episode 47
それぞれの像

「なんだ?」
「誰だろー」
「蒼石様!」
「陣主!」
「こいつらが勝手に陣社の敷地内に入って来たんすよ!注連縄張ってあったってぇのに!!」
「蒼石様の張った結界越えて来たんだ!ただ者じゃねぇ!!」
「越えて来たんじゃなくて、モコナの口から落ちたのが結界内だったんだと思うんだけどー。説明しても分かってもらえないかなぁ」
「だとしても、それだけで手荒い真似をするなど言語道断。申し訳ありませんでした」
「いいえー。見た目が凶暴そうだったから、誤解しても仕方ないかもー」
「んだとてめぇ!!」

 黒鋼は、「蒼石」と呼ばれた男に殺気を放った。ファイは何時も通り笑顔を浮かべているが、少なからず警戒心を持っているのだろう。蒼石が張った結界はよほど強いものなのだろう。その中に入って来た二人を警戒する気持ちは良く分かる。しかしそれでもなお、蒼石は丁重に頭を下げたのだ。その後に続く様にファイは黒鋼の神経を逆撫でする様な言葉を選ぶ。それを聞いた黒鋼が怒る事は容易に想像出来るだろう。


「この紗羅ノ国の方ではないようですね」
「旅の者ですー」
「お二人で?」
「あと三人、いや四人いるんですけどー」
「お連れ様がいらっしゃるんですね。どこかでお待ち合わせで?」
「してないんですー。だから探さないとー」
「あちらも探してらっしゃるでしょうね。でしたら、拠点を決めておくほうが良い。宜しかったらうちにお泊まりになりませんか?」
「陣主!」
「こんな何処の馬の骨だか分からん連中を!!」
「袖すり合うも他生の縁。困った方を助けないで何が陣社ですか」
『陣主!!』

 まさか次元移動の先が異なる場所になる、などとは思ってもいないし、解決策など何もない。その為、地道に探すしかないのである。優しく手を合わせた蒼石は柔らかな雰囲気を纏っていて、危機感と言うものがない人物の様に思える。部下の人らも大変な毎日を送っているに違いない。


「って、ここどういう所なんでしょう?」
「神社だろ。神だかを祠ってる」
「いいえ、ここは陣社。私達が守っているのは、神ではなく人達です」

 男らの悲痛な叫び声を流して、ファイは話を変える様に手を挙げて蒼石に問いを投げ掛けた。それに言葉を加える黒鋼のそれを否定して、蒼石は優しく笑みを浮かべてゆっくりと言葉を紡いだのである。そうして二人は拠点となった「陣社」の中を案内して貰う事になったのだ。




「綺麗な所ですねぇ。建物だけじゃない。この場も空気もとても清浄で」
「もう、ずっとずっと昔からこの陣社はこの国を守っています」
「何からー?」
「色んなもんだよ!外からの敵や!疫病とかな!」
「その陣社を守るのが蒼石様の一族よ!代々、不思議な霊力を持った人が産まれてな!その中でも一番強い霊力を持った人が陣主になるんだ!!」
「神社と神主みてぇなもんか」
「かんぬし?」
「神に仕えて社を守る者のことだな」
「日本国にもいるんだー」
「神社はあるが、神主はいねぇ。いるのは姫巫女だ」
「それが、黒たんを飛ばしたっていうお姫様ー?」
「おう」
「紗羅ノ国の陣社を知らねぇとは、よっぽど遠い所から来たんだな、おまえら!!」

 夜の暗闇に良く映える光は陣社を包み込む様に並んでいる。それを見るだけで酷く幻想的な気分になるのだ。これも全て蒼石の力なのだろうか。そんな彼の事をまるで自分の事の様に嬉しそうに叫ぶ男らは酷く輝いていた。しかし、陣社を知らない黒鋼に対しては鼻を鳴らしたのである。それに睨みを効かせた黒鋼に焦るのなら止めたら良いのに、と思うが敢えて口には出さず、ファイは笑みを浮かべた。


「今もなんだか大変な感じなんですかー?」
「どうしてですか?」
「陣社のまわりだけじゃなく、あっち。注連縄っていうんですか?あれよりもっともっと強力な結界がありますよねー。何かからあの中にあるものを守る感じの……」
「…先程の剣術といい、貴方の見立てといい、只の旅のお方ではないようですね」

 ファイはわざとらしく声をあげて、周りを見渡した。その行動に蒼石は酷く驚いていたが、それを流してファイはある場所を指差す。そこにあるのは、きちんと閉じられている扉だった。注連縄で囲んでいる筈のものに気付く者は、この国では殆ど居ない。その事を思い出した蒼石は「これも何かのご縁」と繋ぎ、それに気付いたファイと黒鋼には話しても良いと、そう思えた事を口にしたのだ。


「この夜叉像のことを」




 鈴蘭一座は人の行き交いが激しい。どうやら今夜は興業をする日らしい。会場は凄く盛り上がっており、熱気が籠っていた。空からは紙吹雪が舞い、煙が音を響かせている。大きなテントの中に入れば、そこは一気に別世界だ。綱渡りや手品、花吹雪などを使って人々を沸かせている一座の者達が笑みを浮かべている。そこに招待されたレイノらの顔にもまた、笑みが浮かんでいた。


「すごいすごい!」
「盛り上がってるねえ」
「本当に」

 レイノらはこの国の服に着替えており、サクラは桜をモチーフにした足首まである着物を着ていて、ヒールの高い下駄を履き、桜の髪飾りを付けていた。小狼は少し着崩した動き易い着物を着ており、腰に刀を刺している。レイノはサクラと同じ桜をモチーフにしたチュニックの様な着物を着ていて、その下に足のラインが映えるズボンと黒いブーツを履き、リボンで髪を耳下で纏めていた。


「サーカスみたいですね」
「「さーかす?」」
「色んな芸や技を見せてくれる旅の一座です」
「玖楼国にも来たことある!こういう感じじゃなかったけど、でも凄く楽しかった!!」

 思い出した記憶の事もあってか、サクラは興奮を抑え切れない様である。記憶の中の幼い小狼を思い出す事は無いけれど、記憶が戻る事で彼女の表情に笑顔が増えた。レイノは、それがとても嬉しいのだ。笑みを浮かべて彼の耳元で「良かったね」と囁くと、彼は驚いた様に目を見開いて、嬉しそうに目を細めたのだ。そんな時、会場の声援はより一層盛り上がりを見せたのである。


「火煉太夫だ!」

 舞台に現れたのは火楝で、その事により会場は一層盛り上がりを見せた。彼女は扇を持って現れた。両隣にはこの国で初めて彼女に会った時にも居た二人の少女である。そんな二人が持っている花の中心には淡く、炎が灯っていた。火煉がそれに対して扇を翳すと、炎が燃え移る。火煉はそれを持って舞いを見せたのだ。その姿は酷く神々しい。


「火の粉が綺麗……」
「幻想的だね」
「螢みたいだ……」
「これ、熱くない……?」
「うちの炎は触ってもヤケドなんかしないよ」
「「「鈴蘭さん!」」」

 火の粉は客席にも舞台袖にも入り込み、その姿は酷く幻想的な光景だ。それはレイノらが居る場所まで入り込み、彼女は思わず息を漏らした。そして、思わず手の平にそっと触れたのだ。不思議と熱くない。自身の国は常春な為、こう言った光景は見た事がなかったのだ。そんな所に姿を現した鈴蘭の顔は何処か厳しい。


「守り神様が授けて下さる炎だもの。それを、あの陣社の連中が厄災を呼ぶものみたいに!」
「守り神?」
「そうだよ。あたし達一座の守り神」

 火の粉は鈴蘭の手にも舞い落ちる。だが、彼女は怒りに身を任せてそれを握り潰した。そんな彼女の言葉に出て来た「守り神」と言う単語に興味を惹かれた小狼は、思わずそれを聞き返す。それに思わず苦笑を浮かべた彼女によって紡がれた言葉は、彼の興味を惹く物があったのだ。


「阿修羅像さ」

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