「いい?まずは普通に渡すの!そのあと義理ですって言ってもいいから!」
「…うん」
「反応窺ってね!?絶対喜ぶと思うから!!脈ありだと思うから!」
「どうかな…」
「ぜえったいそうだから!!で、義理とはいえ嫌われてはないって先輩も思うでしょ?前、無理!って逃げたのもこれで帳消しだから!これで意識しちゃうこと間違いなしだから!」
「……。」
自信のない光を引っ張って2年の教室前まで行って、私ははりきっていた。
「じゃ、光!私が呼んでくるから…」
速水先輩に見つからないようにそこに隠れてて…、と、私が光の両肩をつかんで言いかけたときだった。
「あの、御幸君呼んでもらっていい?」
私たちの隣を通り過ぎた2年生の先輩が、2Bのクラスの人にそう声をかけた。
半射的に息を止め、私たちは慌てて柱の陰に隠れる。
教室の前でそわそわと立っているその先輩は…小柄で可愛らしい女の子。ついでに巨乳。その手には、チョコレートらしき紙袋も握られていて…。
「えーっ!あの人御幸先輩にチョコ渡すのかな…!?」
光は神妙な顔で口をつぐんでいる。
少しして御幸先輩がやってきて、女の先輩と一緒にどこかへ歩いていく。
「…追いかけるよ!」
「えっ!?」
私は光の手を引っ張り、こっそりと二人の後を追った。
二人はすぐそこの渡り廊下で立ち止まり、私たちは防火扉の柱の陰に身をひそめる。
「はい。バレンタイン」
女の先輩が親しげな明るい声で言った。
「…ありがとう」
御幸先輩の低い声も聞こえる。
そういえばあの女の先輩…前、昇降口で御幸先輩と話してた?
御幸先輩に片思いしてる…のかな。それともまさか、御幸先輩、光を諦めてあの先輩といい感じに…!?
「み…御幸先輩モテるもんね〜…!きっと今日、あの人以外からもいっぱいチョコもらってんだよ…」
「……。」
私がなんとかフォローしようとするものの、光の顔は晴れなかった。
「あのね…」
女の先輩が話し始める。緊張がここまで伝わってくる。
「…やっぱり御幸君のことが好き。」
素直で率直なドストレート…。可愛い先輩だし、きっと御幸先輩も嫌な気しないのでは…。
し…信じてますよ御幸先輩…!!?あなたには光がいるんだから!!
「好きでいてもいい?」
しかも小悪魔…!!こんなの、並みの男子はコロッといってしまいそう。
御幸せんぱ〜い…!!愛しの光が聞いてますよ〜…!!
「…うん」
だけどそう、御幸先輩の短い返事が聞こえて、私は胸が苦しくなった。とっさに光の顔を見るも…その顔は愕然としていて。
「光…、」
声をかけようとした途端、光は身をひるがえして走り出してしまう。
「えっ、ちょっ、待って…!」
私も一瞬迷ったのち、光の後を追いかけた。
ああもう御幸先輩!!あんたモテすぎなのよ…!!
しばらく走って光は中庭でやっと立ち止まった。
「光…、だ、大丈夫?」
おそるおそる表情をうかがうと、光は沈んだ顔で。
「やっぱり渡すのやめる…」
そう呟いた。
「なんでよ〜御幸先輩がモテるのなんて知ってたでしょぉ!?」
「なんか…いい雰囲気だったし」
「そんなことないって!あの先輩の片思いだよ絶対!」
多分…。きっと…。
だって御幸先輩はどう見ても光を意識してるもん…!
「でも…」
光が何か言いかけて、はっと目を止めて言葉を止めた。
「あれ…?何してんの?」
振り返ると、通りすがりらしき東条君と金丸君。金丸君は光が持っている紙袋にすぐに気づき、おい、と東条君を小突いた。
「あ…。」
東条君も気づいた様子でぎこちなくはにかむ。その顔に一瞬、残念そうな色が浮かんで…そうだよ、東条君も光のこと、たぶん、好きなんだよなぁ…。
「東条。」
すると光が、立ち去ろうとする東条君を呼び止めて歩み寄った。え?まさか…。
東条君の顔もこわばり、赤くなる。
「これ…よかったら食べて。」
そう言って光が紙袋を差し出すと、東条君は固まり、金丸君も動揺でロボットのように東条君を凝視した。
「…えっ?お、俺に?」
「うん、友チョコ。」
「え…」
光…。そ、それは…。あまりにも残酷…。
「あ、あ〜!なんだ、ありがとう…」
なんだ、って言っちゃってるよ、東条君。
「ごめんね押し付けて。じゃ…」
光は東条君の反応を窺う余裕もないのか、そう言い残して逃げるように踵を返した。ちょっと困惑気味に顔を見合わせる男子二人に両手を合わせ、私は光を追いかけた。
「光〜、もう、ちょっとは素直になりなって〜」
やっと立ち止まって、非常階段に膝を抱えて座る光。こーんなに美人なのに、なんでこんなに自信がないんだか…。
「あの先輩と御幸先輩が付き合ってもいいのー?取られちゃうよ?」
「…好きな人ってあの人なのかも」
「ええー?いやいや、ないない。」
それって絶対光のことだと思うんだけどなあ…。
「後悔する前にさあ、素直になったほうがいいと思うよ?」
「……。」
私の言葉に光は閉口し、頷くように俯いた。