「金丸先輩!ファンタグレープ買ってきました!」
「おー、さんきゅ」
瀬戸から缶を受け取って気分よく飲み始める。いやー、俺の部屋にもついに後輩が…。しかも結構素直でイイ奴そうだし。
「……。」
瀬戸の隣にいるこいつ…奥村って言ったっけ。御幸先輩と木村と同室の1年。気難しそうな奴で、沢村は生意気だと言っていたけど。奥村は一応、最低限礼儀は正しいんだよな。挨拶はちゃんとするし、敬語だし、沢村以外の先輩には普通に接しているし…。でも何考えてるかよくわかんねー奴だからなー。俺の同室じゃなくてよかったぜ。
「あれ?こうちゃん?」
そのとき柔らかな声がして、奥村が振り向いた。
「何してるのー?」
「光…」
奥村に腕を絡ませ、かなり親しげにやって来たのは…玉城さん!?
思わずファンタを取りこぼしそうになって、俺は慌てて手に力を入れた。
「えっ!?光舟お前…!玉城光…先輩と知り合いかよ!?」
瀬戸も目を真ん丸にして驚きの声を上げた。同じシニア出身でかなり仲が良さそうなこいつも知らなかったらしい。
「…親戚。」
奥村は冷めた様子でぽつりと答えた。その腕には玉城さんがきょとんとして掴まったままだ。
「えぇマジ!?すげえ!!言えよ〜!!」
「…去年までは芸能人じゃなかったし」
「あぁそれもそうか…いやでもこんな美人な知り合いいたらフツー自慢するって!」
瀬戸の裏のない明るい反応に、玉城さんもケラケラ屈託なく笑っている。こ…こんなふうに笑ってんの、初めて見た…。今年から同じクラスになって浮かれてたけど…全然話すチャンスねーんだよな…。
「あ〜〜ちょっと玉城ちゃーん!俺以外の男にベタベタすんなよ〜」
そこへ更に割り込んできたのは御幸先輩。倉持先輩のしらけた視線を完全に無視して玉城さんに絡みまくる。
「おいで玉城ちゃん{emj_ip_0173}」
「行きませんよ。」
「ちぇ〜。つれねぇ〜。つーか奥村顔コエーぞ(笑)」
「…光に近づかないでください」
「おっ!いいな〜俺もひ・か・り{emj_ip_0173}って呼びた〜い」
「……。」
「こ、光舟、落ち着け…」
奥村がマジでぶちぎれそうな顔になって、瀬戸が一生懸命宥めている。
「おい!いい加減にしろよ、玉城さん困ってんだろ!」
御幸先輩の背中を蹴っ飛ばす倉持先輩。御幸先輩は全く悪びれずにはっはっはと笑うだけ。倉持先輩は期待するような目で玉城さんをちらちらとみる。だが…
「じゃあこうちゃんまたね。」
「帰るの?」
「うん帰る。部活頑張って。」
「…気を付けて」
「うん。ばいばーい」
「光先輩お気をつけて〜!」
玉城さんは奥村に手を振って、大きく手を振る瀬戸にも手を振り返しながら、御幸先輩に小さく舌を出して帰って行った。哀れ倉持先輩。って俺もか…。
「…行くぞ御幸!!」
「何キレてんの?」
連れ立って寮の方へ歩いて行く先輩たちを見送る俺の元に、東条が遅れてやって来た。
「お待たせ信二!ごめん、今日日直でさ。」
「いや平気…行こうぜ」
「うん。」
…東条。そういやこいつも玉城さんと仲良いんだよな。
去年は同じクラスだから…って思ってたけど、今年自分が同じクラスになって気付いた。クラスが一緒だろうと全然話す機会ない!!東条はどうやって仲良くなったんだ?尊敬するぜ…。
***
「なぁなぁ見て見て!光先輩にサインもらっちゃった!」
「ひ…光先輩って…あの2年生の芸能人の人だよね!?」
「うわ〜いいなぁ〜!!めちゃくちゃ可愛いよな〜。」
部屋に浅田と九鬼と奥村が来ていて、瀬戸は自分のノートを見せびらかして盛り上がっていた。
玉城さんのサイン…だと!?こいつ、いつの間にそんなものを…!!
「1年生仲良いよな。」
微笑ましげに東条が言う。こいつも玉城さんと仲良いからかそこはかとなく余裕が…。
「光舟〜、光先輩とよく会うのか?」
「あまり会わない。…親戚が集まるときくらい。」
「それでも羨ましいって!仲良いんだろ?」
「別に…普通」
「普通って何だよ〜!」
クッソ…!騒ぐなよ、とでも叫びそうになって堪える。なんか、嫉妬してるみてーでダセェし…。
「じゃあさー、光先輩って今彼氏とかいんの?」
お…。そうそう、それだよ!そういうことを聞いてくれ瀬戸!!
「……。…いない…と思う」
奥村は何か引っかかるように言った。なにその、いまいち確信は持てないみたいな言い方…。
「でもさ〜、御幸主将って光先輩のこと好きなんだよな?」
「いつも可愛いって言ってるし、インタビューでもそう言ってたよね…」
「あれだろ、稲実の成宮さんもだよな!?すげーよな、全国区のテレビであんなふうに宣言しちゃうなんてさ」
「うん、すごいよね…」
「なぁ光舟!お前的にはあの二人、光先輩に脈ありそう?」
「……。」
ど…どうなんだ…!?
「あるわけない。」
きっぱりと言い放った奥村に、瀬戸は苦笑を浮かべた。
「そうか〜?御幸主将って結構光先輩と仲良さそうじゃね?」
「ありえない。」
「光舟〜…それお前の願望じゃ…」
「絶対ない。」
***
「たっましっろちゃん♪」
「も〜何…また来たんですか?」
…玉城さんと同じクラスになって初めて知ったけど…御幸先輩、玉城さんにベタ惚れすぎだろ!!近くに来るたびに教室覗くし、廊下で見かければ寄ってくるし…しかもいつもデレデレしてるし。こんな主将の姿見たくなかった…。
「いいからちょっとあっち行こうぜ{emj_ip_0173}」
「え〜せっかくの休み時間なのに…」
「ちょ…ひどい…」
二人は連れ立って歩いて行く。いつもこんな調子だ。御幸先輩がしつこく絡んで、玉城さんがしぶしぶ付き合う。実は付き合ってんじゃないかって噂もあるけど…。
…いや…でも有り得ないよな…。
.
.
.
「…もー先輩私のクラス来すぎ。」
「いいじゃん」
「だめ」
「え〜(笑)」
…寮に忘れ物をして取りに行く途中、玉城さんと御幸先輩が非常階段のところで喋っているのを見つけた。なぜこんな人目をはばかるような場所で…?つーかここ通れねえじゃん…!!
…っていうか、やっぱ、付き合ってるとかはなさそうだな…。
「先輩こうちゃんのこといじめてないよね?」
「いじめてねーよ(笑)めちゃくちゃ優しくしてるけど?」
「なんか嘘っぽい」
「なんでだよ(笑)」
あの二人、いつも何話してんだろうと思ってたけど…結構玉城さんから話題振ったりするんだな…。
玉城さん、つれない事言ってるけど普通に楽しそうにしてるし…たしかに瀬戸の言う通り、仲は良さそう。
「ねえ先輩…」
「ん?」
「…あれから、してくれないよね…」
…?何の話だ…?
「え…、あ〜…」
「したくないの?」
「や、そういうわけじゃないけど…」
「何?」
「…玉城はいいの?その…しても」
「…そういう事訊かないでよ…。」
拗ねたように顔を赤くして呟く玉城さん…。ただならぬ雰囲気を感じて、俺はその場から動けずに唾を飲みこんだ。御幸先輩は玉城さんを見つめ、意を決したように身を屈めて、階段に座っている玉城さんの、赤く染まった顔に自分の顔を近づけて――
――きっ…キスした!!?
「……。」
「……。」
「…うーん」
「ちょ…、何、うーんって!」
「いや〜…可愛いな〜と思って…。」
「……うるさい…。」
や……、…ヤバいところを目撃してしまった…!!