下駄箱を開けて、ぎくりとした。
ピンクの箱、白い紙袋、茶色い包装用紙…。上靴の上に押し込められたものたち。
そう…今日はバレンタイン。
「…チッ!!今年もムカつくヤローだぜ」
「死ね!!」
俺の下駄箱の中を覗いた倉持と麻生が口汚く罵ってくる。理不尽すぎる。
「あいつに顔以外でいいとこあるか?」
「まじでわかってねーよな女子は…」
「お前ら人のこと言えんの?」
うるせー死ね!と罵られながら、俺は持参したビニール袋に下駄箱内のチョコレートたちを押し込んでいく。
「あーあーひでぇ奴、ゴミのように…」
「だって捨てるもん」
「…は!?」
「下駄箱に入れられてた食いもんなんて食いたくねーだろ…」
汚いし。と言う俺を、信じられない目で見る倉持たち。
「何?食いたいの?」
「マジでサイコパスだわ」
「人でなし」
「人間のクズ」
「なんなんだよ…」
なんだかんだ教室に向かい、自分の席につき、机に教科書をしまおうとして…ガツッとつっかえる。あー…ここもか…
机に手を突っ込んで手探りで奥に入ってる箱を引っ張り出し、同じくさっきのビニール袋に押し込む。さっきはああ言ったけど、そもそも甘いもん苦手だしどれも食べるつもりはない。よく知らないやつの手作りとか怖いし。
「速水〜!今年も大漁だなー」
「さっすがモテ男」
「やめろって。」
…そして俺と同じように、チョコで膨れた袋を抱える男が教室にもう一人。速水だ。
とは言っても向こうは、デカめのトートバッグに丁寧にしまっている。
「で…本命からは貰えたのか〜?」
「いや…、ははは。」
「今日は会いに行かねーの?」
「行けねーよ今日は…」
「行けよ〜!待ってるかもよ?」
「いやいや…」
ははは、と赤い顔で笑って誤魔化す速水が、不意にこっちを見て視線がぶつかった。ぎくりとして視線を逸らす。…何で俺を見たんだ?
にしても…花城。あいつ、速水に渡すのかな…。それとも他の誰かに…?
***
「速水ー、女子が呼んでるぞ」
昼休みになると校内はさらに騒がしくなった。
速水は早速他クラスの女子たちに呼び出され、どこかへ連れて行かれた。
「…ちょっと中田のとこ行ってくらぁ」
倉持がソワソワ落ち着かない様子で立ち上がる。
「何ソワソワしてんの?」
「そっ…してねーよ!!」
死ね!と言い残し、廊下へ出ていく倉持。
どっかで女子にチョコ貰いたくて期待してんの見え見え…。
「御幸、呼んでるぞ」
その時クラスメイトに呼ばれ、俺は言われるがままに教室の入り口を見た。そこに立っていたのは、相川さん…。こ綺麗な小さい紙袋を持って…。
「ねぇあれ見て…」
「えー!御幸君に?…」
ヒソヒソと女子たちが盛り上がるのを知らんぷりして、俺は相川さんに近寄った。
「…何?」
「ちょっと…あっちでいい?」
赤い顔でそうはにかむ相川さんに俺は頷く。
すげーや、俺は…好きな子に連絡先を聞くことさえできないのに。
相川さんに連れられて渡り廊下まで来ると、人がいないのを確認して、相川さんは持っていた紙袋を差し出してきた。
「はい。バレンタイン」
「え…」
俺は数秒迷って、ゆっくりと受け取った。
「…ありがとう」
相川さんは嬉しそうに頬を緩ませる。
「あのね…」
それから足元を見つめて、つま先で床をつつき、ぎこちなく俺を見上げた。
「…やっぱり御幸君のことが好き。」
言って、真っ赤になる相川さん。
俺も柄にもなくドキドキして…
「好きでいてもいい?」
そう言った相川さんの微笑みには、以前よりもどこか余裕があって。俺からしたら、こんなに素直に気持ちを伝えられる相川さんは尊敬する。
俺ももっと、素直に…
「…うん」
俺が頷くと、相川さんはほんの少し、目を潤ませたように見えた。
パタパタパタ、と走る足音のような音が小さく響き、俺たちは同時に周りを見渡す。だけど人の姿は見えなくて、きっと誰かが近くを通り過ぎただけだろう、と思い、また向かい合った。
「…ありがとう。じゃあ」
「うん」
「あ…野球頑張って!」
「…うん」
相川さんは明るく笑って、小走りで教室の方へ戻って行った。俺は紙袋の中の小箱を見て…少し暖かい気持ちになった。