4 中忍試験開始

「あ!コウライたち!」

リッカたち第二班が会場に入ると、すぐに聞きなれた声がした。振り向くと、サラダを先頭にボルトとミツキが揃っていた。彼らはアカデミー時代のクラスメイトだ。

「お前らも来たのか!」

ボルトが駆け寄ってきた。おう!と、コウライが威勢よく返答する。

「お前らの班には負けねぇーよ!」
「それはこっちのセリフだってばさ!」

「ほんっと、似た者同士だよねぇ、ボルトとコウライって…。」
「なんだと!?だれがボルトなんかと…」
「コウライとなんて似てねぇーってばさ!」
「ねぇ…。同族嫌悪って知ってる?」

毒舌を炸裂させるサラダに、ボルトもコウライも言葉に詰まって唇を噛んだ。ちょうどそのとき、整列の号令がかかり、リッカ達はサラダ達にことわって試験官の方へと駆けていった。

「でも…案外手ごわい相手かもよー?第二班。」

受験生の列に加わりながら、サラダが言う。

「なんだよサラダ?珍しいな、そんなこと言うなんて。」
「ボルトだってクラスメイトだったんだから、あの3人の実力は知ってるでしょ。」

サラダはそう言って、指を立てる。

「風遁を得意とする嵐一族のイブキ。雷遁を得意とする轟一族のコウライ。氷遁の血継限界を持つリッカ。3人共、中忍レベルの忍術を使いこなすメンバーだよ。言ってみれば、第二班は超忍術特化の編成ね。それに…。」
「…それに?」
「…リッカ。あの子は、六代目火影の娘だよ。」

ボルトの青い目が丸くなる。

「六代目…カカシのおっちゃんの娘ぇ!?」
「はぁ…。あんた、ほんっと何も知らないんだね。」

ため息をつくサラダの隣で、ミツキはにこにこと楽しげにふたりの会話を聞いている。

「と言っても、血は繋がってないらしいけどね。でも、あの六代目が直々に修業をつけたことには間違いない…。警戒しておいて損はないわ。」
「……。」

ボルトは何か思うところがあるのか、返事もせずに黙り込んだ。

「(…それに)」

サラダは前を向き、試験官であるシカマルを見上げる。

「(あの3人……アカデミー時代と比べて、雰囲気がまるで違ってた…。)」

「ではこれより…中忍選抜試験を開始する!」

シカマルの声が響き、あたりの喧騒は一瞬で静まった。
それを見計らったように、シカマルの傍に控えていたサイが進み出て、一次試験の内容を説明する。

「一次試験は、○×クイズによる問題です。正解だと思う方に移動してください。」

「え…」
「く、クイズ?」

予想外の試験内容に、イブキとコウライが思わずこぼした。

「それでは問題!『忍軍師捕物帳』5巻の書記に登場する忍合言葉…『月といえば日』『山といえば川』『花といえば蜜』である。○か×か?」

「なぁ、読んだことあるか?」

焦りを露わにしながらイブキとリッカを振り返るコウライ。リッカは首を振り、イブキは冷静に考え込む。

「ううん…ごめんなさい、私も読んだことない。イブキは?」
「4巻までは読んだ…けど、あの書記は確か4巻までしかなかったはず…」

「つまり誰も読んでないってことだな?じゃあ、考えるしかねぇな…何かヒントはねーのか?」
「4巻までには、ヒントになるようなことは何も書いてなかった。」
「くぁーッ!お手上げかよ!」
「…待って。」

リッカが静かに口を挟む。

「ねぇ。答えを知っていそうな人、って誰かな?」
「知っていそうな人…?」
「…そうか!きっと、あいつなら知っているかも…」

3人はある人物の姿を探す。それはすぐに見つかった。×のエリアに立つ、赤い忍服の少女の姿。

「うちはサラダ。×だ、行こう!」
「うん!」

サイは会場内を見渡して、満足げにうなずいた。

「皆さん、別れましたね。不正解…つまり、失敗した奴は、『真っ黒』になって失格です。」

「ん…?」

サイの言葉にどこか違和感を覚えたイブキ。辺りを見渡すと、同じように不思議そうな顔をしたリッカと目が合った。
モニターに答えが映し出される。皆が見守る中、真っ黒なモニターに映し出されたのは…○と×の両方だった。

「え、…」
「うわっ!!」

突然崩れる足元。浮遊感に襲われながら、イブキははるか下に広がる漆黒の池に気付く。

「(…そうか!)」

気が付いた時、隣のリッカと目が合った。彼女が手を伸ばし、自分も精一杯腕を伸ばす。腕を掴み合って、リッカがすぐ下を落下するコウライを振り返ったのを横目に、自分はクナイで崖にしがみついた。

「コウライ!」

リッカの声が響き、振り返ったコウライの視界には、すでに腕を掴み合ってぶら下がっているリッカとイブキの姿があった。反応するよりも先に、リッカの放った縄が自分の体を拘束する。眼前に迫る墨のプールに、コウライはやっと試験の意図を解釈した。

「そうか!これって…」
「…あの問題の答えなんて初めからない。」
「落ちなかった人が合格…ってことね。」



「迫りくる墨のプールを前に、自分たちが間違った選択をしたと受け入れ、そのまま落ちて黒くなる奴!そんなタマなしに中忍になる資格はありません。」

ふたたび受験生が集められた会場でサイが放つ言葉に、コウライは拳を握りしめた。
今回は間違いなく、あの二人に助けられた。あの二人は一瞬で試験の意図に気づき、お互いの行動を把握した。それなのに自分は助けられるまで、試験の意図に気付く事すらできなかった…。

「咄嗟だったけど、リッカと同時に気付けてよかったよ。」
「本当に!真っ黒になって…ってとこから、何か引っかかってたの。イブキもだよね?すぐに手を掴んでくれたから、助かったよ。」

嬉しそうにハイタッチをする二人から、コウライはそっと目を伏せた。



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