ShortStory

悪戯なキス



そんなキス……。
あたしは知らない……。









それは放課後の事だった。
周助の部活は既に引退を迎えていて、二人で一緒に帰る事が当たり前になってた頃。
あたしと周助は半年前、周助の告白から恋人という関係になった。


「雫、寒くない?」

「うん、平気。周助は?」

「これでも鍛えてるからね。大丈夫だよ」


この関係に慣れてきたとはいえ……まだぎこちないあたし。
だって、彼は青学一有名な部活にいた有名人なわけで。
差し出された手を素直に繋ぐことさえ躊躇ってしまう程、あたしはこの人に緊張をしてしまう。

だからなのか。
周助は無理強いを絶対にしてこない。
手を繋ぐのだってキスをするのだって……あたしが一々体を震わせてるから。


「……何、考えてるの?」


頭を優しく撫でられた。
その何気ない行為にでさえ、あたしの心臓は一気に心拍数が跳ね上がる。
顔が……熱くなる。
何て言葉を発していいかも分からなくなる。


「……ッ、あ、あのね!友達が周助が優しすぎる〜って言ってたの、思い出したんだ」

「僕が?」

「うん。あたしが緊張してるの分かってて優しく接してくれるの、皆が羨ましがってた」

「……へぇ」


周助の足が止まった。
変に思って、あたしも足を止めた瞬間。

いきなり強い力で引っ張られる。


「へ……?え!ちょ、周助?!!」


訳が分からずに、周助が引っ張るがまま後を追う。

ど、何処に行くんだろう……。

そんな事を頭に掠めた時、近くの小さい神社に辿り着いた。
境内に連れて来られると、いきなりあたしの背中には壁を感じて、目の前は距離にして数センチの周助の顔がある。


「し、周助……?」

「そんな真っ赤な顔されたら……いくら優しい僕だって、我慢できないよ?」

「え?な、なに……ッ!」


何?どうしたの?と発しようとした時、あたしの唇は周助の唇で塞がれて言葉が出なかった。

重なりあった唇同士、熱を持ってるみたいに熱くなる。
気が付いた時には、周助の舌があたしの口内を捕らえてた。


「ッ……!」


あたしの口からは、自分でも聞いたことがないような声が漏れる。
周助にキスされてる事もあたし自身の声も恥ずかしくて、頭の中は真っ白。
何を考えていいのか分からない。
こんなキス、あたしは知らない。

でも。
でも……分かる事は。
この周助の甘い激しいキスが……。

気持ちいいって事。


「……フフ、やらしい顔してる」

「え……?あ……ッ!」


漸く離れた周助の唇から光る一筋。
自分の唇に繋がっているのが分かると、思わず手で覆い隠してしまう。


「隠さないで。僕に見せて?」

「や、だ……。恥ずかしい……」

「僕だって普通の男だからね。雫に色んな事したいんだよ」

「い、色んな事…ッ?!」

「でも強要しても雫を傷付けるだけだから。我慢してたんだけどね。あんな顔されたら本当に我慢の限界」

「周、助……」

「嫌、だった?」


少し屈んで、あたしと目線を合わせる周助。
心配、そうな顔してる。
そんな周助を慰めるようにあたしは微笑んだ。


「雫……?」

「少し驚いたけど……。嫌、じゃないよ……」


コツン、と額同士が重なりあう。
身体中の熱がどんどん上昇するのが分かる。
周助にあたしの熱が移ったらどうしよう、なんて思った。





そしてそのまま、あたし達はキスを繰り返す。
あなたのその唇で、あたしの知らないキスを教えてくれるように。


熱く……甘い。
そんな蕩けるようなキス。















悪戯なキス
(良かったみたいだね)(…何が?)(キスの具合)(…ッ!バカ…)
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