002
すっかり日が暮れたラズリルの港。
紫色の闇に包まれた港で、カイは同期の訓練生たちとともに哨戒訓練の後片付けをしていた。訓練で使った武器や物資を船から降ろし、数を確認して、館まで運ぶ。するとそこへ、副団長のカタリナがやってきた。
「カイ。手が空いたら、謁見室へ来てちょうだい。」
「カイだけですか?」
カイの隣でリストに目を通していたスノウが不思議そうな顔をする。
「ええ。…あ…いえ、そうね……スノウ、あなたも一緒に。それから…、ジュエル。」
ちょうどそばを通りかかった少女を、カタリナは思いついたように呼び止めた。
「あなたも、カイと一緒に来てちょうだい。」
「え?あたし?は、はい…。」
カタリナが去ると、3人は顔を見合わせて、首をひねった。
スノウが扉をノックする。
入れ、と中から短く返事が響く。
「失礼します。」
スノウが扉を開け、カイ、ジュエルと続いて3人は謁見室へと入った。謁見室には、グレンとカタリナ、若い女性がいた。スノウとジュエルは見覚えが無かったが、カイにはあった。今朝医務室にいたあの子だ。ここに呼ばれているという事は、これからの処遇が決まったのだろう。カイはどうしてか、にわかに緊張した。
「揃ったな。」
グレンは3人を見渡した。
「まずは紹介しよう。」
グレンが部屋の隅にいる女性を呼び寄せ、3人の前に立たせた。
「カイ、お前はもう会ったな。」
「はい。」
カイが頷くと、スノウとジュエルは少し驚いた様子だった。
「彼女はルナという。今朝、街の北の浜辺で倒れているところを、民間人の女性によって発見され、我々が保護した。外傷はなく、体調も問題ない。だが、一つ問題があってな。言葉が通じないんだ。」
「どこの国の方なんです?」
スノウが興味を示す。貴族であり、近隣の他国の帰属とも交流のある彼は、自分になら話せる言語かもしれないと思ったのだろう。しかしグレンは残念そうに首を振った。
「まったく見当もつかん。この近隣の国ではないことは確かだ。なんとか名前だけはわかったが、彼女もこちらの言葉はさっぱりわからないらしくてな。」
「少し、試してもよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわんが…」
グレンが頷くと、スノウは進み出て、いくつかの国の言葉でルナに挨拶をした。しかしルナは困ったように首を横に振った。そして、『わかりません』と口にした。それを聞いて、スノウは元の場所に下がった。
「…僕も、聞いたことの無い言葉です。」
少し悔しそうに彼は言った。そうか、とグレンも少し残念そうにうなずいた。
「…ひとまずは、近海での海難事故や行方不明者の情報を調べ、彼女を知っている人間がいないか探す。その間、彼女は館で保護をする。これはフィンガーフート伯にも許可をとってある。カイ、すまないが、面倒を見てやってくれ。」
「はい。」
カイがうなずくと、グレンはジュエルに視線を移した。
「それから…女性同士の方がいいこともあるだろう。ジュエルも、気にかけてやってくれ。」
「はい!」
ジュエルは元気よく頷いた。
1/2
prev next△
ALICE+