003
朝下駄箱を開けたら、淡いピンク色のかわいらしい封筒が上靴の上に置かれていた。
「えっ!お前ソレ…!」
目ざとく見つけた倉持を目で黙らせ、俺は封筒を素早くバッグに押し込む。新学期、こういうの多いんだよな〜…。
「またかよ!死ねクソ眼鏡」
「うるせえな…」
「誰から?」
「さあ」
鬱陶しい倉持を躱しながら教室へ行き、席についてこっそりと封筒を確認した。差出人の名前は…書いてない。御幸一也様、と書いてあるのみ。中の紙を取り出して広げると、女の子らしいピンクの花柄の便せんに、小さめの丸っこい文字で字が書かれていた。
御幸一也様
突然手紙を書いてごめんなさい。
御幸先輩のことを知って、ずっと気になっていました。
どうしても一度会ってお話ししたいです。お昼休みに西棟の校舎裏に来てください。
1年A組 杉田リカ
一年…。当然知らない子だ。
どうしようかな〜。面倒くせぇな〜…。どうせ断るんだし。
まあ…一度会ってはっきり興味ないって言うか。
便箋を封筒にしまってまたバッグに押し込み、俺は小さくため息をついた。
***
昼休み。倉持を撒いて指定されていた校舎裏に向かった。
幸い人気はない。変な噂になっても面倒だし…さっさと野球以外興味ないって言って戻ろ。
正直こういう呼び出しは何度か経験してる。自分の知名度が上がり、メディアに取り上げられたりするようになってからは尚更。みんな結構ミーハーだよなあ…。
ざり、ざり、と足元で砂利が鳴るだけの静かな校舎裏。垣根の角を曲がると、そこの花壇に座る女子生徒の後姿を見つけた。あの子か…?
後ろ姿…長い亜麻色の髪が風になびいてさらさらきらきら揺れている。後ろから見ても華奢で、なんか、ちょっとかわいい子っぽい。
いや、でも、関係ないけど。長澤ちゃんそっくりの子だったらちょっと考えちゃうかも〜なんて…そんなことあるわけないけど。
そんなくだらないことを考えながらその子に近づいていくと、俺の足音に気が付いたのか、その子が少し振り返った。
ドキッとした。この間渡り廊下で会った……あの子だ。
亜麻色のつぶらな瞳が俺を見上げる。真っ白な肌にバラ色の頬、赤い唇は甘い果実のようにつやつやで…こちらを見上げるその横顔は美しいお人形のよう。
やっぱ、すげえ可愛い…。俺は不覚にも足を止めて言葉を失い、立ち尽くしてしまった。
女の子が立ち上がり、スカートの埃を払う。その動作さえもきれいで目を奪われる。少し伏せた瞼を縁取るまつげが長い。そのまつげが揺れ、また明るい亜麻色の瞳が俺を見つめると、顔が熱くなった。
女の子が歩み寄ってきて、俺の前で向かい合う形で止まった。少し気まずそうに伏せた目が、ちらちらと俺の様子をうかがっている。
て、いうか…、…え!?この子が…俺を呼び出したの…!?
こんな、可愛い子が…!?
「……。」
「……。」
恥ずかしいのか、緊張してるのか…その子はなかなか口を開かない。
名前、なんて書いてあったっけ…。もっとちゃんと読んでおけばよかった。まさか、この子だと思わなかったから。
いや…でも…この子に告られたら、オッケーするのか俺…!?ど…どうしよう…。
正直すげぇ可愛いし…友達からって感じでも…いいかも…。
「…あの…。」
その時彼女の小さな唇が少し開いた。
「…うん」
俺はうなずいて、彼女の言葉を待つ。
なんて言われるんだ…。
付き合ってください…?連絡先を教えて…?それとも、まずは友達から…?
「ごめんなさい。」
だけど彼女の口から放たれたのは、あまりにも予想外の言葉だった。
「…え?」
「先輩のこと、よく知らないので」
「…えーと…ちょっと待って。」
話が噛み合ってない。まるで俺が告白したような状況になってる。そりゃ可愛いとは思ってたけど、告白した覚えはない。そもそも名前も知らないし。
「もしかして…そっちも誰かに呼び出された?」
「え?…はい」
キョトンとした瞳でうなずく彼女。…やっぱりか〜…!!
「あー…なるほど…」
「?」
「人違い…みたいだな」
「え?」
「俺も手紙で呼び出されてさ…多分、別の奴が偶然同じ場所に呼び出したんだろ…」
「……。え…」
俺の言葉を聞いて彼女は少しずつ腑に落ちたように目を瞬き、ほんの少し口角を挙げてはにかんだ。…なんつー破壊力の笑顔…!!
「あの…すみません。」
「いやいや、こちらこそ…」
少し顔を赤くして髪を耳にかける彼女。入学間もなく告られるだけあって、やっぱすげー美人…。中学からモテモテなんだろーなあ…。
…っていうか、俺、フラれた?
「私あっちで待ちますね。」
「え…あぁ」
気まずかったのか、呼び出したやつを気遣ったのか…彼女はそう言って校舎の角の向こうに移動していった。
すれ違いざま、さわやかで甘い花の香りがした。美人はにおいまでキレーなんだなぁ…。…呼び出したやつ、誰なんだろ…。