041
「光臣、どう?甘いものが苦手な人の意見として。」
「……。」
いよいよバレンタインが近づき、放課後暇なら家に寄ってほしいと光に呼ばれて行ってみると、どこぞの馬の骨にやるためのチョコレートの試食をさせられるはめになった。
しかし、テーブルに並ぶ数種類のブラウニーを見て感心する。1か月くらい前までほとんど料理なんてしたことなかったくせに、ここまで完成度の高いものを作り上げるまでになるとは。光はもともと器用ではあるが。
とにかく、オレンジピール入りのブラウニー、ピスタチオ入りのブラウニー、エスプレッソ入りのブラウニーをそれぞれ試食し、俺は首をひねった。
「普通に美味い。」
「普通にってどういう意味?」
「そのままの意味。」
光はムッと俺を睨んだ。その顔を見て、俺はふと気づいた。
「少し太った?」
「……。」
答えはなく、代わりにペチンと腕を叩かれた。
「試食しすぎたのか?」
「うるさい。それで、どれが一番いいと思う?」
「さあ…好みによるだろ。」
「もーなんでそんな参考にならないことしか言ってくれないの!」
「そんなこと言われてもな…」
俺は4つ目の、キャラメル風味のブラウニーを食べた。
「これは甘すぎ。」
「…そう。」
光は悔しそうにそのブラウニーの皿を端によけた。
俺は最後に残った、ラズベリージャム入りのブラウニーを食べた。
「これはちょっとな…」
「え?美味しくない?」
「ラズベリーって苦手なんだよな。」
「…光臣の好みは聞いてないんだけど。」
「酸っぱいし食感も苦手だ。」
「ダメなところだけははっきり言うよね…」
そんなつもりはないけど、と言って、俺はエスプレッソ風味のブラウニーの二口目を食べた。
「これがいいんじゃないか。一番甘くないし、コーヒーが苦手じゃないなら。」
「コーヒーはよく飲んでる。」
「じゃあこれでいいだろ。」
「…なんでそんな投げやりなの?」
「興味がなくて。」
「意地悪。」
光は機嫌を損ねて立ち上がった。
「もういい。一応ありがと。」
「どういたしまして。」
俺も立ち上がり、鞄を肩にかけた。
「もう帰るの?夕食食べて行けば?」
「寮長に言わずに来たからいい。」
「そう…」
なんとなくつまらなそうに俺を見送る光。そんなことで少しほだされてしまう自分に、こっそりため息を吐いた。
「次はいつ帰ってくるの?」
そんなこと聞かないでほしい。浮かれてしまいそうになるから。
「…春休みかな。寮の部屋替えがあるから、三日くらいでまた戻るけど」
「ふーん。」
光は戸口に寄りかかって、使用人の手伝いでコートを着る俺を暇そうに眺めている。
「光。」
「何?」
「…どうして髪切ったんだ?」
文化祭に行ったとき、光の髪が短くなっていて驚いた。あの時はつい聞きそびれたけど、俺は何となく今尋ねてみた。
「今更?」
光は笑いながらそう言って、髪をなでた。
「別に、なんとなくだよ。」
「ふーん…」
俺が覚えている限り、光はずっと髪が長かったから、そんな気まぐれで切ってしまったというのは少し驚きだった。
「…じゃ。」
「素っ気ないな〜。気を付けてね。」
「ああ。」
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