第一話 第四班


「第四班、深雪リッカ!」
「はい」

担任であるシノの呼び声に応じ、少女が立ち上がった。
雪のように白い灯器肌、ぱっちりとした大きな青い瞳、絹のようなプラチナブロンドの長い髪。
ともに数年間アカデミーで過ごした同級生たちも、少女の姿に見とれてほうっと息をつく。

「轟コウライ!」
「うっす」

続いてけだるそうに立ち上がったのは、目つきの悪い黒髪の少年だった。しかし少年の表情には隠し切れぬ喜びがにじみ出ていて、その様子を隣に座っている少年がちらりとにらんだ。

「そして嵐イブキ!以上三名!」
「…はい。」

そして最後に呼ばれたのはその少年だった。イブキが立ち上がると、教室内の少女数名が肩を落とした。それもそのはず、イブキはその端正な顔立ちと優秀さで、アカデミーの女子から人気を集めている。しかし…

「いや〜、リッカちゃんと同じ班とはな〜。やっぱ運命?」
「うざい。」

ヘラヘラニヤニヤ嬉しそうに頭をかいて茶化したイブキを、リッカは一瞥もせず一蹴した。二人はアカデミーに入学したころからこんな調子で、いつもイブキがリッカをからかい、うざがられている。

「イブキてめぇ、リッカさんに迷惑かけるんじゃねーぞ。」
「え?なに、コウライくんもしかして嫉妬?」
「そーゆーとこがウゼェっつってんだよぶっ殺すぞコラ!!」
「こ、こらこら、お前たち、同じ班なのだから仲良くしなさい…それに、担当上忍が待ってるぞ。早く移動するんだ」

シノになだめられて、コウライは鼻息を荒くしたまま、三人は教室を出て行った。

「まさかあの三角トリオが同じ班とはねー。」
「うん、どうなるんだろ」

三角トリオ、とは、イブキとコウライがリッカに片思いをしている三角関係のことを指す、ということは、当事者の三名を除いたアカデミー生たちの中では暗黙の了解であった。
生徒たちは各々顔を見合わせ、少しの沈黙の後、一斉にニンマリとした。

「俺はイブキに賭けるぜ!」
「あたしも!」
「俺はどっちもフラれるに一票〜!」
「誰もコウライに賭けねーのかよ?」
「だってイブキはイケメンだし〜」

「…お前ら、賭け事はするな」

賑やかに盛り上がる生徒たちに、シノは力無くつぶやいた。



***



「初めまして。俺がこの第四班を担当することになった、すそのハジメだ。よろしくな!」

3人を待っていたのは、笑顔が爽やかな若い男の上忍だった。

「まずは俺から自己紹介をしよう。」

ハジメはそう言ってひとつ咳払いをすると、腕を組んで3人を見渡した。

「俺は今年上忍になったばかりの、いわばピカピカの一年生だ。お前らと一緒だな!わはは。趣味は盆栽、好きな食べ物は山菜、嫌いな食べ物は無い!よろしくな!」
「じーさんみてーな趣味だな…」
「教員になるのが昔からの夢だったんだが、自分が忍としてどこまで通用するのか試したい気もして上忍試験を受けたんだ。だからお前たち下忍を受け持つことになって嬉しいぞ!じゃ、お前らも順番に自己紹介してくれ。」

コウライの呟きは意にも介さず、ハジメはニコニコ楽しそうに言った。担当を持ったことが心底嬉しいらしかった。

「じゃー俺から。」

そう言って手を挙げたのはイブキだった。

「嵐イブキです。趣味は色んな忍のデータ集め。食べ物の好き嫌いはありません。夢というか目標は、リッカちゃんに俺の名前を呼んでもらうこと♡で〜す」
「うざい。」
「はっはっは!全くツンデレなんだから…」
「ったくウゼェんだよテメーは!俺の番だから黙ってろ!」
「いて」

コウライはイブキを蹴飛ばして黙らせると、ハジメを見上げた。目つきのせいで、見上げるというよりは睨みつけるような顔になった。

「俺は轟コウライ!趣味はゲーム。好きな食いもんはハンバーグ。嫌いなもんは特にない。夢は…スゲェ忍になる事!以上!」

コウライが言い終えると、次は自分の番とばかりにリッカがハジメを見上げ、続けて言った。

「深雪リッカです。趣味はお料理です。好きな食べ物は甘い物…嫌いな食べ物は辛い物で…。夢は…。…まだわかりません。」
「え?俺のお嫁さんって言った?」
「言ってねーよボケ」

とぼけたイブキにすかさず蹴りを入れるコウライ。
ハジメは早くもこの3人の関係が見えてきた、と思った。リッカはこの通り、まだ子供ながらに大人も驚くほどの美人。アカデミーでも真面目で品行方正な優等生だったという。それはそれは、さぞかしモテることだろう。そしてこのイブキとコウライも、リッカに想いを寄せる男の中の一人というわけだ。イブキは開けっぴろげだが、コウライもイブキに噛みつきながらリッカを止めも意識しているのがバレバレだ。肝心なリッカはつれない態度だが、少しもまんざらでないわけでもないように思えた。

「…なるほどね!お前らのことが少しわかったよ。早速明日から任務だ。今日は早く帰って早く休んで、明日に備えるように。明日は朝5時集合!」

ハジメが声を上げると、はい、はあい、とまばらな返事がおこった。



***



「深雪リッカか」

ハジメが担当下忍のプロフィールシートを見つめていると、気配もなく背後から声がかかった。
驚いて振り向くと、そこには驚くべき人物がいて、ハジメの手にあるリッカのプロフィールシートを覗き見ていた。

「ろ…六代目!!驚かさないでくださいよ。」
「いや〜、驚かすつもりはなかったんだけどねぇ…」

六代目火影、はたけカカシ。もういい歳とはいってもその立ち振る舞いには老いを感じない。現役を退いた今でも、この人なら上忍の背後をとることもわけないというのか。ハジメは改めてこの男が恐ろしくなった。

「で…様子はどうだ」
「あ…はい」

深雪リッカ。実は彼女は訳アリだ。
幼いころこの里にやってきた彼女には特別な能力があった。氷遁の血継限界の力だ。
里にやってきたころの彼女は、自らのその血で命の危険にさらされていた。あまりにも力が強すぎて、自らのチャクラが暴走し体の中から凍ってしまう危険があった。彼女を命からがら里へ連れてきて助けを求めた彼女の母親は、ずっと彼女の力に身を凍らされながらも守ってきたせいで間もなく死んだ。そして彼女は孤児となった。
施設で氷遁の力を封印された彼女は一命をとりとめ、幼少期を病院で過ごし、その後、アカデミーへ入って一人で生活を始めた。

「大人しいけどちょっとませてて、今どきの女の子ですよ。同じ班の男の子たちは浮かれていますね。」
「ああ、別嬪さんだからなぁ。」

そしてあの白とどこか似ている。カカシは胸の中でこっそりとそう思った。

「例の力は問題なさそうなのか?」
「ええ…本人も落ち着いていましたし、アカデミー時代も一度も問題はなかったそうです。氷遁の血継限界の力を持っていることを、本人も知らない可能性もありますね」

…そうだろうか。自分の中にくすぶる、強大な力の存在に気付かないなんて。
カカシはそう思ったが、何も口にしなかった。

「…ま、問題ないならいいや。頑張れよ。」
「はい!ありがとうございます。」

六代目が去っていくと、ハジメはほっと緊張を解いて息を吐いた。



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