ヒートアップ

『で、この映画のラストがな…。』
「わかる!そのシーン、泣いた…!」
『めちゃくちゃええ作品やんな。』
「うん、うん!!」
『自分、オススメの映画とかあるん?』
「いくつかあるよ、えっとね…」
「ちょいちょいちょいちょいちょい!何してるん!?」


電話の向こうの相手といい感じに話が盛り上がってきた時に、突然入って来た声。
その大きさに、目を閉じて携帯を当てていない方の耳を塞いだ。
相変わらず、今日も元気だなぁ。
今日も声大きいなぁ。
今日も髪の色まぶしいなぁ。
そんなことを考えながら、この部屋の主を見上げる。
会話に入りたいのかな。
入れないのはやっぱり可哀想だよね。
心中を察し、そっと携帯を操作してスピーカーに切り替えてあげた。
うん、私すごく優しい。
でもね、何してるん!と元気よく止めに入られたところ申し訳ないけど、電話に出たことにやましい気持ちはないよ。
悪いことをしているなんて微塵も思っていない。
だから、とりあえずありのままの事実を伝えることにした。


「何って…電話。」
「それ俺の携帯やないかい!」
「うん、そうだよ。」
「え、誰と話してるん?」
「侑士くん。」
『今ええ話しとんのに、うるさいわ謙也。』
「あぁスマン…ほなまた出直すわ。」
「はーい、また後でねー。」
「って待たんかい!いや、おかしいやろ!ここ俺の部屋や!それ俺の携帯や!」
『きっちりノリツッコミしてるやん。』
「やかましわ!灯、携帯返しや!」
「あー。」


私から携帯を奪い取った後『もうかけてくんなや!アホ!』と画面に向けて怒鳴り、激しく指で連打した。
きっとそのうち指圧で画面割れるんじゃないかと思う。
謙也に連打された携帯は、怒鳴り散らしてる最中にツーツーという音がスピーカーから聞こえていた。
どうやら、先に侑士くんに切られていたようだ。
その音を聞いて『先に切るなや!』と突っ込む、電話後まで完璧な漫才感。
さすが謙也。
感心してぱちぱちと拍手を送った。
謙也は拍手する私を不機嫌そうな顔で見た後、携帯を床に置いて正座をした。
それに倣って、とりあえず私も座り直すことにした。


「どうして電話出たん。」


聞こえてきた声は、怒ってる。
目も真剣だ。
静かに、怒ってる。
出来るだけ波風を立てないように、出来るだけ申し訳なさそうな顔を貼り付けて、口を開いた。


「画面を………スワイプして。」
「ま、画面にそういう表示出るからな…って方法ちゃうわ!」
「違うの?」
「理由や、り・ゆ・う!」
「携帯が鳴ってたから?」
「それで出るんはおかしいっちゅー話や!」


携帯を部屋に置いていく方が悪いんじゃん…。
そう言おうと思ったけど、やめた。
リズムゲームのごとく正確にツッコミを入れている謙也を、もう少し見ていたくなったから。
やっぱり謙也は見てて飽きないなぁ。


「私だって、いつも謙也の携帯を勝手に見てるわけじゃないよ。今回はたまたま目に入って、たまたま侑士くんだったから出ただけで。」
「侑士からかかってきたからって、電話出るん?」
「だっていつも謙也の話に登場するじゃん、侑士くん。一度話してみたいって思ったんだよね。」
「…。」
「謙也の言う通り、面白い人だね!」


そう言うと、頭を抱えて大きな溜め息を吐かれてしまった。
『侑士のことなんて、話すんやなかった…』と後悔まで口にしている。
勝手に電話に出たことは悪かったなって思ってるよ。
でも、普段あれだけ嬉々として侑士くんとの会話について話してくるじゃん。
侑士くんだって私が電話に出た時に『謙也からよぉ聞いとるで』って言ってたし、私のことも話してるんでしょ。
なら、電話に出てみてもよくない?
とは話が長くなるから言わないけど。
謙也は頭を抱えて崩れた姿勢から座り直して、背筋を正した後に口を開いた。


「あのな…。」
「はい。」
「侑士は、アカン。」
「…はい?」
「侑士は、アカン。」
「いや、聞こえなかったわけじゃなくてね。それはどういう意味で?」
「侑士は女の子にモテんねん。」
「あー、それはわかる気がする。口調が優しいし、話しやすい感じがしたし。」
「その上、認めたないけど格好いい…ような…気がせんことも…ないような…」
「あ、そうなんだ。」


どうしても認めたくないのか、段々と声が小さくなり再び背筋も丸まってきた。
更にはあんなん伊達眼鏡の効果であって侑士の実力ちゃうやろとか、従兄弟なのに何でこんな扱い違うねんとか、侑士のくせに…とまで聞こえてくる。
謙也の中では、よほど侑士くんには負けたくない何かがあるらしい。
そしてこの様子を見る限り、あまり勝てた試しもないと思われる。
何だか急に可哀想に思えてきて頭をよしよしと撫でてあげると、謙也は目線を下に向けたまま小さく呟いた。


「自分、誰の彼女なん?」
「ん?」
「誰の、彼女なん?」


はっきりと2回繰り返された言葉。
そんなの、言わなくてもわかってるはずでしょ?
まぁ…敢えて私の口から言わせたいんだろうけど。
さっきからやけに自信なくしてるし。
肩落としてるし。
背中丸まってるし。
仕方ないなぁ。
謙也の手を取り、ニコッと笑って答えた。


「忍足くんの、彼女。」
「……いや何で名字やねん!ここ名前で言うところやろ!」
「たまには言い方を変えるのもいいかな、と。」
「ここで『忍足くん』言うたらややこしなるっちゅー話しや!」
「あれ、そうだっけ?」
「侑士も、俺の家族も、みんな『忍足くん』になるんやで。」
「あ、本当だ!」


まぁ、知ってますけど。
わかってて、わざと言ったので。
謙也は欲しかった答えが貰えず、子供みたいに顔に不機嫌を貼り付けている。
というか、拗ねてる。
ちょっと意地悪しすぎたかなぁ。
背中を丸めて座る謙也は、少しサイズが縮んだように見えた。


「…やっぱ、灯は侑士みたいなんがええの?」
「会ったことないから、それはわからないかな。」
「絶っっっ対会わせへん。」
「冗談だって。侑士くんと話したのは、謙也の従兄弟だから一応仲良くしておいた方がいいのかなって思っただけだよ。」
「侑士となんて仲良うする必要ないわ。」
「えー、それでいいの?」
「ええわ。侑士と仲良うしてる灯、見たない。」
「駄々っ子じゃん。」
「俺が居れば、それでええやん…。」


小さく聞こえてきた声に、ついに堪えきれず吹き出してしまった。
それが気に食わなかったのか、謙也は更に唇を尖らせてしまう。
まずい、さらに拗ねた。
いや、そういうところが好きだからいいんだけど。
謙也の拗ねる姿が見たくて、いつもつい意地悪してしまうんだよね。
でも今日はこれ以上にないくらい拗ねているから…仕方ない。
そろそろ意地悪はやめて、甘やかしてあげよう。


「謙也ー、好きだよ。」
「…なぁ、灯は俺のどこが好きなん?」
「んー…足が速いとこ。」
「小学生か。」
「じゃあ、キンキラの髪。」
「…他は?」
「あと、勉強終えてくれるとこ。」
「…もうちょっと何かないん?」
「うーん…じゃあ独占欲が強いとこ。」
「それ、好きなとこなん?」
「うん。愛されてる!って感じが伝わるから好き。」


…改めて言うと急に恥ずかしくなってきた。
よし、今日はこのくらいにしておこう。
その代わりにと、ギュッと抱きしめた。
けれど私の回答が不完全燃焼だったのか物足りなかったのか、この程度じゃ謙也の機嫌は直ってくれない。
あれだけのはずないじゃん。
本当は数え切れないくらいあるよ。
テニスボール追いかけてる姿、勉強を教えてくれる時の指、無駄に回転数多いペン回し、真剣に漫才の打ち合わせしてる姿、ハヤブサを見てる時の顔、お菓子の最後の1個譲ってくれるところ。
全部好きだよ。
でもあと少しだけ拗ねてる顔を見たいから、今はまだ教えてあげない。


「ねぇ、謙也は私のどこが好き?」
「そんな料理出来へんとこ。」
「それ褒めてないー。」
「いたずら好きなとこ。」
「ふふ、そこ好きなんだ。他は?」
「笑った顔が可愛ええ。」


そう言って頬にチュッとキスが落ちてきた。
急に真剣に答えられると何か照れるなぁ。
可愛いって言ってもらえたことは素直に嬉しいけど。
謙也は続けて『髪も』『指も』と言いながら、たくさんのキスが落としてくる。
チュッと音が聞こえる度に耳がくすぐったくて、時折『灯…』と切なそうに名前を呼ばれると、何だか居心地が悪い。
たくさん『好き』って言われてるようで嬉しいんだけど…胸の奥がムズムズする。
触れられてる所がくすぐったいし、かかる吐息もくすぐったい。
溶けるような空気に耐えきれず、いつものような意地悪を言おうと口を開いた。
この空気を壊せるような一言を、言おうと。
でも…いくら考えても思い浮かばない。
『耳も好きやで』と急に囁かれ、耳元で聞こえたリップ音に、開いたままだった口から『ひゃっ!』と声が漏れ出た。
慌てて両手で口を押さえたけれど、間に合わなかった。
うわ…はずかしい。
謙也の唇はそのまま首筋につぅっと滑るように移動されて、体が勝手にはねる。


「キスしてる時の声も好きやで。」
「…っ!」
「あと我慢してる時の声。」
「やっ…!」
「感じてる時の声。」
「あ……っ!」


何度も首筋に落とされるキスに、声が抑えられず漏れてしまう。
謙也はその反応に機嫌を良くしたのか、重点的にキスしたり吸ったりしてくる。
ゾクゾクと背筋をかける感覚に、手で口元を押さえていても全く意味を成さなくなっていた。
今、私のどこを好きか聞いてただけだよね。
何でこんなことになってるんだろ…。
涙目になって『も、やだぁ…』情けない声を上げると、ようやく謙也は動きを止めてくれた。
その間に乱れた呼吸を整えていると、名残惜しそうにゆるゆると首筋を離れていく。
向き合った謙也の目は、いつの間にか熱を帯びていた。


「やっぱ…その余裕ない顔が、一番好きやわ。」


そう言って、唇にキスが落ちてきた。
最初は触れるだけの優しいものだったのに、段々と激しいものに変わっていく。
熱に浮かされたように頭がふわふわする。
息苦しさで顔をそらしても、すぐに捕まって逃げられない。
涙で滲む視界が捉えた謙也の顔にも、余裕は全くなかった。

『…私も、謙也のその余裕ない顔が一番好き』

私が一番伝えたかった言葉は、吐息となって二人の間に消えていった。


ヒートアップ


(アカン…もう無理…)
(え、どうしたの?)
(頭…グラグラする……)
(………んんんんん?)
(慣れんこと、するもんやないわ)
(うわうわうわ、ホントに熱あるじゃん!)
(多分……心因性発熱や)
(…雰囲気ぶち壊すような知識、出してこないで)


ああああぁぁぁん、謙也ぁぁあああ!!(煩い)はい!ゆき様より頂きました、記念リクエストの謙也です!あのですね、ゆき様の書かれる関西弁組わたし大好きなんです。本当に。一番は財前ですけどね!そして何より、キャラとヒロインちゃんとのこのやり取りが本当に好き。ゆき様のギャグセンスが関西弁組ではピカイチに光ってるんですよね。侑士然り。(笑)
そしてね、ちゃんと甘いんですよ〜!もう、くぅ!甘っ!!ってなるの本当に凄い。語彙力の塊だわ……。ゆき様の独白部分の表現とか秀逸で、シロサギはこういうところも見習わなきゃなりませんね。でもバカだから(ry)
ゆき様、この度は本当にありがとうございました!遅くなって申し訳ありません!

- 36 -

さいととっぷしょうせつとっぷ