今からきみに告白します

越前リョーマ

リョーマに名前で呼ばれて、更に手まで握られて。
あたしの頭の中は、お花畑にまで発展してる。
いつも黙って試合に行っちゃうくせに、あたしに告げてくれたのは……。

あたしがリョーマの隣にいてもいいって……こと、なのかな。


「リョーマ!」


でも、淋しい思いはさせたくないから。
笑顔で見送ってあげることが、今のあたしにできる最大限の思いやりだと思う。


「出発まで、あと二時間もあんのに」
「アンタだって一緒じゃん」
「俺は手続きとかあるでしょ」


いつもの笑顔を見せるリョーマは、昨日の初詣とは一転して和やかだ。


「手続き終わってるの?」
「終わったよ」
「じゃ、ちょっと……ブラブラしようよ!あたし空港初めてなんだ」
「いいけど……」
「話したいこともあるし、ね」


初詣の時とは逆。今度はあたしがリョーマの腕をとって、歩き始めた。
荷物を預けた後、コーヒー片手に免税店をブラブラして。
時計の針が、出国時間をあと一時間切ったところで、ゲートの近くの椅子に座る。

本当に、デートみたいで楽しくて。
こうやって二人で並んで歩いたりするの……あと数十分なんだな。
あ、ヤダ。急に切なくなってきやがった。
ダメダメ。明るく送り出すんだろー!


「あ、あのさ」
「ん?」
「話したい……ことなんだけど」
「あー……言ってたね。何?」
「あの、ね。改めて言うけど、試合……頑張ってね。どれくらいで戻るか分かんないけど……その、応援してるから」


本当に言いたいことは言えない。海外に行く前に、変なこと考えて欲しくなかったから。
モチベーションが下がるかもしれないし。本当は淋しい、なんて……。

リョーマには本当に笑顔で送り出したいから。困らせたく……ないから。


「……あのさ、凛。俺のこと好きって言ったじゃん?誕生日ん時」
「ぶ……。何で今そんなこと……」
「今もそれは変わらない?本当にこんなヤツ好きなの?」
「バッ……バカ!当たり前でしょ!だったら初詣行ったり、こうやって見送りにだって来ないわ」
「ふーん。なら、いいんだけど」


な、何なんだコイツは。何を言いたいんだ?
こんな、もうすぐ日本発つ人間が、人の気持ち聞いてどーするつもりってんだ。
そんなこと言われたら、あたし泣いちゃうじゃん。発つ瞬間まで忘れていようって思ってたのに。


「俺も凛が好きだよ」
「あーもー何言っ…………はい?」
「だから、俺も好きって。曖昧だったでしょ?返事」
「あ……あの、」
「正直、俺の隣にいてくれてたのって、ずっとアンタだった。気付くの遅かったけど……色々とサイン出してたよね」
「いや、あの!リ、リョーマさん?」
「何?」
「ちょ、何かさらっと言いのけたけど……あ、あたしのこと……」


慌てすぎて、何を聞きたいのか分からない。えっと。リョーマがあたしを……?


「まぁ……。失恋のこと、予想以上に気持ちがスッキリしてたのは、アンタが隣にいてくれたからだし。ケリつけてきた日に凛が泣いた時……泣かせたらダメだなって思ったんだよね」
「う、そ……」
「……何回も言おうか?凛が好きって。それとも本当は俺のこと、好きじゃない?」
「まままま待って!違う!好き。リョーマのこと好きだよ!だって……まさかこんなとこでそんなこと言うとは思わなくて」


ヤバい。涙が出そうだ。何で泣かせようとするかな……。
もう、顔の熱がありえない位上がってる。リョーマのことを直視できない。


「本当は昨日言うつもりだったんだけど……。タイミング見失って。だって、名前呼んだだけで、あんなに顔赤くするとは思わな……」
「だーッ!や、やめろ!い、今だってアンタに名前呼ばれるの恥ずかしいんだ、か……ら……」


空港内にアナウンスが流れる。出国の合図だ。
リョーマが溜息まじりに、手荷物を持って席を立つ。
慌てて後を追うけど、振り返らないリョーマにちくり、と胸が痛くなった。

その足が、ゲートの前で止まった。振り向いて、真剣な顔して。


「……一度しか言わないから、よく聞いて」
「……リョーマ?」
「今からきみに告白します。俺はきみが好きです。これからも……俺の隣にいて、俺の支えになってくれませんか?」
「……ッ!!!!」


リョーマにしては丁寧すぎるその告白に、あたしは涙が溢れた。
心臓が高鳴って、うるさい。あたし、今、どんな顔してる……?


「因みにイエスしか聞きたくないんだけど」
「……そんなの勿論、イエスだよ!」


泣きじゃくった顔を隠されるように、リョーマが近付いてきて抱きしめられた。
あたしはできるだけ、笑顔になったつもりだったけど、リョーマから見てそれは酷いものだったかもしれない。


「ちょ、人見てるよ」
「その辺にも同じような人いるから大丈夫だよ」
「……頑張って、きてね。あたし待ってるから」
「うん……。あ、」


何かに気付いたリョーマを見上げようと、体を少し離したら。
不意に頬へ降ってきた唇の温もり。小さい口づけの音が、耳に残る。


「な、ななな何……ッ!」
「続きは帰ってきてからね」
「バ、バカッ!は、早く行けって!」


手を降って見送る先には、今までの中で一番の笑顔。
胸が苦しくなるくらいの、大好きな笑顔。


「いってらっしゃーい!」
「いってきます」


それだけであたしは十分。アンタで胸がいっぱいだから。
淋しい、なんて言ってらんない。帰ってきた時まで、それはお預け。

始まったばかりのあたし達の恋は。きっとあまりにも初々しくて、ぎこちない。
けど、あたしは自信持って言えるんだ。


ずっと好きでいられるって……。




「大好きだよ、リョーマ!」










今からきみに告白します


**Fin**
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