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春の暖かな風が背中を押す。

日の当たる渡り廊下を歩いている時、その子は現れた。

向こうの昇降口から歩いてきた、1人の女子生徒。スラリとしたスタイルに目を惹かれて見ると、少し俯いたその顔は、人形のように整っていて。

俺はつい息を飲み、目を奪われた。

桜の花びらが舞う中で、日に照らされてその子は、輝きを放っていて…。
柔らかな亜麻色の長い髪が風に舞い、白魚のような手でそれを抑えて耳にかける仕草までもが、胸が苦しくなるほど綺麗で。

俺は無意識に歩みを緩め、少しでも長くその子を見たいと思ってしまった。

亜麻色の透き通った瞳が動き、俺を見た。


ーーバサバサッ

気を取られて手の力が緩み、持っていたスコアブックを落としてしまった。

「あ…」

途端に我に返り、気恥ずかしさが込み上げる。咄嗟にしゃがんで足元のスコアブックを拾おうとすると、白くて綺麗な手がそのうちの一冊を拾い上げた。
立ち上がるとその子が目の前にいて、俺は心臓が跳ねた。

静かに差し出されるスコアブック。ふわりと花のような良い香りがして、俺はまともにその子の顔が見れなかった。

「あ…りがとう、ございます…」

呟きながら彷徨い落とした視線の先に映ったのはその子のつま先で、上靴は一年の赤い色だった。

スコアブックをゆっくりと、受け取る。

受け取ったらこの子は行ってしまう。だから、受け取りたくないという思いが俺の中で渦巻いた。

だけど現実は、俺の手にスコアブックが渡ると白魚のような手はあっけなく離れ、つま先が動き出す。

俺の横をその子が通り、花の香りがふわっと広がった。

つい振り返って、俺は、その子の背中が暗い校舎内に消えていくのを名残惜しく見つめていた。



***



…天使、みたいだった…。

この学校にあんな可愛い子がいるとは。今年の新入生か。この俺としたことが、戸惑ってまともに顔も見れなかった。

「どこ行ってたんだよ」

不意に手元に影が落ち、見上げると、俺の席の前に倉持が立っていた。

「て…またそれか。」

倉持は俺が広げていたスコアブックを見て勝手に納得し、退屈そうに窓の外を見やった。

「またお前と同じクラスになるなんてマジでツイてねーぜ…」
「まだ言ってんの?」

始業式から1週間、ほぼ毎日この愚痴を聞かされている。どんだけ嫌なんだ、俺と同じクラスなの。

「担任もオッサンだしよォ〜」
「誰が良かったの?」
「いや別にそーいうんじゃねーけどよ…つまんねーじゃん」

とにかく何か不満らしい。つまんねーのは友達がいないからで、それは自業自得だと思うけど、怒らせそうだから黙っとこう。

「…お前何か余計なこと考えてねーか?」
「え?別に。」

まだ不機嫌な顔で俺を睨む倉持をよそに、俺はまたスコアブックに視線を落とす。だけど…いつまでもあの子のことがチラついて、まともに内容が頭に入ってこなかった。

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