花城の部屋の前に差し掛かると、三年の寮生が開いている部屋のドアの前に立っていた。
「だからさ、花城さん…、」
「先輩どうしたんすか?こんなところで」
部屋の中に向かって一生懸命話していた先輩が、玄関に足を踏み入れようとした時、俺はかろうじて呼び止めた。ぎくりとした顔の先輩が振り向き、俺を見て苦い顔をした。
「マズイっすよ〜女の子の部屋に入っちゃあ!」
「は、入らねーよ!バカか!お前はなんでここにきたんだよ」
「俺の部屋ここなんで。」
俺はすぐ隣に部屋のドアを指さした。先輩はそのことを思い出した様子で悔しそうに口を曲げた。
「それに高島先生に頼まれたんですよ。花城を連れてくるようにって」
「……。ふーん」
先輩は興味のないふりを装って、渋々ドアから離れ、じゃあ、と花城に声をかけて、階段を降りていった。
「花城、夕飯行くぞ」
入れ替わりに俺がドアを押さえて中を覗き込むと、花城はそこに立っていて、心細そうに俺を見上げた。
「……ちゃんと鍵閉めろよ。」
「…はい」
自覚があったのか、花城はそう呟くと、うる、と目に涙を滲ませた。
「あー、あーもー…俺が泣かしたみたいじゃんか…」
「ご、ごめんなさい」
さっきの先輩に何を言われたのか知らないけど、よほど怖かったんだろうか。
まあただでさえ、男にトラウマみたいなもんがあるからな…
「ったく、だから言っただろ…男子寮なんか来るなんて。心配で目ぇ離せねーよ」
「……。」
花城は涙を拭って俺を見上げた。
「じゃあ…御幸先輩と一緒にいる…。」
「……。」
どくどくどく、と心臓が騒ぎ始めた。
「だからそーいう…、お前さあ…。あ〜〜〜も〜〜〜」
「?」
「はあ…まあいいや、じゃあ食堂行くぞ。」
「はい…」
花城を連れて食堂に行くと、俄かに注目を浴びた。その視線に居心地悪そうにしながら、花城は俺やみんなの食事を見て目を白黒させていた。
「何?人の食いもんよく見て」
「いや…量がすごいなって…」
「お前こそそんなんで足りんの?」
俺が見たのは今俺の隣に花城が置いたトレーの食事。量は寮生の半分以下だ。
「これでも多いです」
「はあ!?おっまえそんなんじゃ…」
「?」
きょとんとする花城を見て反射的に思いついた悪ノリの冗談を危うく飲み込んだ。いつもの寮でのノリで「おっぱいでかくならねーぞ」なんて危うく下ネタを言うところだった…!あぶねー!
「何ですか?」
「いや…やっぱいい」
「えぇ?」
「……。」
「……。」
「……。」
周りの奴らは俺と花城をじろじろ見やがるし…!居心地が悪いったらありゃしない。
でも…
「あ…おいしい」
「そりゃよかった」
黙々と唐揚げを食べる花城はかわいい。この間まで避けられていたのに、今はこんなに懐かれてしまって…優越感を感じている自分もいる。
不謹慎だけど、花城と過ごせるのが嬉しい…そう思わずにはいられなかった。
***