートの鍵となっている音速猿の居場所を見つけてしまう可能性が高い。
完全な解放までまだ多少の猶予はある。
しかし、音速猿が半神に捕まったら厄介な事になる。

それを阻止する為、ザップとレオナルドはグレートセントラルパークを駆ける。
ちなみに◯◯はザップの小脇に抱えられている。

いくら戦闘員と言えどリーチの差は簡単に埋められない。
移動速度はたかが知れている為こうして抱えて走ってもらっているのだ。

彼らは草を掻き分け目的の場所に着き身を伏せる。

「ぐえっ」
「頭下げろ」
「…ええ」

身を伏せたザップの下敷きになり、◯◯は蛙が潰れたような声を上げる。
ザップはその苦しそうな声を無視しレオナルドに話し掛ける。
レオナルドも◯◯の事は気にせず、ザップの指示に従って頭を低くしてゴーグルを目に装着しながら前方を見据える。

「ザップ、おもい」
「この距離なら大丈夫だと思うが…思い切って近付いてみるか!?」

ザップは◯◯の文句を聞き流し、レオナルドに提案する。
勇気ある発言だが「お前だけ」と付け足したあたり単なる嫌がらせでしかない。

何なんだよこの人…と呆れ、レオナルドのザップに対する信用度が下がっていく。
けれど続いた言葉に信用度が浮上する。

「さっきの話だがな、別にお前に一から十までやらせようなんて思っちゃいねえ」

顔を上げようとした◯◯を地面に押し付け直し、ザップは緊張しているレオナルドをフォローする。
キレやすく短気に思えるが案外面倒見が良いのだ、ザップという男は。

◯◯は押さえつけられる苦しさに呻くが、せっかく良い事を言っているのだから文句を言うのはやめておき、腕時計のタイマーを確認する。

「あと20びょう」

見た時間を伝える。
3人の視線の先には立ち尽くしている音速猿がいる。

「◯◯も言ってたけどよ、お前の出来ることをやりゃいいのさ。癪だが『見える』のと『見えない』のでは天と地の開きがあっからな。とにかくガッツリ見て、気が付いたことを教えるんだ」

そう言われても自分に何が出来るのだろうか。
そう悩んでいるレオナルドは返す言葉が見つからない。
でも少なくとも今は『視る』事をしなければならない。
それが何になるか分からないが集中する。

「3、2、1」
「来るぞ…」

◯◯のカウントに合わせ音速猿の周辺の空気が歪むのが分かる。
視えないものでも分かる変化。

その変化を認識した瞬間、スパッと亀裂が走り斬撃が放たれた。
木々が薙ぎ倒され風圧で草が舞う。

◯◯を押さえるザップの腕に力が籠る。
◯◯は苦しいと思ったが、飛んでくる草木から守ってくれている事も分かっているから我慢し隙間からレオナルドを見る。

◯◯自身は一瞬太刀筋のようなものが走ったくらいしか見えなかった。
レオナルドは何か見えただろうか。
期待して彼の表情を確認する。

そのレオナルドはというと鼻水を出しながら口を噤んでいた。
一体、何が見えたのだろうか。
彼の表情からは読み取れない。

「…どうだ!? 何か見えたか!?」

期待を込めたザップの質問。
けれど答えはない。

レオナルドが何か考えているだろう事は分かる。
でも気圧されている気持ちの方が強そうだ。

「レオナルドくん!」
「…おいッ!! …気圧されるのは後にしろッて!!」

惚けているレオナルドの意識を戻す為、◯◯は彼の腕を揺する。
ザップも気付の為に拳の甲で彼の頭を軽く殴って怒鳴る。

「気付いた事はあんのかって訊いてるんだ!!」
「どんなちいさなコトでもいい…なにか、いわかんはなかった?」

2人の言葉に促されレオナルドは見たものを反芻する。

音速猿がいてその頭上から出てきたソレは空間を真っ二つにするように太刀筋を放っていた。

「…猿…」

音速猿の頭上?

レオナルドはその状況を思い出す。
同時に中継で見た半神が出現した瞬間の映像がフラッシュバックのように思い出される。

「あの猿!! 割れてなかったです!!」
「…はあ!?」
「われてなかった?」
「強盗犯はゲートが発現したとき、縦に割れたでしょう!? あの猿は割れてませんでした!」

よく見ている。
◯◯はそう思った。

ゲートが開く時は必ず割れ目や紋様が浮かび上がる。
何もないはずがない。

そうなると音速猿がゲートではないという事になる。
しかしそれでは何がゲートなのだろう。

「じゃあ、何処から半身の腕が出たって言うんだ」
「………」

ザップのツッコミにレオナルドは悩む。
進むどころか振り出しに戻ってはいないか。
だが音速猿に手掛かりがあるのは確かだ。

「もう一度…もっと近くで見てみないと…」
「よし分かっ…」

よりしっかりと確認する必要がある。
危険は承知。
先程よりもっと近くへ行こうと身体を起こそうとするが、その前に3人の上に不自然な影ができる。

それに気付いた瞬間、彼らの頭上を音速猿と半神が通っていく。
半神もゲートの鍵が音速猿にあると気付いてしまったのだ。

「チッ。急いで追うぞ!!」
「りょーかい!」
「は、はい!!」

2015.05.31 up

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