004
「そう、友達とはぐれたのか」
フェンヌが言うと、二人の女は頷いた。
男を魔法で眠らせて拘束し、状況を整理すると、どうも彼女たちは意に反してこの島へやってきてしまい、ここがどこかもわからないと言う様子だった。
「コール、カレンとトムがどこに飛ばされてしまったかわかるか?」
「地上……風が吹いてる。空には白い影。ふたりは一緒にいる。」
「二人は一緒にいるんだな?よかった…無事なんだな。それに……やっぱり外にいるんだな。」
フェンヌは立ち上がった。
「ではやはりまずは、この洞窟から出なければ……」
そうして、二人の女を連れて、フェンヌたちは4人で洞窟を進み始めた。
「先に行くから、私から離れるなよ。後ろは……」
「ぼくのことは、彼女たちには見えていない。」
「……とにかく、離れるな。」
女たちは目を丸くして頷いた。その後ろから、コールが背後に注意しながらついてくる。
フェンヌはいつでも応戦できるように心の準備を整えて、薄暗い洞窟内を進んだ。
「わたしが先を行こう。後からついて来てくれ。」
「では、俺は後ろを守る。」
森では、カレンとトムが女を警護しながら進んでいた。ひとまずひらけた場所を目指すことになったのだ。岩場は崩落があるため、やや避けながら丘の方角を目指すことになった。
「地図には、森の南が野営地のある丘だったよな。そして西が崖。あの岩場のことだろう。となると、南はこっちだ」
カレンとトムは話し合いながら進んだ。やがて森は深くなり、辺りは薄暗くなった。
「もうだめ、歩けない」
女がへたり込んだ。カレンとトムは顔を見合わせ、仕方なしに辺りを見渡した。
「少しあの岩穴で休もう。」
「そこにいてくれ。近くに何かないか見てくる。」
トムはカレンと女を残して、森の中をずんずん進んでいった。カレンは女を促して岩穴まで歩き、そこに座った。
「あの、名前は何ていうんですか?」
座ると、思いの外元気な声で女が話しかけてきた。
「カレンだ」
「へー、可愛い名前。わたし、サキっていいます。」
「……そうか。」
カレンはなんだか言い知れぬ不安がよぎったが、これから先どれくらい長く行動を共にするかわからない女だ、名前くらいは知っておいた方がいいだろうと思い直した。
「もう一人の男はトム・レーニアだ。頼りになる男だよ。」
「ふーん。ね、カレンさんて何歳なんですか?」
カレンは息をのんで身を硬くした。
「……その質問に何の意味があるんだ?」
「えー?べつに、同じくらいかなって思っただけですう。」
「なら黙っていてくれ、元気なようだから、トムが戻ったら出発しよう」
カレンがぴしゃりと言うと、女はむっとして黙り込んだ。
しばらくして、トムが戻ってきた。
「近くに川があったから水を汲んできた。それから、粗朶も集めてきた。さっきの熊肉を少し食おう。」
トムの提案のとおり、三人は腹ごしらえをしてしっかり休息を取り、また出発することにした。
フェンヌは岩陰から白い人影を見据えて、魔法を放って眠らせた。完全に気を失ったのを確認して、一行は洞窟を進んだ。女二人が時々ひそひそと話をしていたが、フェンヌは時々「静かに」と注意をしても、あまり改まらなかった。この者たちは今自分が置かれている危険を自覚しているのだろうか。フェンヌはうんざりしていた。
「あの……」
女の一人、トモが遠慮がちにフェンヌを呼んだ。
「眠らせるだけじゃあ、後ろから追いかけてくるんじゃないですか?こわい…」
フェンヌは呆れた。
「殺せば、騒ぎになる。後で交渉をするにしても、こっちが手を出していると不利になる。この島全体が、あいつらのテリトリーなんだ。敵かどうかもわからない、どれほどの規模の集団なのかもわからない。それなのに初めから敵対する必要があるか?」
「でも……私後ろを歩いてるから、怖いんです」
正確には、最後尾を歩いているのはコールなのだが、彼女には見えないのだった。
「大丈夫。追いかけてきたとしても、襲ってきたら私がすぐ凍らせる。」
フェンヌはそう言い捨てて、反論を受け付けないと言わんばかりに踵を返して歩き続けた。
洞窟はそう深くなく、すぐに出口が見えた。外には見張りがひとりおり、フェンヌは見張りを眠らせた間に森へと逃げ延びた。どうやらこの洞窟は、彼らの本拠地ということではなく、単なる蝋のような役割を持っているらしい。ということはしかし、彼らの本拠地もこの近くにある可能性は高かった。
フェンヌはできるだけ藪の生い茂った方へと進んだ。人の歩いた跡がある道を進むと、彼らの本拠地に近づいてしまう。まずはこの女たちを野営地へ送り届けて保護し、それから小隊を組みなおして再度探索に出ようと考えた。
森を進むと、いつの間にか谷へ迷い込んでいた。岩場が増え、見通しがよくなり、フェンヌは空を見上げた。すると弱弱しく、そう遠くない森の中から白煙が上がっているのが見えた。
フェンヌは白煙を目指して進むことにした。