ShortStory

desire



あたしの中でこんなにも。
こんなにも……アナタが大きくなっていたなんて。

ただ、ずっと。





秋色に染る葉が、ひらりひらりと風にのって舞い落ちる街路樹。夕日が当たると光を纏って、まるで星が空から降るようで。

周助が部活を引退してから、毎日のようにこの道を通ってあたし達は通学路を歩く。
通学路の近くの公園は、いつも「おはよう」と「バイバイ」を言うポイント。ここが始まりで終わり。

周助は本当ならバスで通学するはずなのに、あたしに合わせて……あたしの家の近く、この公園まで歩いてくれている。


「ずいぶん肌寒くなってきたね」


周助は少し体温が低くいせいか、この季節になるとマフラーをするようになる。
歩いてるうちに取ることが多いんだけど、家を出る瞬間は寒さが勝ってしまうんだって。
いつも手があたしより冷たくて、その冷たさに「あぁ、またこの季節がきたんだな」って心の中で呟いてしまうんだ。


「周助、体温低いから急に秋がくると堪えるでしょ?」
「特に今年はね。部活ももうないし」
「の割にはテニスバックだよ?」
「いつ呼ばれてもいいようにって思ってるんだけど、思った以上に呼ばれないもんだよ」


ふわり、と優しく笑う周助だけど……本当は少し寂しいんだと思う。
みんな成長したんだな、って感じてはいるんだろうけど。今まであった居場所が急になくなるのは、あたしだって切なくなるものだ。

そんな、毎日のように一緒にいられるようになってから……不意に沸きおこる感情がある。
それは言葉にはしずらくて。寂しいとか、一緒にいたいとか。そんな簡単な言葉では言い表せない。

そんな戸惑いばかりのあたしに、周助はいつも知らないフリして聞いてこないんだ。

こんなにも一緒にいるのに。いつも些細な変化すら見逃さない周助が、このあたしの微妙な気持ちに気付かないはずがない。


「周助、」
「もう……日が傾いてきたね。夜が早い」
「う、うん……」
「冷えて風邪引いたら大変」
「うん……」
「じゃあ……どうする?」


ここ最近のお決まりの台詞。

あたしに全ての決定権を委ねてくる。この別れ際の瞬間を。だから気付いてないはずがないんだ。あたしからこの感情を、紡がれるのを待ってるんだ。

だけど。
それを話せるほどの勇気、あたしにはない。
躊躇ってしまうんだ。どういう言葉が一番伝わるか、わかってないから。

こんななんとも言えないワガママな感情に、周助を付き合わせたらいけない――……。


「雫?」
「あ、う、えっと……」
「どうしたの?」
「あ、あたし……」


でも、言ってしまおうか。言って楽になってしまおうか。
秋風が撫ぜる頬が熱い。紡ぎたくても紡げずに、ただ周助と今、離れたくなくて。
欲深いあたしがチリチリと顔を出す。


「なにか……言いたそうだね」
「ッ、し、周……」
「少しだけ手伝ってあげるよ」


――……思わせぶりな態度はやっぱりワザとだったんだ……。
そんなことが頭の片隅に過ぎっていった。周助は、あたしのこの言葉にならない気持ちをわかってくれてる。理解してくれてる。

だったら。

だったらもう……。いっそのこと、この縛り付けるような深い想いを吐き出してしまおう……。

手伝う、と言った周助は、じりじりとあたしとの間を詰めてくる。
誰もいない公園で、あたしと周助の影だけが伸びる。その影も重なり合うくらい近付いて、周助の匂いが吐息があたしの気持ちを更に加速させていく。

顔がありえないくらい熱を帯びてて、紡ぐ言葉は震えてる。心臓がうるさい。

このまま抱きしめてしまいたい衝動に駆られるけど……抱きしめてしまったら、本当の気持ちを吐き出せないと思った。


「さぁ、雫。僕になにか言いたいこと、あるんでしょう?」
「しゅ、すけ……」
「いいよ。なんでも言って?」
「……ぁ、」
「ほら、言わないと……。僕からその口、塞いじゃうよ?」


あたしの耳元で、甘い声で囁く。
腰の辺りからゾクゾクと粟立つなにかを感じて、体に力がこもってしまう。
周助の腕を思わず掴んだ。そうしてないと立ってられないから。


「……周助を……。周助を、あたしだけのモノにしたい」


そう、心からの叫びに。
全部、全部……あなたをあたしで縛り付けたくて。

こんな嫉妬に似た、あなたが欲しいなんて欲求。
気付かないほうがよかった。
もっともっと大きな心で周助を包み込みたかった。

なのに。

目を薄く開いた周助は、口角をあげてあたしの目を瞳を心を捉える。


「あぁ、いいよ。雫だけのモノになれるなら」


そんな簡単に、あたしを誘惑しないで。
気が狂いそうになる。










desire
(改めて聞くけど、どうしたい?)(……周助の部屋に行きたい……。離れたく、ない。一緒にいたい)(帰りたいって言っても、帰さないよ?)(うん。お願い、そばにいて)
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