助っ人参上!
「果てろ!」

 今年に入ってからと言うものの、並盛中学校では爆発音が響き渡る事が増えた。それの原因は初夏ごろに現れたとある転校生である。見た目は明らかにヤンキーと呼ばれる類いなのだが、何故かそんな彼が懐いているのが「ダメツナ」として有名な沢田なのである。沢田を「10代目」として敬う転校生も不思議だが、毎日何十回もそう呼ばれる沢田は一体何者なのだろうか。学校中に溢れる一つの疑問はおそらく一生解決される事は無いのだろう。


「獄寺君待って待って待って!違う!良いから!さっ、行こ!」
「ですが10代目…」
「次移動教室だから!ねっ!」
「お荷物お持ちしますよ!」
「いっ、良いから!」

 あ、またやってる。そう思ったのは今日が初めてではない。しかし、騒がしい転校生の名前を聞いたのは初めてである。風紀委員会としての集まりがあったとある日、新しい資料として彼のそれを渡されたのだが、どうせ関わりは無いだろう、と踏んで一瞬眺めて鞄の底に押し込んだのだ。未だにそれはバレていない。夢じゃないか、とたまに思う。少し意識を逸らしただけなのに彼はまた別の騒ぎを起こしていた。ある意味飽きないかも知れないな。沢田には申し訳ないが、そう思ってしまうのは仕方のない事である。


「関わりたくは無いよなあ」

 風紀委員会に所属している時点で、他人の事は言えないんだけど。




 天気が良かった今日(こんにち)は、放課後の校舎を紅く染めていた。校庭では野球部の元気な声が響いており、体育館ではバレー部やバスケ部だろうか、活発な部活動を行っている。そんな中、バックヤード周辺を掃くほうきの音が響く。それを鳴らしていたのは、沢田だった。獄寺が沢田に懐いてからはパシられる事は少なくなったが、それでも、である。それを断る事が出来るほどの度胸を持っていない沢田は、今日も一人で掃除を終わらせる事を目標としていた。だんだんと長くなる自身の影を見ては溜め息を吐く。ああもう、情けないなあ。そんな自己嫌悪に陥っている時、近くの砂が摩擦で音を発した。思わず俯いていた顔を上げて視線をやると、そこには久し振りに見た麗の姿があった。


「え…あ、日比野、さん…?」
「…あれ、沢田君?久し振りだねえ。入学式以来?」
「う、うん……な、何してるの?」
「え……鬼ごっこ、かな?」
「学校で!?」
「多分捕まったら殺される」
「学校でデスゲームやってんの!?」
「怖いよねえ……で、沢田君は何やってるの?」
「え……掃除、かな」
「こんな時間まで?」

 数ヶ月振りに見た麗の笑顔に変わりは無くて、柄にもなく少し安堵の息を吐く。印象的なそれはすっと心の奥に入って来て、凄く心地が良かった。そこではた、と気が付いた。それは、彼女が何故この時間に学校に居るのか、と言う事である。予想を遥かに上回る回答に思わず何時もの突っ込みを入れてしまったが、目の前の少女はあの風紀委員長にビンタをした勇者として有名だと聞く。その噂を思い出してしまえば、学校でのデスゲームも頷くしかないのだ。久し振りにする落ち着いた会話を楽しんでいれば、同じ質問が自身に降りかかって来た。途端に羞恥心に駆られるオレはやはり弱いのだろうか。思わず黙ってしまった沢田に、彼女は何かを考え付いたのか、側にある小さめの倉庫からほうきを取り出した。


「一緒にやろ!」

 ああ、やっぱり、眩しいなあ。




 自分が情けないばかりに請け負ってしまった掃除を麗と共にこなす中、話題となったのはやはり、転校初日から色々と目立っていた獄寺の事である。最初は彼の非常識的な行動一つ一つに驚いていた彼女だったが、沢田が話を続けるにつれてその表情は微笑ましい、と言った柔らかな微笑みに変わって行った。そんな表情の変化には気付かずに話し続けていた沢田だったが、くすくす、と言った思わず溢れた笑い声に目を見開いた。そして、込み上げて来たのは羞恥の感情だった。


「お、オレ変な事言った……?」
「あ、ごめんね?大好きなんだなあって。獄寺君の事」
「え…えっ?」
「だって転校して来てからそんなに経ってないのにこんなにエピソード、いっぱいあるんでしょ?一緒にいるのはもちろんだけど、獄寺君の事ちゃんと見てなかったら話せないよ」
「そ、そうかなあ……」
「愛されてるねえ。獄寺君」
「えっ、いや!そう言う訳じゃ…!」
「あ」
「え?」

 麗の言葉は限りなく的を得ていて、自分でも気付かない間(ま)に獄寺を大切な友達として見ていた事に気付かされた。久し振りに話した彼女でさえ気付いていたのだから、京子ちゃんや黒川にもバレているのだろうか。いや、京子ちゃんは無いな。絶対ない。麗は周りを良く見る癖があるから気付いたのであって、決して沢田が分かりやすいと言う訳ではないのだが、その事に沢田が気付くのはもう少し先の事である。人に指摘される事によってより羞恥が増した沢田の弁解を聞かなくなってしまった麗は何かに気付いたのか、視線を泳がせている。そして、少し肩を跳ねさせた麗はほうきを沢田に委ねたのだ。


「沢田君ごめん!ゴミの片付けよろしく!」
「は、え!?」
「久し振りに話せて楽しかった!今度遊ぼうね!じゃ!」
「え、ちょ、日比野さん!?」

 顔の前で必死に手の平同士を擦り合わせているが、それをされている沢田は急速に進む物事に脳の処理が追い付いて行かないのだ。何時の間にか外れて地面に落ちていた「風紀」と書かれた腕章を雑に掴み取っては、麗は正門の方へと駆け出した。あ、そう言えばあの子、風紀委員会の人だっけ、と今更ながらな考えが脳内に浮かび上がった。彼女が姿を消した直後に現れた雲雀に鋭い殺気を向けられた事なんて、きっと彼女は知らないのだろう。そして、駆け出した彼女を屋上で楽しそうに見ている赤ん坊が居た事も、きっと彼女は知らないのだろう。


「な、何だったんだ……」


prev back next

top