欲張りになって

越前リョーマ

あたしだって欲はある。
それなりにだけど。
素直になれないけど。

アイツがどこまでわかってんのか知んないけどね!











「泊まってけばいーじゃん」


久しぶりに日本に帰国したリョーマは、なんだか一回りも二回りも大きくなったような気がした。
離れてた間なんて感じさせないくらい普通。
そう、普通すぎてあたしはちょっとむかっ腹が立ったくらいだ。

いや、マジで普通。
なんなの、その態度。
もうちょっとさ、甘えるとかさ。
寂しくなかったんかいってツッコミ入れそうになるくらい。
しかも、あまりにも普通すぎたから帰ろうとしたらコレだよ……。


「……や、確かに明日休みだけどさ。悪いじゃん、疲れてるとこ」
「は?どーゆー意味」
「時差ボケとかさ。あたしいたら休まんないじゃん」


ちょっと不貞腐れて答えてやった。
困れ困れ。あたしはムカついてんだ。

するとリョーマも同じように不貞腐れた顔をした。
あ、ちょっと怒ってる。
まぁ、怒るようなこと言ったのはあたしだけど。


「なに?機嫌悪いの?なんで?」
「知らなーい」
「なにソレ……」


煽るようなこと言うなって思うけど。
なんだかムカムカした気持ちは、収まりをみせなくて。
いや、だから。普通な態度にムカついてるだけなんだけどさ。
あたしが大人になればいいだけなんだけどさ。

リョーマもリョーマで、あたしの態度が気に食わないのか、なにも言わず不貞腐れた顔のまま部屋のベッドに寝転んだ。
そのままあたしも無言で帰り支度をする。
時間は夜の八時。まだ一人で帰っても、大丈夫な時間帯だと判断したから。


「ねぇ、凛」
「なに」
「本気?」
「なにが」
「帰んの」
「……なんで」
「帰ってほしくないから」


帰り支度の手が止まる。
……ズルい。そんなこと言われたら、どんなにムカついてても許しちゃうじゃんか。
いや、勝手に怒ってたのあたしだけど。
面倒臭い女なんだけど。

なんで今になってそんな甘えてくるんだ。


「かっ、帰ってほしくないとか。なんで今更」
「え?だから今言ったじゃん」
「いや、ちが……だって全然そんな素振りなかったじゃん」
「は?」
「リョーマ全然そんな態度じゃなかったじゃん。久しぶりに会ったのに、さ。あたしがどれだけ……」


ここまで言い放って、しまったと思わず口元を手で抑えた。
抑えたまま横目でチラリと見たリョーマは、相変わらずベッドの上で、顔だけ起こしてニヤニヤしたような目であたしを見てる。
なんだ、その目は……ッ!


「ふーん」
「な、なによ」
「寂しかった?」
「ぐっ……!」
「ホラホラ、素直になんなよ」
「うっ、うっさいっ!」


急激に恥ずかしくなって、手元にあったクッションをリョーマに投げつけた。
リョーマはこれまた腹立つことに、ソレをひょいっと顔を傾げて簡単に避ける。
当たるとは思ってないけどさ!
つーか顔あつっ!体もあっつ!ヤバいヤバい。もうこれは完全に……。


「ほら、おいでよ」


完全にリョーマの術中にハマった。
上半身を起こして、小さく手を広げて、あたしを招き入れる。

こうなったらあたしは従うしかできない。

リョーマのコレを拒否できないほど、あたしはリョーマのことが好きだからだ。
ソレをリョーマもわかってる。

だから悔しいんだってば。


「……むぅ、」
「そんな顔してても、ちゃんとくるんだね」
「わかってるくせに……」
「素直な凛のほうが可愛いと思うよ」
「うぐ……」
「どうする?泊まってく?帰る?」
「泊まってく……」


そのままベッドの上で、強制的に横にされる。
リョーマの腕枕つきで。
目をつぶった整ったキレイな横顔が、あたしのすぐ真横にある。
昨日まではなかった、この時間。
欠伸して、眠そうにしてて。確かに昨日まではここにリョーマがいなくて。

こんな些細なことなのに、あたしはすっかりリョーマに絆されてるせいか、全部輝いて見えてしまうんだ。


「……なに?」
「んーん、別に」
「見惚れてた?」
「……うん」
「え?」
「なによ。素直なほうがいいんでしょ?」
「そりゃそーだけど。なんか気持ち悪い……」
「はぁ?!帰るっ!」
「ウソだよ、ウソ!ジョーダンだって」


顔をあげたあたしに、少し慌てたリョーマが問答無用でキスをしてきた。
帰ってきて、初めてのキス、だ。


「帰んないで」
「……帰んないよ」
「俺、もう限界。少し……寝る……」
「無理してた?」
「いや。してないけど、隣に凛がいると……安心するから……」


そのまま呼吸は規則正しい寝息に変わって。
サラッとそーゆーこと言うから、あたしは余計に動けなくなるんだけど。
まぁ、がっちり押さえつけられてるから動きようもないんだけどさ。

やっぱわかっててやったんかな。
あたしにこーゆー欲があるって。

だとしたら、相当回りくどいことされてる気もしなくもないけど。
それでもソレがいいと思うあたしは、完全にリョーマに心まで奪われてるんだなってつくづく思う。


「無理すんな。リョーマのバカアホマヌケすっとこどっこい」


でもこの心地良さに、一番安心してんのは……あたし。
小さな欲を満たしてくれるアナタが好き。











欲張りになって
(だから無理してないって)(ちょ!起きて……)(凛が俺のことバカにしたから目が覚めた)(……ッ、ね、寝てろっ!)(じゃあ、キスして)
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