下校途中、街中で前を歩く見知った後ろ姿を見つけ、私は自分の顔が弛むのを止められなかった。

「モブくん!」

声を掛けられたモブくんは振り返って私の姿を確認すると、あ、と声を出した後に丁寧に会釈をした。

「○○さん、こんにちは…」

おずおずと挨拶する彼は、まるで小動物のようで可愛い。
そんな事を思いながら私はモブくんに駆け寄って、挨拶する。

彼の放課後はだいたいバイト先と部活のどちらかで過ごしている事は最近分かったことだ。
そのひとつの『霊とか相談所』という彼のバイト先。
いかにもな感じで怪しいし経営者は胡散臭そうではあるけれど、業務はちゃんとしているようで結構口コミが広がっているらしい。
私も一度友達から紹介を受けて除霊のお世話になり、それがきっかけで通うようになった。
除霊をしてくれたこの中学生が気になってしまって、好きになるまで時間は掛からなかった。
高校生じゃ相手にされないんだろうけど、それでも彼に会いたくて私は通いつづけた。

「これからバイトに行くの?」
「いえ、一度事務所には行ったんですが、師匠に買い物を頼まれたのでまた出てきました」

パシリか霊幻さんめ。
彼の手元を見れば、買い物してきたであろうビニール袋を下げていた。塩……。

「買い物はこれだけ?」
「あ、はい…」
「私も今日寄ろうと思ってたんだ!じゃあ一緒に行こう」
「はい」

コクンと頷くモブくん。可愛いな可愛すぎる。
最初の頃は目を合わせてくれる事も少なくて、あまり話をしてくれなかったけど、最近ではモブくんの学校の様子や家族の事とかも話してくれるようになってきて、結構打ち解けてきた気がする。
嬉しくて鼻歌でも歌いそうになる私。
不意に横を歩くモブくんから視線を感じた。
あれやばい。変な人に思われた?

「な、何かな?」
「いや…嬉しそうだなぁって、思って」
「そ、そう?」

やばい。顔に出すぎてたか。
だってモブくんと並んで歩いてるんだよ。
嬉しくないわけないじゃない。

「……あの、○○さんは、」
「え?」

何か言い掛けようとした彼の言葉。
その先を聞こうとしたけれど、それは叶わなかった。

「モブ君?」

不意に、背後から鈴を鳴らしたような可愛らしい声がモブくんを呼んだ。
振り返れば、そこには制服をまとった美少女が立っていた。

「あ、ツボミちゃん…!」

頬を染めてあかさらまに挙動不審になるモブくん。
ツボミちゃん。
ああ、この子がモブくんの想い人か。

「こんにちは」

にこりと笑う顔は可憐で愛らしかった。
彼女は私に挨拶をすると、無邪気な様子でモブくんに尋ねてきた。

「もしかしてモブ君の彼女?」
「えっ!?、ぃ、ち、ちが……」

突然の彼女の出現に加え、思わぬ質問に面食らったのか、モブくんは顔を真っ赤にしながら あわあわと慌てふためいてまともに返答できていなかった。
ああ、そんなんじゃ誤解されちゃうよモブくん。
私はそれでもいいけど、モブくんにとったら大好きなツボミちゃんに誤解されてしまうのは不本意だろう。
おろおろとするモブくんを横目に捉えながら、私は小さく息を吐いて、助け船を出す。

「違うよー、私は彼のバイト先でお世話になってるだけなの。さっき偶然会ったんだ。ね、モブくん」
「え、あ、はい……」

そうなんだーとツボミちゃんが笑う。ああ、可愛いな。
モブくんが好きになるの分かるかも。
中学生同士、お似合いだなあ。
二人とも可愛くて、いいなあ。

そう思ったら、なんだか私がこの場にいるのが間違いなような気がしてきて、居たたまれなくなってきた。
なんだろう。なんだか、さっきまで高揚していた気持ちがどんどん萎んでいくのが分かる。
ああ、なんか、もう帰りたいかも。

なんて考えていた気持ちに答えるかのように、携帯のバイブが鳴った。
着信主を見て、気付けば咄嗟に思い付いた虚言が口を衝いて出てしまっていた。

「あー、彼氏からだ」
「……え、」

私の言葉に、隣にいたモブくんは目を見開いた。
何でもいいから、とにかくこの場から離れる術が欲しかった。
私は構わず続ける。

「ごめんモブくん、私やっぱり今日は帰るね。じゃあまた!」

二人にそう言い残し、私は逃げるようにその場から去った。
あれできっとツボミちゃんに誤解されることはないだろう。
ある程度まで走ったところで、足を止めて独りごちた。

「何やってんだろ私…」





ALICE+