色のない距離

「ま、橘さんおはよございます」

お試し期間1日目、出勤して俺に挨拶をしてくれた彼女は"真琴さん"と呼びかけて慌てて橘さんと呼び直した。
ちょっと意地悪してみたくて"名前ちゃん"と呼んだ。

「おはよ、名前ちゃん」
「真琴さん...」

俯きながら小さい声で名前を呼ばれて昨夜の自慰行為を思い出してまじまじと名前ちゃんの身体を見つめていると不思議そうな顔で彼女は俺に聞いてきた。

「どうかしましたか?」
「今日の服すごい似合ってるね」

どこかのセクハラ親父みたいだと後から気づいて自分で自分を笑った。
よく見ればふわっとしたシフォン生地のブラウスにうっすらと見える下着の線に思わず生唾を飲んだ。

「ほんとうですか?これお気に入りなんです。これ着てると気合いが入るんですよ」
「そうなの?じゃあ頑張ってもらわないとね」

と言って付箋付きのファイルを名前ちゃんに渡すとはい!っとそそくさとファイルを受け取って自席に戻って行った。
ベタな方法の誘いに彼女がいつ気がつくかなーとワクワクしながら作業に没頭した。
お昼休みまで特に声をかけられる事もなく、お昼休みになってしまったが一応指定した場所へと足を運んだ。


屋上に足を踏み入れるとフェンスに手をかけてぼーっと景色を眺めている彼女の姿があった。
しばらく眺めていても一向に気づくことのない彼女にそーっと近づいてふわっと優しく後ろからその小さい体を抱きしめた。

「まっ、真琴さん!?」
「ぉおっ、やっと気がついた?」
「もう急にびっくりするじゃないですかー」

なんて言いながらも抵抗する気はないみたいで俺の腕の中にすっぽり収まって、たどたどしい手つきで俺の腰に腕をまわしてくれた。

「名前ちゃんって大胆だね」

なんて言いながらぽかーんとしている彼女に触れるだけのキスを落す。

「んっ...」

キスも初めてだったのか、少し体がピクんっと反応してそのまま勢いにまかせてみようかなと思いながらも踏み止まった。

「こんな無防備だとまたしちゃうかもよ?」
「真琴さんになら...されてもいい」
「それ本当に言ってる?」
「嘘なんて言いません。真琴さんに初めて触れてもらって、正直もっと触れて欲しいって思っちゃいました」
「名前ちゃん?男に簡単にそんな事言っちゃダメだよ。もし、期間中に俺の事嫌になっても俺、止められるか分からないよ?」

彼女からの言葉はすごく嬉しかった。
でも、絶対なんて言葉は存在しないし、この先名前ちゃんは他の誰かと付き合ったりするかもしれない。
そんな時、傷つくのは彼女だから簡単に言葉を紡いじゃいけないと釘をさした。

「じゃあもっと真琴さんの事、教えてください。そうしたらちゃんと触れてくれますか?」
「うん、俺も名前ちゃんの事知りたいし週末どこか出掛けようか」



もっと深い所まで知りたい...
深い所まで知れたら彼女は俺に溶けてくれてるだろうか。