スマホが着信音を鳴らし、俺はポケットからとり抱いたスマホの画面に表示される名前を見て頬を緩めた。

「もしもし?お疲れ。」

さっき電話をかけて留守だった光から、電話がかけなおされてきたのだ。

「お疲れ。何?」

相変わらずドライ。けどこれは高校生の時から何も変わってない可愛いところ。

「いやー、明後日どうかなと思って」
「明後日?」

いつも食事を作りに行くときの軽い調子で、その日の都合を聞いた。明後日…クリスマス当日の予定を。

「…は、夜まで仕事なんだけど」
「えー大変だな。夕食はどーすんの?」
「…帰ってから食べようと…思ってたけど」
「じゃ、なんか持ってくよ。どう?」
「え…、でも明後日って…」
「何?」

光はしばらく躊躇うように言葉に詰まり、やがて静かに言った。

「いや…、いいけど…。」
「よかった。じゃあ…あ、家帰るの何時ごろ?」
「9時とか…になるかな」
「了解。じゃ、また行くとき連絡入れるわ」

うん、とまだ戸惑っている光の短い返事を聞き、電話を切る。
クリスマスに二人で会うこと…何も感じないわけない。だけど今の俺に、昔光に対してどうしようもなく感じていた飢えるような欲情の念は、もうない。求めていないといえば嘘になるけど、それよりももっと…光の存在は俺にとって特別になっていた。


***


「メリークリスマ〜ス」
「……。」

クリスマスの夜に光のマンションを訪れると、光は訝しげに俺の荷物を見つめた。

「わざわざ買いに行ったの?」

そういいながら見つめているのは、ここから少し距離のある有名店のケーキの箱。

「光こういうの好きじゃん」
「……。」

悪気なくそう答えると、光はちょっと呆れたように言葉を失った。

「ほら、チキン冷めちゃうから食おうぜ」

そんな光を促し、買い揃えてきたクリスマスっぽい食事をテーブルに並べる。殺風景な部屋のローテーブルは、にわかにちょっとしたパーティーの雰囲気になった。

「いただきまーす」
「いただきます…」

そして静かに食事が始まる。だけどここに押し掛けた時よりも、光は幾分か元気になってきているように感じた。それが俺にはすごく嬉しくて…だって俺の存在が、光に元気を与えられてるってことだから。

静かに食事は進んで、光は時々微笑みを浮かべて俺を見る。
その様子を見て、俺は薄々感じていた。もう光に、俺が必要なくなることを…

「…ねぇ」
「ん?」

ケーキを食べ終えるころ、突然、光が切り出した。俺がここに通うようになってから、ずっとその口は堅く閉ざされていたんだけど。

「もう大丈夫だから」
「え?」
「もう、来てくれなくて大丈夫だから」

そして突然告げられた、この特別な時間の終わり。俺は寂しさとともに安堵のような、不思議な感覚を覚えた。

「うん…わかった」

俺がうなずくと、勘違いでなければ、光は少し寂しそうに目を伏せた。

「でもさ…」

勘違いでなければいいと、願いを込めながら俺は続ける。

「たまには飯くらい、行こうぜ」

そう言って光を見ると、光は俺を見上げて、ほほ笑んだ。

「…うん」

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