003
気が付くとフェンヌは、一人薄暗い洞窟の中にいた。見渡すとそこは小さな空間になっていて、通路が一本どこかへ延びていた。
ルミナスは起き上がって周りをよく確かめた。すると薄暗い中に、コールが影のように佇んでいた。
「コール、皆は?」
「皆。君を探してる。君を知らない人も。でも知ってる。」
「? とにかく、この島のどこかにいるんだな。あれは裂け目だったのか?でも、あなたが一緒でよかった。」
「一度離れそうになった。皆、君を心配した。僕だけが道を選べた。きみについて行こうとした。」
「そう、私の所へ来てくれたのか、ありがとう。」
フェンヌはとにかく外へ出ようと思った。通路を進んでいくと、かすかに灯りが見えた。
「泣いている。絶望。死を恐れてる。だけど大丈夫、君が来たから。」
コールが囁いた。フェンヌが進んでいくと、広い空間を見つけた。そこには小さな篝火がいくつかあって、部屋の様子がよく見えた。
部屋には武装した男が一人、捕えた人間の見張りをしている様子だった。よく見ると男は真っ白で、額から角が生えていた。普通の人間ではないらしい。
しかし見たところ、そう腕が経つ様子もない。立ち姿は隙だらけだし、武器も無骨な短い棍棒だ。リーチの差で言えば、飛び道具や魔法を使えるこちらから仕掛ければまず負けることはないと言える。
男は人間を脅しているのか、時々棍棒を振りかざしたりして、人間の悲鳴が響く。
「君はいつも生クリームを凍らせてアイスクリームを作るときのようにそれをする。大丈夫、君は失敗しない。」
コールのささやきを聞きながら、フェンヌは魔法を放った。
棍棒を振り上げた男が凍りついて固まった手ごたえを確かめて、フェンヌは部屋へ入って行った。
柱に縛り付けられた人間が涙で濡れそぼった顔でフェンヌを見た。コールがふたりの縄を解いてやり、解放されるとふたりはしくしくと泣き始めた。ふたりともまだ若い女だった。
「なぜ囚われていた?」
フェンヌが問うと、ふたりは力なく「わかりません……」と呟いた。そこでフェンヌは、氷づけになった男を振り返った。
「おい、テメェ!ぶっころしてやる!」
「まだ元気だな」
振り向きざま男に怒鳴りつけられ、フェンヌは魔力を強めて男の足元の血をさらに凍らせた。
「どうだ?足が凍っていくのがわかるか?血管の一本一本が、ほら……パキパキいってる。今ちょっと蹴っ飛ばしたら、あなたの足はぽっきり折れてしまうな…。」
男の顔が青ざめ、口をパクパクさせて震え上がった。
「助けてほしいのか?では教えてくれ。彼女たちはどこから、何のために捕まえてきたんだ?」
「し…知らねえ!こいつらが、いきなり森に現れたんだ!だから、怪しいと思って……」
「なるほど。わかった。ところで、あなたたちはこの島にはいつからいるんだ?」
「いつからって……生まれた時からだ!俺たちはもうずっとこの島に住んでる。侵入者を捕まえて何が悪いっていうんだ?」
「ふん……一理ある。」
フェンヌが頷くと、人質だった女たちが震えあがった。
「でも彼女たちは侵入者ではなく、迷子だ。私たちが連れて行って保護する。私たちも彼女達も、あなたたちの領地からいなくなる。それでいいな?」
「そ……それは……でも、長が何と言うか……」
「長?長がいるのか?」
フェンヌが言うと、男はしまったとばかりに息をのんだ。
「会わせろ。聞きたいことが山ほどあるんだ。」
カレンは岩場で目が覚めた。直後、頭上を大きな影が横ぎって行った。あわてて立ち上がって天を仰ぐと、真っ白なドラゴンが飛来していくのを見た。
そして空を見て、のろしが上がっているのを見つけた。のろしを持っているのはトムだ。カレンは急いでその方角へ向かった。
それはそう遠くない場所で、数刻で辿り着いた。しかしそこにはほとんど燃え尽きたのろしの残骸だけがあり、トムの姿はどこにもなかった。フェンヌやコールの姿もない。彼女のことが心配だったが、どこにいるのか見当もつかず、カレンは地面を打った。
しかしのろしが上がったのだから、野営地設営班が動き始めたはずだ。誰でもいいから今はとにかく誰かと合流しなければと思った。カレンはのろしの残骸を集め、また火を起こそうとした。
その時、岩雪崩が起き、カレンは危うく雪崩を逃れた。危ない所だった。しかしのろしは完全に埋まってしまい、白煙が消えてしまった。カレンは大きなため息を吐いた。そしてとても喉が渇いていることに気が付いた。
ここは岩場だったが、奥の方に白い草が群生している林があった。植物があるという事は水もあるに違いない。カレンは林の中へ足を踏み入れた。進むにつれて、林は森へとかわった。
すると剣声が聞こえてきた。カレンは走った。トムかもしれない、と思ったのだ。すると思った通り、黒い鎧の男の後ろ姿が見えて、カレンは安堵した。
「トム!」
カレンが呼びかけると、トムが振り返った。その後ろには、見知らぬ女が一人いた。
「良かった、無事合流できたな。フェンヌ……審問官とコールは?」
「すまないが、俺も二人には会ってない。」
「……そうか」
カレンは肩を落としたが、何とか気を取り直した。
「……そちらは?」
「迷子だそうだ。気が付いたらこの森にいたらしい。今、熊に襲われていてたのを見つけたんだ。」
「熊?熊がいるのか!」
トムの言った通り、傍には真っ白な熊が横たわっていた。その腹からは、深い真紅の鮮血が流れている。
「ここでは熊も白いのか……。」
そう呟いてから、カレンは女に向き直った。
「あなたは白くないな。この島の者ではないのか。」
「違います。気が付いたら、ここにいて…友達ともはぐれてしまって…」
「友人と一緒だったのだな。何人だ?」
「ふたりです。ふたりとも、女です。」
「そうか。わたしは見ていないな…」
「俺もだ。」
トムは肩を竦め、ため息を吐いた。
「とにかく、一緒に行動した方がいい。わたしたちも仲間を探しているんだ。一緒に友人も探そう。」
「あ…ありがとうございます。」
そうして三人は、森の中を歩き始めた。