ShortStory

あなたの香りに包まれて



あなたの香りに包まれて、今宵もあなたの夢を見るの。





「周助……ッ!」

「大丈夫、ココにいるよ」


夜中に突然、目が覚めてしまった。
今夜は彼氏の周助の家に、久々のお泊りの日。
それなのに、ちょっと嫌な夢を見ちゃって。
思わず周助の服の袖を掴みながら名前を呼んでしまった。


「ごめんね、寝てたでしょ?」

「ううん、雫の寝顔見てた。そしたら眉間に皺が寄ってて、ね」


クスッと微笑むと、周助は優しく頭を撫でてくれた。
それがあまりにも気持ち良くて、もっと撫でて欲しいな……なんて思う。
それを知ってか知らずか、周助の頭を撫でる手は止まらない。


「嫌な夢でも見た?」

「うん……。ちょっと」

「どんな夢?」

「それが覚えてないんだ……」


目をつぶって思い出してみる。
いくら記憶を辿っても、ついさっき見た夢がどうしても思い出せない。
ただ、怖かったということだけ覚えてる。


「…ヤバイ、老化現象かも」

「あはは。大丈夫だよ。夢を忘れるのが脳の正常な働きなんだから」


ふんわりと笑う、周助。
その笑顔にどこかホッとする。
あたしも一緒になって微笑んだ。


「良かった」

「ん?何が?」

「漸く、雫が笑ってくれたから」


ぎゅっと抱きしめられる。
周助の胸元に顔を埋めると、周助の優しさが伝わってくる。

体温を通じて、一緒に鼓動する心臓。

それだけで眠りにつけそう。


「眠い?」

「うん……。ちょっと」

「なんだ残念。眠れなかったらここで運動でもしようかと思ったのに」

「ちょ、な!ヤダ、何言ってんのよッ!」


こうやって、あたしをからかうあなたが好き。
こうしてくれるのは……あたしだけって知ってるから。
ますます好きになってしまいそうだ。


「あれ?何考えたの?僕、運動としか言ってないよね?」

「〜…ッ!周助ぇ〜!」

「もう、可愛いんだから。そんな真っ赤にされたら、抑えがきかなくなるでしょ?」


更に強く抱きしめられる。
周助の鼓動が少し早い。
鼓動が早いのはあたしも同じ。
あたしも……どこか抑えがきかなくなってしまう。

そのまま顔を埋めてると、鼻にふわりと周助の香り。
優しくてあったかくて。
あたしの一番大好きな香りだ。

思わずあたしも、周助を強く抱きしめた。


「雫……?」

「周助の……匂い。すごく好き」

「僕の?」

「うん。こうやって包まれてると、とっても幸せ」


顔を見上げると、少しはにかんだ周助。
愛しくて切なくて。
たまらない気持ちが溢れて、周助の唇に自分の唇を当てる。

恥ずかしいから一瞬だけ、だけど。


「雫……」

「ご、ごめ。キス、したくなって……」

「雫からキスしてくれるなんて。ヤバイな……」

「え?」

「ますます抑えがきかなくなっちゃうよ」




たまには夢に起こされてまいいかもしれない。

だって、あなたに触れられるんだもの。

あなたの香りが優しいから。
好き、だから……。


これが夢なら覚めないで欲しいな。











あなたの香りに包まれて
(責任、とってね。僕をその気にさせたんだから)(もう!始めからその気だったんでしょ?)(気付いてた?かなり抑えてたんだけどな)
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