002
朝練を終えて部室で着替えていたら、同級生たちが俺に声をかけてきた。
「東条、あの子と同じクラスなんだろ!?」
「あー、うん…あはは」
「え!?いいなあ〜!」
同じ部活で別のクラスの同級生から、よくそう言われる。あの子、というのは…入学式当日から大変な噂の的になっているクラスメイトの女子、花城光さんのことだ。
なんで噂になってるかというと…
「超可愛いよな〜!」
「マジでその辺の芸能人よりカワイイ!」
「東条毎日会えるの羨ましい〜!」
「え、あはは…」
そう…めちゃくちゃ、美人なのだ。
ああいう子を「息をのむほどの美人」とか言うんだ、きっと。同じクラスでも、男子は誰も花城さんに話しかけることなんてできないし、俺なんて隣の席だから毎日緊張しっぱなし…。
花城さん自身、物静かで落ち着いていて清楚で、気軽に声なんてかけられない雰囲気で…まさに高嶺の花って感じだ。
「芸能界入らないのかな?」
「毎日のようにスカウトされてるらしいよ」
「マジ!?スゲ〜」
ほんと…別世界の人間って感じなんだよな…。
「あ!じゃあまた」
「おー、また放課後〜」
着替えを終えた同級生たちが離れていき、隣にいた信二が俺を見る。
「毎日すげえな」
「だね…」
そう、毎日誰かしらに花城さんのことを聞かれる。ただ同じクラスってだけで…。
「まー確かにカワイイもんな…」
「あ、信二も気になってるんだ?」
「は!?ちが…だ、誰だって思うだろ、…び、美人ってのは!」
「まあ、そうだね、あはは」
***
「東条おはよ〜」
「おはよ!」
教室に入ると後ろの席の男子が気さくに挨拶をしてくれた。俺は荷物を自分の机に置きながら答えた。
「なあ今日の課題やった?」
「数学?やったよ、自信ないけど」
「俺も!なあ答え合わせしない?」
「いいよ!」
早速ノートを出して一つの机に並べ、俺が後ろ向きに座る形で向かい合う。
「俺数学苦手でさ〜」
「俺も自信ないよ…問一ってこれ?」
「おぉ、合ってる合ってる」
「問二がこれだよな?…」
カタン、と隣の席が静かな音を立てて、俺も友達も息をのんだ。ふわりといいにおいが鼻をかすめる。なんか、急に空気が清浄されたような。ちらり、と横目でその方向を見ると…俺の隣の席の椅子を引いて、教科書を机の中にしまっている花城さんがいた。
心なしか教室が静まり返っている。みんな会話も忘れて、花城さんに見とれている。
少しかがんだ横顔にかかる髪を耳にかける花城さん。その目が少しこっちに向いたら、目が合ってしまう。けど、俺の目はくぎ付けで…
「花城さ〜ん!おはよ〜!」
突然教室に響き渡った明るい声で、一気に教室の空気が戻ってきたように、俺は呼吸するのを思い出した。
「おはよう。」
花城さんが微笑んで挨拶を返したのは、ショートカットで長身のボーイッシュな女子。同じクラスメイトでムードメーカーの鷹野司さんだ。今のところ、同じクラスで花城さんと打ち解けられてるのは、鷹野さんだけだ…。
「ねージュース買いに行くんだけど一緒に行かない?」
「いいよ。」
鷹野さんの誘いに花城さんはうなずいて、二人は連れ立って教室から出て行った。花の香りが遠ざかっていく…。
「…は〜〜〜、なんか緊張したわぁ」
花城さんが教室から出ていくと、友達がそう言って深く息を吐いて机の上に伸びた。
「花城さん?」
俺も笑いながらそう尋ねると、そうそう、と友達はうなずく。
「彼氏とかいんのかな〜。」
「え!?さあ…」
「でも絶対モテるよな〜!中学どこだったんだろ」
「うん…」
ていうか今もすでに、モテてるし…。俺は毎日部活で同級生や先輩たちから花城さんのことを聞かれる。
「まじで今年の1年の中で一番かわいいよな…つーか、今まで見た女子の中で一番かわいいわ」
「そ、そっか…」
花城さん…すごい人気だな…。