001


あまりの静けさに気がついて、ナルトは顔を上げた。火影室の窓から外を見ると、外はすっかり夜の闇に沈んでいる。その中に、ちらちらと降る小さな光があった。
火影室の扉が開く音がして、ナルトは振り返った。
「…やっぱりまだ帰ってねえのかよ。」
「シカマル。」
呆れたような優しい微笑を浮かべて部屋に入ってくる友を、ナルトは目で追う。シカマルは両腕を抱えるようにしながら窓辺へ寄り、ナルトの隣に立った。
「…うわ、雪が降ってきたのかよ…もう春だっつうのに。どおりで冷えるわけだな」
「…だな。」
うんざりするシカマルに同意したものの、その雪は、ナルトの目にはとても綺麗なものに見えて、不思議と優しい気持ちになるのだった。
「ま…雪も降ってきたことだし、そろそろ帰…」
シカマルがそう言いかけた時、扉がノックされた。
「――なんだ?」
ナルトが呼びかけると、扉は静かに開かれた。そこには見慣れた男がいつもの気だるい様子で立っていた。
「あれ…六代目?…と、」
シカマルの視線が、カカシの顔から腕、そしてその手とつながれている小さな人物に注がれる。カカシと手を繋いで隣に立っていたのは、小さな――シカダイやボルトと同じくらいの齢の――少女だった。
少女は目を惹くほど美しい顔の中にまだあどけなさの残る容姿で、その肌は雪のように白く、艶のある黒髪をしていた。ナルトはその容貌にどこか似た面影を見つけた。
「……白…?」
その考えはぽつりと口からこぼれた。隣でシカマルが疑問符を浮かべる。呆然とする二人の前に、カカシは少女を引きつれて進み出た。
「や。夜遅くに悪いね。早めに報告しておいたほうが良いと思って。」
「報告って…そういや、水の国に観光旅行に行くって…そこで何かあったんすか?」
「まあね。この子の事なんだけど…」
この子、とカカシは手をつないでいる小さな手を持ち上げる。少女は黙りこんだまま、されるがままになっている。容姿も相まって、まるで人形のようだ、とシカマルは思った。
「この子は…一体?」
恐る恐る尋ねるシカマルに、カカシは無垢な笑顔で答えた。
「俺の子だよ。」
「えッ!?」
「なっ…!?カカシ先生の子供ぉ!?」
「こらこら、六代目、でショ。」
「あ…び、びっくりして…つい…だってばよ。」
カカシは慌てるナルトを見て穏やかに目を細めると、2人に向き直った。
「ま!正確には、養子…だけどね。う〜ん…どこから話そうかな…。」
突然やってきて突拍子もないことを言い出したわりにどこか呑気なカカシの態度に、ナルトもシカマルもただ呆然とする他なかった。そんな二人の様子を知ってか知らずか、カカシはナルトに視線を移した。
「…ナルト。さっき、この子を見て白…と言ったな。」
「え?…お、おう…。最後に見たのはもうずいぶん昔だけど…やっぱ少し…似てるってばよ」
ナルトはカカシに言われて改めて少女をまじまじと見る。
黒目がちの瞳、柔らかなバラ色の頬、赤く色づいた小さな唇。やはり似ている。自分の記憶の中の彼は、もうおぼろげな姿しかないけれど――
「……ん?ってことは…つまり…」
ナルトは思いついたようにはっと目を見開く。
「こっ…この子も……男…!?」
「あのね…。正真正銘、女の子だヨ。」
カカシは呆れたようにため息交じりに脱力した。ナルトは火影になってから随分しっかりしたものの、やはり変わらない部分がある。まあそれを、嬉しく思う時もあるのだが…。
「…あの、すんません。その白って、あの霧隠れの…?」
「ん。そうか、シカマルは会ったことないんだっけ?…そうだ、ナルトやサスケ、サクラがまだ下忍だった頃に戦った…氷遁の血継限界を持つ忍だ。先の大戦で、穢土転生にも利用された…強い忍だった。」
「…そうなんすか。で…そいつに似てるってことは、何か関係があるんすか?」
「そうだ。この子は白と同じ…雪一族の子だ。」
「!?」
「と言っても、身寄りはない。だから、俺が引き取ろうと思ってね。」
「なッ…なんでまた……突然ッスね…。」
いまひとつ事態を飲みこめないでいるシカマルとナルトの前で、カカシはどこかせつない目で少女を見つめた。
「ま…これも運命ってやつかなって…ネ。」
「……。」
「……。」
カカシが少女を見つめるまなざしの、あまりの真剣さに、ナルトもシカマルも息をのんだ。
「というわけで、一応現火影の許可を得ようと思ってね。他国の、しかも貴重な血継限界を持つ一族の生き残りの子供を連れてきちゃったわけだし。」
「あっ!?そうだってばよ!!どうしてカカシ先生が引き取ることになったのかとか、教えてもらわねえと…!」
「ま、まさかとは思いますけど…誘拐…?」
「んなっ!?」
「あのね…。お前ら、俺を何だと思ってんの。」
カカシはため息を一つ吐く。少女はじっと、カカシの手を握ったままうつむいている。どこか影がありながらも、カカシに信頼を寄せていることは、ナルト達にも分かった。
「そうだな…。初めから話そう。」
カカシは少女の手を引いて、近くの椅子に促し、座るよう促した。それからナルトたちと向き直り、カカシは、静かに語り始めた。
「まず、この子の名前はヒカリ。俺がヒカリを見つけたとき、血継限界の力が暴走していて、周囲の村一帯を深い雪で閉ざしていたんだ――。」



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