010
初めて花城さんを見た時の衝撃は忘れられない。
あの子です、と東条に教えられて見た女子の後ろ姿。こちらを見ないかとソワソワ待っていると、ふと振り向いた彼女の、あまりにも可憐な横顔。
こんなに綺麗な人間がこの世に存在するのかと、あの瞬間俺は別世界にいる気分だった。
同じ時期に同じこの学校にいることは、もはや奇跡だと思う。
それなのに…
「花城、やっほ〜」
女神のような花城さんに軽々しく手を振る御幸…クソメガネ。
花城さんは呆れたようなはにかんだ笑顔で御幸を睨む。…可愛すぎる。
「またパシられてんのかぁ〜?」
御幸は花城さんが胸元に大切そうに抱えたプリントの束を見てからかうように言った。また?パシり?話が見えない。こいつ本当に、いつのまに花城さんとこんだけ仲良くなったんだ?
「変な言い方しないでください!」
「はっはっはっは」
俺を置いてきぼりにして花城さんと談笑を始める御幸。そーはさせるか。
「すみません花城さん!こいつ本当に口も性格も悪くて!」
「え…、あはは」
思い切って会話に割り込むと、花城さんは目を丸くして俺を見上げ、幻かと疑うほどの愛くるしい笑顔を見せた。
「俺がシメとくんでこいつがウゼェときはいつでも言ってください!あ、俺こいつと同じクラスの倉持っていいます」
花城さんは笑顔で会釈をしてくれた。鼓動が早くなり、なんだか足元がふわふわしてきた。
「…倉持〜」
「花城さんに迷惑かけんな!クソメガネ」
「あはは」
けらけら笑う花城さんのなんと可愛らしいことか。
ああどうしよう…今日は最高の日だぜ!
***
「倉持!ちょっと来て」
廊下でたむろしていた女子集団が、俺を見るなりすごい形相で駆け寄ってきてそう言った。
去年同じクラスだったギャル3人組、田中、林、安田だ。
「…なんだよ」
「いいからこっち来て!」
聞かれたくない話でもあるのか、3人は俺を雑に引っ張って渡り廊下の隅に連れてきた。…嫌な予感しかしねぇ。
「御幸君って花城と付き合ってないんだよね?」
やっぱりその手の話か…。
俺は御幸と同じ部活でいつも一緒にいるから仲がいいと勘違いされていて、しかもムカつくことにあいつは顔がいいためモテるから、よく女子にこの手の相談を受ける。
「付き合ってねえよ」
俺が答えると、田中はほっとしたように二人を見て笑い、だけど真剣な顔で重ねて聞いてきた。
「じゃあ御幸君って花城のこと好きなの?」
「……。」
それは知らねぇ…けど、確かにあいつ、花城さんにやたら絡むんだよな。用事どころか接点なんてなさそうなのに、ちょっと仲良さそうだし。
少なくとも何の用もないのに、あいつが花城さんに嬉々として絡みにいってるのは事実だが…。
「ちょっと!どうなの?黙らないでよ!」
「…知らねぇよ。何も聞いてねぇし」
「何それ!使えない…」
「は!?んだとコラ…」
「もういいよ!時間の無駄だったわ」
ため息をつきながら教室に戻っていく田中達。…なんだっつーんだよ!?
イラつきつつ教室に戻ると、いつものごとくのんきにスコアブックを見ていた御幸が不思議そうに俺を見た。
「何イラついてんの?」
「別に…。」
俺は御幸の前の席の椅子を借り、片足をもう片足の膝にのせて半分胡坐をかくように座った。
…あいつら関係で御幸に気があるやつがいて、花城さんを警戒してるんだろうな、多分。
俺はそう結論付けて、なんだか台風の目を見つけたような、妙な胸騒ぎを覚えた。