深追いは禁物

越前リョーマ

「ねぇ、テニスしない?」
「は?」


もう逃さない、アンタのこと。





「って、ゲームの話?」


土曜日の午後。練習が終わって凛が俺の部屋にやったきた。
最近は、なぜか俺が帰ってきたことを確認してから部屋にやってくる。

なんでだろうね。


「そうそう!昔のゲームなんだけどさ。リョーマの部屋に機械あったの思い出して」
「桃先輩にもらったヤツね」
「登場キャラを特訓してレベルあげてさ、最強チーム作れるテニスゲームなんだけど。結構おもろいんだよ〜」
「ふーん」


既に棚の中で埋もれてたゲーム機を、なんの断りもなく部屋のテレビに繋ぐ凛。
そんな昔のゲーム機、なんでアンタが知ってんのって話だけど。意外とこーゆーのが得意なんだっていうの、ついこないだ凛の友達から聞いて知った。そーゆーの、全然コイツ話さないんだよね。


「よーし、できた!どれどれ……あ!映った映った!」
「よかったね」


なんだよ。せっかく午後練が休みなのに。
俺じゃなくてゲームに夢中なわけ?
俺はカルピンずっと撫でてりゃいいの?


「なに拗ねてんのよ。はい、コントローラー」
「は?」
「言ったじゃん。テニスしよって」
「え?コレ?」
「そー!普通にアンタに勝てるものって、もうゲームぐらいしかないじゃん。ぎったぎたのボッコボコにしてやんよ!」
「……ナニソレ」


はぁ……面倒くさ……。

だからと言ってやらなければ、凛が不貞腐れてこっちが面倒くさくなる。
仕方ないからベッドでカルピンを撫でてた手をやめて、凛の隣へ席を移した。
カルピンは俺よりも凛のほうが好きみたいで、凛がくる日は決まってそばを離れない。
凛も凛でカルピンに甘えられるのが嬉しいのか、いっつも喉元を指先で撫で回す。

だから邪魔すんなって言ってんのに。
どっちが恋人なんだってたまに思う。
いや、猫に嫉妬って……俺も大概なんだけど。


「ほれほれ、アンタの好きなテニスで勝負だよ〜!ふふふふふふ!」
「気色悪……」
「うっさいなぁ。いーじゃん!」


凛にコントローラーを渡されて、簡単に操作方法を教わった。ボタンを押せば、ゲームのキャラが結構イメージ通りにラケットを振る。
凛がチームを選択してゲームが始まる。団体戦みたいにチーム対抗なんだって。

ふーん。まぁ、いいけどね。なんかこのキャラ誰かに似てるけど。


「よーし、見てろよ〜!とうとうリョーマの手が地につく瞬間を押さえてやる……!」
「なんでそんなに熱いんだよ……」
「アンタの負けたとこが見たいから」


目を輝かせて、テレビを食い入るように見つめる凛。ナニソレ、俺にもそんな目したことないじゃん。つーか負けたとこ見たいってなに?


「0-15!」
「サービスエースぅ〜!」
「ちょ、なに今のサーブ。普通じゃないじゃん」
「あたしが鍛えに鍛えた厳選チームなのだよ、リョーマ君。取れるかなぁ〜取れないだろ〜なぁ〜」
「……にゃろう……」


あの凛の顔。超ムカつく。
たかがゲームとはいえ、凛にあんな顔されたら腹が立ってきた。

どんどん凛のキャラのサーブが決まって、俺は手も足も出ない状態。しかも試合が進むと、なんかやたらと技みたいなの出してきて全然取れない。
しょーがないじゃん、やったことないんだから。
にしても、点が入るたびにやたらとムカつく顔をする凛に、さっきまでの感情なんかどっかいってしまった。

いや、本当にムカつく。なんなのアンタ。本当に俺の彼女なわけ?


「きゃー!勝ったぁ!」
「……クソ……」
「やったー!一試合目勝ちぃ〜!ようやくリョーマに勝てるの見つけたぁ!」
「ムカつく。そもそもやったことないヤツに勝って嬉しいの?」
「へっへー!そういうのは勝ってから言いなさい、リョーマ君」


ニヤニヤした顔でこっちを見たから。
さすがに俺も黙ってられない。
頭きた。黙らせてやる。


「凛……」
「ん?はい?」
「いい加減にしろって」
「え?あ、っ、きゃっ……!」


ゲームではまだまだ勝てないかもしんないけど、こういうことなら俺のほうが上手だと思うんだよね。


「ちょ、リョーマ!なに……」
「黙って。本当にムカつく」
「やめ……ん、ッ!」


なかば強引に凛の唇を奪う。
ベッドに上半身を押しつけて、両手も使えなくして。
ジタバタ動くから、その足を自分の足と絡ませて大人しくさせた。

長く深い口付けに、凛の息があがって甘い吐息がもれてくる。
苦しそうに顔が動くから、仕方なしに離れる。すると息遣いが荒い凛が、瞳を滲ませ睨んできた。

そんな目で見ても怖くないけどね。


「勝てないからってこーゆー手に出るの、やめてくんない?」
「凛が騒ぎすぎなんだよ」
「負けず嫌いなんだから」
「知らなかった?」
「……知ってる」
「じゃあいーじゃん。凛が望んでたんでしょ?こーゆーこと」


いかにも「しまった!」という顔して逃げようとするから。
もう一度、深いキスを贈った。

今更逃がすわけないじゃん、アンタのこと。
俺をあんだけムカつかせたんだから、覚悟しといてよね。














深追いは禁物
(あ、待った)(え?なに?)(カルピン外出さなきゃ)(はぁ?これ以上なにする気?!)(決まってんじゃん。セ……)(ああああああ!言うなっつーの!)
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