ストーカーを始めて数日。テレビでゆく年くる年が放映されてる。紅白はさっき白組がまた勝ってた。
そう。とうとう年が明けてしまったのだ。
(いや、別に何かあるって訳じゃないよ!)
剥きかけのミカンが、炬燵の上で転がっていくのが見えて、慌ててそれを口の中に放り込む。
それだけぼーっとしてるのは、ここ数日間のリョーマの優しさに浸ってるから。
うん。ばかみたいだ。
十二時回ってからの、あけおめメールに躊躇してから暫く経つ。
頭を悩まして、ぼーっとしてを繰り返していたら、突然インターフォンが鳴るのが聞こえた。
えー誰よ?唯か?新年とはいえ、こんな時間に来るヤツなんか気がしれない。
唯だったら、超文句言ってやる。
すると、玄関で対応していたお母さんが、目を輝かせてあたしの前までやってきた。
「ちょっと!カッコイイじゃない!もう、アンタったら」
「は?何?話が見えないんだけど」
「ホラ!着替えてきなさい!ジャージなんて脱いで!着替えて外出れば分かるから!」
意味が分からないまま、とりあえず着替えて外に出ると。
何故かそこには、寒さに若干震えてるリョーマが立っていた。
「寒い。遅い。あと……薄着すぎ」
「な、ちょ!!何、やってんのアンタ!」
「あ、新年明けましておめでとう」
「あ、こちらこそ……じゃなくて!こんな時間に何しに……」
「初詣、行かない?」
そりゃあ、二つ返事で「うん」としか言えないに決まってるじゃん。
し、新年早々……寒さ以外で顔を赤くしてるのはあたしだけかもしんない……。
「うあー!結構人いんねー!」
近場の小さい神社でも、結構な賑わい。
出店なんて出てるし。初詣、凄いな。
「みんな、いい年にしたいんでしょ。神様に願掛けしたって、結局自分の努力次第……」
「……じゃあ何のためにアンタは来たんだよ」
「あ、そういえばそうだね」
賽銭箱に五円玉を放り込んで、鈴を鳴らす。
どうかこの恋が、終わらない恋になれ……。そう、願わずにはいられない。
横目でリョーマを見遣ると、凛とした横顔が見えた。目を閉じて深く何かを願っていて。
あー……リョーマと一緒に初詣なんて、去年のあたしなら考えもしなかったことだ。
「いい?」
「うん。……じゃ、帰る?寒いし」
願い事を終えて、神社を出ようとしたあたしの腕を、リョーマが握り引き止める。
チラッと見えた右腕の時計。あー……してくれてるんだ。えへへ、嬉しいな。
じゃなくて!え、何?ににに握られてる?!頭ん中、真っ白になるじゃんかッ!
「ちょっと話があるんだけど。少しいい?」
「は、話って……?」
「ちょっと、こっち。アソコ、座ろ」
促されるまま、境内にある石段に腰を下ろす。
ななな何?この雰囲気……ッ!き、期待していいの?いやいや、ダメだろ。あー!思考回路が明らかにおかしい!
顔の熱が、どんどん上昇する!寒いのに暑い!
「で、何?どうかし……」
「試合、決まったから。明日、日本発つ。あっちで色々と体慣らしたいから」
「……あ、そう、なんだ」
顔の熱が、急激に奪われていく。
それはいつものあたしに戻れ、というシグナルのようにも感じた。
でも、一番の理由は。リョーマが日本からいなくなることが……嫌、ってことだ。
「アレ?意外にも冷静だね。何か取り乱すかと思った」
「ちょっと。ソレ、どこの女だよ。……そっか試合、かぁ。うん、頑張って!」
「……まぁ、世界ランクの上位がゴロゴロいるような試合だからね。自分の持ってる力、最大限引き出せるように頑張るよ」
「あんなにテニス強いのに……」
「俺もまだまだ、だからね」
自嘲気味に笑みを零したリョーマが、何だか淋しげに見えた。
何か嫌だ。あたし、リョーマに淋しい思いをして欲しくない。もっと明るく……明るく送り出さなきゃ!
「あ、あのさ!今度日本帰ってきたらさ!また皆で遊び行こう?ね!それを励みに試合、頑張ってきて!」
「……そうだね」
「ホラ!んじゃ、帰ろ!今日は一日ゆっくり休んで……。元気出していこ!」
「ねぇ、二宮」
「ん?」
不意に心臓が高鳴った。だって……今までにないくらい、リョーマが真剣な目であたしを見たからだ。
か、顔がまた……熱くなり始めた。どういう表情をしていいか分からなくなる。
「……名前で呼んでいい?」
「は、はぃ?」
「二宮じゃなくて、凛で」
「な、なん…で」
「……呼びたいから。ダメ?」
ダメだ。心臓の音がうるさすぎる。
なんで?どうしちゃったの?そんなこと言われたら、あたしどうしたらいいか分かんないよ。
「いい、けど……」
「……凛」
「はははははい?!」
「顔、真っ赤」
「ううううるさい……」
リョーマがあたしをどんな風に思ってるのか、期待してる自分がいる。
それが信じられなくて、曖昧だったリョーマの答えが頭の中を何度も過ぎって。
だからか、あたしはそれ以上、何も言えなかった。考えられなかった。
極度の緊張に襲われる中、すっかり冷たくなっているあたしの手を、リョーマが握ってくれていたって。
ただ、ずっと。俯くしかできなかった。
「凛、耳まで真っ赤だよ」
「……さ、寒いからだよ、ッ」
終わらない恋になれ
(握られてる手がジンジンする)(寒いからじゃない。リョーマに握られてるから、だ……)(離したくなくなるよ、こんなの……バカ……)
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